窮地の朴槿恵大統領の「起死回生の策」とは?
朴槿恵大統領が窮地に立たされている。昨年2月就任以来、今ほど苦しい局面に立たされたことはない。それもこれも、4月16日に発生した韓国史上最悪の大惨事、客船「セウォル号」の沈没事故への杜撰な対応による。
事故当初は、鄭洪原総理に責任を負わせ、辞意を提出されることで事態を収拾しようと図ったが、トカゲのしっぽ切りでは遺族も世論も納得せず、結局は朴大統領自らが4月30日、謝罪せざるを得ないはめになった。
しかし、謝罪が公開の場ではなく、内輪の閣議の場でやったことで遺族の反感を買ってしまった。そのことは、朴大統領が安山市の合同焼香場を弔問した際に献花した花を朴大統領が立ち去った後、遺族によって撤去されてしまったことにも表れている。
鎮静化を企図した青瓦台(大統領府)の目論見とは裏腹に朴大統領に向けられた非難の声は高まる一方で、それに比例して朴大統領への支持率も急落し、ついには50%を割り、46%にまで落ち込んでしまった。
全国地方自治体選挙(6月4日)を前に危機感を募らせた与党・セヌリ党からの「もう一度国民に正式に謝罪すべき」との「圧力」もあって朴大統領は5月19日、再度国民に謝罪をした。今度は正式に会見を開き、沈没した船から一人も救出できなかったことへの政府の責任を認め、今後は国民の安全を最優先すると涙声で許しを請うた。
朴大統領は就任して以来、この1年3か月の間実に4度も国民に謝罪をしたことになる。それも「セウォル号事件」発生前日の4月15日、韓国の情報機関がスパイ事件を捏造した件で国民に詫びたばかりだった。
しかし、過去3度の謝罪とは違い、今回は涙ながらの謝罪だった。と同時に国民の怒りを買った海洋警察庁の解体を発表した。「カムチャック(びっくり)ショー」とも言うべきこの電撃的発表に国民の誰もが驚いた。
「カムチャックショー」は四面楚歌に立たされた韓国の大統領が形成挽回のためよく使う手だ。前任の李明博大統領は、歴代大統領の誰一人足を踏み入れることのなかった「禁断の地」竹島を電撃訪問して、一時的にせよ支持率を上げることに成功した。また、その前の盧武鉉大統領も大統領選の不正資金問題で窮地に立たされた時、進退を賭けて国民投票に訴えたことで、野党からの大統領弾劾訴追を交わすことに成功している。
予想通り、この「カムチャックショー」で朴大統領の支持率急落も一応は止まった格好となった。謝罪談話後の5月23日に行われた世論調査(韓国ギャラップ調査)によると、朴大統領の支持率は逆に2%上昇し、48%となった。しかし、それでも不支持率も依然として41%もある。また、大統領の謝罪談話をもってしても、与党の支持率は思うように上がらず、むしろ1%下落している。
朴槿恵政権は総理、大統領国家安保室長や国家情報院長らの更迭に続いて大統領秘書官や閣僚(長官)らの人事を一新することで有権者に「もう一度チャンスを与えてもらいたい」と訴えているが、事故発生前は優勢が伝えられていた鄭夢準ソウル市長候補を含め与党候補は激戦区では苦戦を強いられているのが実情である。
朴大統領への信任投票、あるいは中間選挙と位置付けられている今回の地方選挙で惜敗ならば「善戦」とみなされ、自信回復に繋がるが、惨敗ということになれば、朴大統領の求心力はさらに低下し、今後の政権運営が危うくなるだろう。
大統領の場合、違法行為で弾劾されない限り、国会から不信任を突き付けられ、解任されることはなく、5年の任期を全うできるが、大統領が求心力を失った時の世論の風当たりは半端ではない。
仮に今回の選挙で政府与党が「無能な政府に審判を下そう」と呼びかけている野党に大敗するようだと、朴大統領は求心力回復のための新たな手を打たなくてはならないだろう。
その一つが、習近平主席の6月訪韓招請であり、もう一つが、「5.24措置」と呼ばれる対北制裁措置の解除による南北関係の打開である。外交問題と南北問題で目に見える成果を挙げることで、脆弱な政権の浮揚を図るだろう。
朴大統領が手にしているカードはこれだけではない。朴大統領には「奥の手」がある。
謝罪談話で「社会全般の腐敗を摘出する」と強調しているところをみると、かつての大統領のように前任大統領の非を追及することもあり得なくもない。というのも、朴大統領は選挙公約で大統領の親族及び側近の不正腐敗の根絶のための特別検事制度の常設化とともに「大統領親・姻戚及び特殊関係人腐敗防止法」を制定し、特別監察官制度の導入の推進を約束していたからだ。
朴槿恵大統領がどのような手を打つのか、すべては地方自治体選挙の結果次第だ。