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尹錫悦大統領は「悪評」の夫人を庇いきれるか!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹錫悦大統領と金建希夫人(「JPニュース」から)

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は本日(4日)、予定されていた国会での施政演説を取り止め、総理に代読させていた。大統領が国会での施政演説をパスしたのは11年ぶりのことである。

 通常、大統領は予算案審議を前に国会に出席し、議員らの前で施政方針を説明し、理解と協調を求めるものである。ところが、尹大統領は異例にもその貴重な場を放棄したのである。尹大統領は9月に幕を開けた第22代国会開院式にも出席しなかった。大統領が開院式に出席しないのは前代未聞で1987年に憲法が改正されてから初めての出来事であった。

 尹政権を支える与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表が尹大統領に国会に出席し、施政演説を行うよう強く要請したにもかかわらず拒んだのは国会議席の約3分の2を占めている野党が大統領批判を強めていることや世間の風当たりの強さと無縁ではない。

 韓国ギャラップが11月1日に発表した世論調査(10月29~31日実施)によると、尹大統領の支持率は19%で、「支持しない」が過去最高の72%に達していた。大統領の支持率がレイムダックのボーダーラインである20%を割ったのは1990年の盧泰愚(ノ・テウ)大統領以来、実に34年ぶりである。

 「不支持」の最大の理由はいつもの「経済・物価」ではなく、なんと「金建希(キム・ゴニ)夫人問題」であった。

 直近の3回の世論調査結果をみると、23%(10月第2週)→22%(10月第3週)→20%(10月第4週)と、下落の一途を辿っていることがわかるが、「不支持」の理由のトップはいずれも「金建希夫人問題」である。

 韓代表は今朝、国会で開かれた党最高委員会議で「国民が懸念している問題について大統領は正直に詳細に明らかにして謝罪を含め必要な措置を取るべきである」と進言し、金夫人に対しても「直ちに対外活動を中止すべきである」と勧告していた。その上で「今後こうしたこと(不祥事)が再発しないよう予防するための特別監察官を任命すべきである」と毅然とした口調で尹大統領に迫っていた。

 また、2年前の大統領選挙で出馬しながら、途中でレースから降り、尹大統領支持に回った党内の実力者の一人でもある安哲秀(アン・チョルス)議員も昨日(2日)Fbで「大統領の支持率が人気折り返しの時点で10%台に下落したことは重大な危機である」と憂慮を示し、「大統領は支持率暴落の大危機から脱出し、国政を正常化させるため(夫人問題で)国民に謝罪をすべきである。夫人の問題では特段の先制的措置が必要である」と、韓代表と足並みを揃え、尹大統領に国民向け謝罪と「金建希特別法」の受け入れを進言していた。

 金建希夫人については以前からBMWなど国内販売権を持つドイツモータズの子会社「ドイツファイナンシャル」の転換社債を相場よりも安い価格で購入した疑惑をはじめ最近明るみに出た選挙公認への介入疑惑など様々な疑惑が取り沙汰され、何かにつけ尹大統領の足枷となっている。

 亭主関白でなくても妻に「政治に口出ししないよう」釘を刺せば済む話だが、どうやら金夫人は一筋縄ではいかないようだ。

 金夫人の母親の知り合いの紹介で出会った二人は2012年3月に金夫人が40歳になる手前でゴールインしているが、尹大統領の一目ぼれで、口説き文句は「一生、君のためご飯を作ってあげる」だったことは広く知れ渡っている逸話である。

 尹大統領は一回りも年上ではあるが、家庭では「かか天下」らしく、「彼はお金がなく、私とでなければ結婚できなかった。私が1990年代後半からITブームの時に株で金を儲け、事業を拡げ、財産を増やした」と言っているように金夫人からすれば「私が夫を出世させた、大統領にしてあげた」との思いが強いのかもしれない。

 尹大統領にとっては夫人の疑惑を捜査する「特別検察官」を任命する法案(「金建希特別法」)を受け入れるのは絶対に容認できないはずだ。現に、これまで大統領としての特権である拒否権を行使し、2度にわたってこの法案を葬り去ってきた。しかし、与党内でも法案に同調する動きが顕著となれば、いつまでも拒否権行使とはいかなくなる。

 大統領の家族や親族にまつわる疑惑は全斗煥(チョン・ドゥファン)政権以来、歴代政権で何度も繰り返されてきた。例えば、金泳三(キム・ヨンサム)大統領は次男が、金大中(キム・デジュン)大統領は3兄弟が、李明博(リ・ミョンパク)も息子と実兄が、そして独身の朴槿恵(パク・クネ)大統領も友人の「崔順実」が不正収賄疑惑で検察の捜査を受け、全員が逮捕され、実刑判決を受け、収監されていた。また、前任の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にも今まさに、夫人と娘の疑惑が持ち上がっている。

 ちなみに李明博大統領は息子の自宅土地購入疑惑で特別検察官も受け入れ、息子は特別検察制を受け入れた初の現職大統領の子弟として記録されている。

 

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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