金正恩の「凄腕スナイパー」暴走して警察官4人を射殺
北朝鮮の教化所(刑務所)からの脱獄が相次いでいることは、本欄でも既報のとおりだ。
デイリーNK内部情報筋によると、平安南道(ピョンアンナムド)の价川(ケチョン)教化所では昨年1年間に、17件もの脱獄事件が発生している。一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の漁郎(オラン)では、勾留されていた容疑者が、看守を射殺して脱走する事件が起きたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
現地の情報筋によると、この容疑者は金正恩総書記をガードする護衛司令部所属の狙撃手だった。精鋭を集めた部隊だけに、容疑者の腕もなかなかのものだったようだ。だが、実の兄が政権を批判する発言を行った容疑で、管理所(政治犯収容所)送りとなり、家族にも連座制が適用され、弟である容疑者も除隊させられていた。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
情報筋によると、事件が発生したのは先月末のこと。漁郎郡安全部(警察署)に勾留されていた容疑者が、電気修理工事に動員された。工具を受け取った容疑者は、天井の電球を換えようとはしごに登った戒護員(留置係)の後頭部を殴りつけ、倒れたすきに実弾8発が入った拳銃を奪い逃走を図った。
事件当日は日曜日で、留置場には当直の戒護員1人しかおらず、残りは休息を取っていた。意識を取り戻した戒護員が、事件の発生を知らせようとしたが、すでに発生から30分も経った後だった。午後になってからようやく非常招集がかかり、安全部と軍部隊が容疑者の捜索に乗り出した。
容疑者は囚人服を着ていたために、昼間には逃走できず、安全部に隣接する旅館の倉庫で夜が来るのを待っていた。そこへ入ってきた安全員(警察官)2人を射殺し、マンションの地下倉庫に逃げ込んだ。そこで抵抗を続け、安全員をさらに2人射殺したが、結局は自ら命を絶った。
軍人としてのプライドが非常に高かったようで、除隊させられたことを恥と感じ、実家に戻ってからは、配属された職場にも出勤せず、荒れた生活を送っていた。そして、犯罪に手を染めてしまい、安全部の留置場に入れられ、予審(基礎までの証拠固めの段階)を受けている段階で脱獄を図った。彼は教化所(刑務所)に送られることが決まっていたという。
事件直後、地元には外出禁止令が出され、事件のことはあっという間に口コミで広がった。通常なら、安全員や保衛員(秘密警察)が被害者となる事件なら、日頃の行いの悪さから、「やられて当然」と言ったリアクションが出るところだが、今回の場合は、あまりにも残虐な犯行に、「処罰を受けるのは当然」という声が大勢を占めるという。
一方で、兄弟のことをよく知る知人たちは、同情を示している。
「兄が犯した罪なのに、何の関係もない弟まで責任を問われ、強制的に除隊させられた。そんなことをしなければ、事件は起こらなかっただろう」
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
軍を生活除隊(不名誉除隊)させられ、実家に戻ってくると、地域の人からは白い目で見られる。誇り高き朝鮮人民軍の軍人として、耐え難い羞恥だったのだろう。