別名「ロマンス職人」、韓国俳優のヨン・ウジンが語った自身の素顔
別名、「ロマンス職人」。ヨン・ウジンは、一見穏やかで端正な雰囲気をまといながら、観る人のハートを奪う。
ドラマ「39歳」ではソン・イェジンと恋に落ちる歯科医、映画『愛に奉仕せよ』では上官の妻との禁断の愛に嵌る兵士など、幅広い役を堂々とこなす演技派。そんな彼は、現在公開中の映画『夜明けの詩』で扮する小説家の役を「自分にかなり似ている」と評する。
ヨン・ウジンに単独インタビュー。『夜明けの詩』をひも解くうちに彼が語り始めた、家族、素顔の自分、そして「愛」について思うこととは。
――ヨン・ウジンさんはキム・ジョングァン監督とタッグを組むのは『窓辺のテーブル 彼女たちの選択』に続いて2作目です。オファーがたくさんあるなか、『夜明けの詩』に出演しようと思った決め手を教えてください。
前作を撮影した時の良い思い出がたくさんあること、そして監督が僕に、考えるための時間をたっぷり与えてくれたことが決め手でした。監督とまた一緒に作品を作りたいとずっと思っていたんです。シナリオを初めて読んだときは、正直言うと、うまく理解できない部分もたくさんありました。でも、監督がどんなことを考え、どんなストーリーを準備しているのか、どんな作品に仕上げるのか、すごく気になったんです。
『窓辺のテーブル 彼女たちの選択』の時も感じましたが、監督の作品は、映像になるとシナリオで読んだときに抱いた印象よりもさらに深い世界が表現されます。『夜明けの詩』のシナリオに書かれた内容が、どんな映画に仕上がるのか、見てみたかった。ぜひやってみたいと思いました。
――時間を失くした女性、思い出を燃やす編集者、希望を探す写真家、記憶を買うバーテンダー。『夜明けの詩』には4つのエピソードがオムニバス形式で登場します。ヨン・ウジンさんが一番共感したのはどのストーリーですか。
不思議なことに、見るたびに感情が変化し、好きなエピソードもその時々で変わります。でも、最近惹かれるのは最初のストーリーですね。僕自身が母親と一緒に住んでいるためか、母がこれまでどんな人生を歩んできたのか気になることがよくあるんです。今回インタビューを受けるにあたって、『夜明けの詩』をもう一回観ましたが、やはり最初のエピソードで、イ・ジウン(IU)さんが演じる、ミヨンが登場するストーリーに共感しましたね。
僕の母も家族と一緒にこの映画を観に来て、「すごく感動的だった」と話していました。
――最初のエピソードでは、イ・ジウン(IU)さんと共演しています。
現場でご一緒した時間は短く、あまり素で話を交わす機会はなかったのですが、そんななか感じたのは、イ・ジウン(IU)さんは素晴らしいアーティストだということ。芯がしっかりしていて、健康で正しい心をもつ芸術家という印象を受けました。すごく信頼して、安心して撮影に臨むことができました。
共演してから、歌手IUとしてリリースしている曲もたくさんきいてみました。どんな人生観の持ち主なのか、とても気になります。いつかイ・ジウン(IU)さんに伺ってみたいですね。
――さまざまな役に挑んでいますが、素顔はどんな方なのか気になります。本作で演じたチャンソクとのシンクロ率はどれぐらいでしょうか。
かなり似ていると思いますね。シンクロ率は70%ぐらいでしょうか(笑)。実は、チャンソクは監督にも似ていて、監督自身を投影したキャラクターなんです。僕が監督の普段着を着て、監督らしさを映し出せるように努力しました。監督と僕も性格が似ているところがあるんです(笑)。口数はあまり多くないけれど、他者の話に耳を傾けるのが好き。そばにいるだけで周りの人がリラックスできる。そんなところをお互い尊重しているんです。静的な雰囲気がチャンソクからもにじみ出るようになればと思いました。僕自身にも似ているので、チャンソクを演じるのはそれほど難しくありませんでした。
チャンソクと異なる30%は、僕のほうがもう少し陽気で冗談をいったりするところ(笑)。あと、チャンソクよりも親孝行だと思います。僕は両親のいうことをちゃんと聞くほうなんです。チャンソクは僕よりももっと個人主義ですね。
――チャンソクは小説家の役です。ヨン・ウジンさんが小説を書くとしたら、どんなテーマの物語になりますか。
父は画家でした。風景画をたくさん描いていたんです。僕は最近、父がかつて絵に描いた場所をひとつずつ訪れる旅をしています。その旅について文章を書いたらいいかも…と考えてみたことがあります。「父の絵をたどるウジンの旅」という本を。絵を描く父と一緒に、僕はいろいろな場所に行きました。父の作品を見ると、当時のことを思い出すので、それを文章にまとめたいという夢があるんです。絵をたどる旅をしているうちに、韓国には素敵な風景がたくさんあると気づきました。そんな場所で映画が撮られたらいいなあと思って。僕の故郷・江原道にも映画のロケ地にぴったりの美しい場所がいっぱいあるんです。
――ヨン・ウジンさんご自身も本をたくさん読むほうですか。
僕は読書好きに見えるのか、ファンの方たちがすごくたくさん本をプレゼントしてくれるんです。日本のファンも。いただいた本はほぼすべて読むように努力しています。特に詩集をたくさんもらい、ナ・テジュさんの本は家に何冊もあります。
日本の作家では村上春樹さんの「ノルウェイの森」や「アンダーグラウンド」を読みました。日本の文学や文学的な映画にも関心があります。最近、『ドライブ・マイ・カー』を観て、人生で一番と言えるぐらい感動しました。いつか作家性が高い日本の映画に出演してみたいという夢があります。
――ご自身のキャリアについて、さかのぼってお伺いしたいと思います。25歳の時に、映画『ただの友達?』でデビューしました。役者になったきっかけはとは。
高校の時から演劇に関心があって、映画サークルに入ったりしていました。当時韓国の高校では放課後夜遅くまで学校で勉強しなければならないスケジュールだったのですが、僕は授業が終わると映画を観たり、サークル活動をしたりしていました。それが自然にキャリアにつながったんだと思います。大学に進学して兵役を終えたころには、将来の夢が固まっていました。そこから本格的に演技の道を考え始めました。俳優になることができたのは、運と人に恵まれたからです。
オーディションを受けたりしたわけではなく、ある人に声をかけていただいたのが具体的なきっかけでした。そして、台本のリーディングに参加したんです。リーディングは全然上手にできなかったんですけど(笑)。役をいただいてすごく幸運でした。当時の感謝は今も忘れていません。恩返しができるように努力しています。
――ヨン・ウジンさんはラブコメディに定評があり、「ロマンス職人」と呼ばれています。ご自身で一番大切にしている「愛」とは?
愛とは何か。うーん……わからないですね(笑)。作品ごとに僕も学んでいるところです。愛について語ったり定義をしたりするとこと自体、僕はまだそれにふさわしくない人じゃないかと思います。本当に難しいですね。『夜明けの詩』のキム・ジョングァン監督が今隣に座っているのですが、監督が僕のことを「恋愛の技術者」だとおっしゃっています(笑)。恋愛ドラマにたくさん出演させていただいていることに感謝しています。年を重ねながら恋愛に対する気持ちが変化するのを受け止めながら、ずっと長くロマンスを演じ続けていきたいと思っています。
――デビューから14年。競争が激しい韓国の芸能界で、主役の座を守っているご自身の俳優としての強みは何だと思いますか。
振り返ってみると、キム・ジョングァン監督もそうですが、一度一緒に仕事をした監督さんと何度もタッグを組むことが多いんです。コミュニケーションをたくさん取るように努力しています。特別な強みはないけれど、監督と俳優としてではなく、人間同士として語りあい信頼を深められるようにしているんです。それが、僕がずっと仕事を続けられている理由ではないかと思います。
――今後挑戦してみたい役は。
「こんな役に挑戦してみたい」という野望のようなものは特にありません。自分が生きていきながら感じ、得る感情をストレートに表現できる作品に出合えたらいいなと思っています。僕の価値観や哲学を演技に盛り込むことができる作品をやってみたい。これからも良い方たちと一緒に、僕が感じていることを率直に作品で表していければと考えています。
――ひとつひとつの役を演じる際に心がけていることとは。
「キャラクターをデザイン」するという言葉がありますが、僕はいつも役作りに入る前に心を空っぽにするようにしています。そうすることで、自由にキャラクターをデザインできるようになるんです。
撮影をしている時間も大切ですが、むしろ僕にとって重要なのはそれ以外の時間です。たくさん遊んで、いっぱい休んで、心を空っぽにしてこそ、次の作品に挑むパワーが強くなるのだと思います。
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