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いまさらながらの『カメラを止めるな!』#カメ止め の『時空のモンタージュ理論』

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
新宿バルト9で上映中の『カメラを止めるな!』 出典:バルト9

KNNポール神田です。

ほぼ、劇場で観ることをあきらめかけていた映画『カメラを止めるな!』を今さらながら見てきた。いや、もうこれだけ時間が経過したからニュースバリューはないかなと思っていた…。しかも2018年12月5日からは無料で観る方法(U-NEXTの一ヶ月無料)もあるし、Blu-rayやDVDも発売され、さらに来年(2019年)になれば『金曜ロードショー』あたりで地上波初!があると思ったからだ…。

しかし、何度も何度も、ネタバレ記事を読みかけては、途中で、やはり見てからにしようと、悶々としている葛藤の日々をSNSで書き綴ると、観ていた知人たちは、すぐに見に行けという…。そこまで言われれば、12月5日の無料で観られる!と煽るU-NEXTを待つまでもない…。 『夫婦50割り』で映画館へいまさらながら駆けつけた…。

平日、15時30分の新宿バルト9の座席は、いまだに50%は埋まっているという驚愕の興行成績…。まだ観ていない人がこんなにもいたのか!

まさか11月の初旬でこんなに平日の昼刊に、入っている事にも驚いた。そう、ブームになった頃、座席が取れなくて、鑑賞をあきらめたが、今なら観られる。来月には、無料で観られるのにもかかわらず、これほどの人が鑑賞しにきている。むしろ、それは映画の『鑑賞コスト』や『鑑賞時間』よりも、『鑑賞経験』がもたらす付加価値のほうがまだ高いことを証明している。

これで、ネット上にあふれる『ネタバレサイト』へのアクセスが可能となる

この映画で一番気になったのが、ネット上にあふれる多種多様な『ネタバレ情報』だ。映画を『鑑賞』したことによって、ネタバレサイトへのフルアクセスが可能になった。この映画は、観てからが始まりの映画だったのだ。新たなプロセスの映画を通じて、感じた違和感を、いろんなサイトの言及でさらにSNSでの共有によって、新たな『映画の体験』が始まる。それは『ネタバレ』禁止の効果といえる。

カメラを止めるな!ネタバレ検索

さらに、大事な、ネタバレに関しては、どこのサイトも個人ブログにいたるまで、懇切丁寧に『警鐘』を鳴らしてくれている。なんと言っても、ネット上の辟易とするようなネガティブな情報の中『カメラを止めるな!』に関しては、絶賛する人も酷評する人も、すべての人が暗黙のネタバレNGルールにしっかりと寄り添っているのだ。今どきのネットにこれだけの自主規制を浸透させるのはとても難しい、いや、これこそこの映画の持たらす『不完全なパワー』だと思った。

ヒトは『不完全なパワー』に魅了される

通常のハイクオリティの映画を見慣れている人には、ワンカメラでのPOV(ポイントオブビュー)視点の映像は、斬新に映るだろう。そう、とっても不安定で説明もないドキュメンタリータッチな世界が37分間も繰り広げられる。しかも、『文脈をもった』素人タッチの芸風が展開されるのだ。

映画でわざわざ、ワンカメラで37分間もノンストップで回すという商業映画は珍しい。さらに複雑なキャメラワークも必要とされる。それがさらに手持ちのカメラのカットとなると、『映像酔い』ということも考えられる。

長回しだけでいうと、アルフレッド・ヒッチコック監督の『ロープ』やロバート・アルトマン監督の『ザ・プレイヤー』、ブライアン・デ・パルマ監督の『殺しのドレス』が挙げられる、そして、手持ちカメラ的側面でいうと『ブレアウィッチ・プロジェクト』や『クローバーフィールド』も挙げられる。しかもそれらが、生放送番組という性格であれば、ロン・ハワード監督の『エドTV』も忘れられない。いや、さらにこの上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』には、『生放送&ワンカメラ&一発撮り&無編集&ゾンビ』という目玉企画のオンパレードだ。これは、もう『事故ありき』を楽しむエンタメでしかない。当然、最高の演技を楽しむというのではなく、そこの背景にある『現場の緊張感』を楽しむものでもある。そう、NHKの紅白歌合戦でさえも、ある意味『カメラを止めるな!』的に国民は生のドタバタを楽しんでいるのだ。そのドタバタぶりをネットニュースで確認し、目撃者の1人としてエンタメを反芻するのである。

『カメ止め』が発明した『時空のモンタージュ理論』

さらに、この『カメラを止めるな!』は、その目玉企画を表面でやりながら、『みせかけの裏方』という『時空』を超えた新たな『時空のモンタージュ理論』を発明したのだ。モンタージュ理論は『一方、所変わって…こちらでは…』のシンクロする時間を別場所で表現する映像手法であるが、『#カメ止め』のモンタージュ理論は、『所変わらず、見えないところでは…』という他角度の視点を追尾体験させたことだ。映画を観ていない人にはちんぷんかんぷんな説明でネタバレを防いでいるつもりだ。

ある意味、前者のモンタージュ理論は、アガサ・クリスティーのエルキュール・ポアロ探偵のようにポアロと共に、読者は謎解きのリアル体験を行う。しかし、カメ止めの『時空のモンタージュ理論』は、ピーター・フォーク扮する刑事コロンボのように、最初に犯人ありきでストーリーすべてを見せながら、そのひとつづつのピースの謎解きを行い『事象』を再トレースするのだ。『古畑任三郎』も同様だ。

ちなみに、『#カメ止め』はユーキャン流行語大賞にノミネートされている。

ユーキャンも大賞を発表するだけでなくノミネート作品を発表するところから二度美味しい大賞となっている。

http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1811/07/news100.html

3つの事象で観るこの映画の楽しみ方

カメラを止めるな!公式インタビュー

1つ目は、ワンカット映画としての『One Cut Of The Dead』映画作品の作りとしてのモチーフは、JJエイブラムス監督の『SUPER8/スーパーエイト』や、ミュージカルシークエンスの『ラ・ラ・ランド』でもあるが、ここまでの長回しはない。そして何よりも、このワンカット映画の実際でのトラブルやドタバタが『裏方ストーリー』に生きてくるのだ。そう、違和感や失敗やミスがない完璧な芝居だったら…最高のギャラの取れる役者に最高のスタッフに潤沢な予算だったら…。こうはならない…。本来、映画学校のワークショップ形式のスタートだからこそのシークエンスだ。ホラー映画の『スクリーム』にも合い通じる映画愛でもある。

たとえ、ハリウッド版でリメイクされたとしても、この『#カメ止め』の芝居にはならないだろう。まずは、当初、訴訟騒ぎにもなったという『舞台劇』としての完成度とその『時空モンタージュ』の手法だろう。

これは、見事に、素人芸という最大の弱みを『時空モンタージュ』によって最大の強みへと昇華させた。

2つ目の裏方劇は、音楽からすべてにわたって、前半がマイナー調であったのが、それぞれの人物像が描かれた後に、メジャーでポップに作られることによて、群像劇に仕立て上げられている。見事に、1つ目の視点をライブ時の緊張感と共に見せることによって、創り手たちの想いがヒシヒシと伝わる。社会で日の目を浴びないまま、努力し続ける人たちの姿だからだ。是枝裕和監督の『万引き家族』とはまた違った、日本の映画業界のヒエラルキーを感じることができる。ダイコン役者を演じた役者さんたちの本当の個性が光る。そして、3つ目の視点がラストクレジットに見える『本当の裏方』さんたちの創りだ。

映画は誰の為に作るのか? 金のため?、作品のため?、観客のため?、自分たちのため?、ひとりではできない妄想を実現するため?いろんな映画製作者や関係者にとって、ラストシークエンスは問いかける…。きっと、良い映画のため?だったのではないだろうか? 

今度は、莫大な予算を獲得した、上田慎一郎監督がどんな映画でメガホンをとるのかがとても楽しみだ。一発屋ではない構成力と映画愛。

日本でいうところの『アメリカン・ドリーム』を獲得できた人の誕生に、今さらながら駆けつけて体感できてよかったと思う。

そして、そのブームを支えたのが、SNSやインターネットの『レピュテーションパワー』だ。筆者もSNSで見に行くべき!と言われなければ諦めていたはずだ…。ありがとう!お尻をたたいて劇場へ運んでくれて!

『絶賛上映中』のCMを絶賛されてなくてもテレビでタレ流す映画や、製作委員会メンバーのテレビ局での番宣で最大露出を繰り返す映画でなくても、作品さえ良ければ観客を動員できる。そして、カルト映画の金字塔だけではなく、メジャー映画クラスとしても動員を証明できたことは、日本の映画史に残る作品になることだろう。3000円でクラウドファンディングをサポートした162名のサポーターたち。新たな映画づくりの未来のカタチを見せてもらえることに感謝したい。

162名のサポーターがクラウドファンディングで出資 出典:motion-gallery
162名のサポーターがクラウドファンディングで出資 出典:motion-gallery

https://motion-gallery.net/projects/ueda-cinemaproject

映画愛マーケティングの数々…

さらに、このような映画館への施策も繰り広げられている。ハロウィンの時なんてメイクしていけば、実質300円で鑑賞できたのだ…。

生き返り割引(リピーター割引)

使用チケット半券で▲1,000円割引

ゾンビメイク割引 ▲1500円割引

バリアフリー上映のご案内

UDCast(ユーディーキャスト)というアプリをインストールしたスマートフォン等の携帯端末にイヤホンを差せば、どなたでも上映劇場(一部劇場を除く)のすべての上映回で、音声ガイド付きで鑑賞

http://udcast.net

http://kametome.net/theater.html

そして、この映画を生み出すきっかけとなった、映画と演劇の学校、ENBUゼミナールのワークショップの存在も大きい。

『カメラを止めるな!』は、俳優映画監督養成スクールのENBUゼミナールによる企画『シネマプロジェクト』の第7弾。とある山奥の廃墟で撮影されたゾンビ映画を巡る物語で、劇中には約37分間におよぶワンシーン・ワンカットの映像も盛り込まれている。今年(2018年)6月に東京2館で公開されて以降、累計上映決定館数340館、観客動員数220万人超、興行収入28億円を記録。(2018年)12月5日にBlu-ray、DVDがリリースされるほか、デジタル配信もスタートする。

http://enbuzemi.co.jp

映画を観ただけで、出演者と共感できる最高のインタビュー

最後に、映画を観ただけで、これだけ暖かい余韻に引かれるのも『映画+ネット時代』だからだと思う。

映画もネットも『よろしくでーす!』

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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