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全人代「日本の一帯一路協力」で欧州への5G 効果も狙う

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
次世代モバイル通信「5G」(写真:ロイター/アフロ)

 3月6日、全人代の経済関係に関する記者会見で、中国政府は日本が「一帯一路」に協力していると断言した。これにより欧州の離反を踏み止まらせるだけでなく、その勢いで5Gに関しても欧州を抱き込むべく戦略を練っていることが、8日の報道でわかった。

◆日本の中国との第三国における協力は「一帯一路」の一環

 中国では一般に、全人代(全国人民代表会議)開催期間中に、初日の国務院総理(首相)による政府活動報告が終わると、翌日から当該報告の中で述べられた事項に関して、順次、各関係部局から詳細な説明があり、記者会見で質問にも応じるという形を取るのが通例だ。

 今年は3月5日の開幕式に李克強首相によって行なわれた政府活動報告に基づいて、まず翌6日には経済関係に関する記者会見が開かれた。

 国務院(中国人民政府)の要請に従い、中国政府マクロ経済の司令塔である発展改革委員会が対応し、同委員会の何立峰主任、寧吉てつ(吉を左右に二つ並べた文字)副主任および連維良副主任などが質問に応じた。

 その中で注目されたテーマの一つが、習近平政権が提唱し実行している巨大経済圏構想「一帯一路」に関する中国政府側の認識である。

 5日の政府活動報告では「一帯一路」という言葉が5回出て、「昨年は第三国における国際的協力という形の協力関係が強化された」と李克強首相は述べたが、そこでは「日本」という具体的な国名は出ていない(毎日新聞が、「日本」という国名を挙げたとしているが、李克強のスピーチに関しては中国語のナマ放送を聞き、かつ文字化された中国語の報告書全文を注意深くチェックしたが、やはり「日本」とは言っていないように思う)。もっとも、これが「日本」のことを指しているのは、誰の目にも明らかではある。

 事実、6日に開催された記者会見では、寧副主任は日本が中国と「一帯一路」に協力し連携していることを明確な断定形で表明している。

 それは大きな注目を浴びたため、多くの中国メディアが、「一帯一路」に関する部分だけを抜き出して報道している。

 たとえば、「中国経済新聞網」をご覧いただきたい。このサイトの一番上のバナーにある「両会」とは、全人代とともに開催されている全国政治協商会議をまとめて指す中国の呼び方で、「全人代+全国政治協商会議」という意味である。このバナーを付けることが許されていることからも、それなりの権威を持っているサイトだということがわかる。

 寧副主任は、「一帯一路」に関して「中国は日本とも、タイ国で合作を始めている」と既存形で説明を行なったと明記してある。

 寧副主任の発言は中日が「一帯一路」を共同建設するための明確なシグナルであると、多くの中国メディアが報じている。そして必ず中日共同建設をモデルケースとして、さらに多くの国々を誘い込んでいくだろうとしている。 

 6日の中国共産党機関紙「人民日報」の海外版は、「宣言!中日が共同建設する“一帯一路”がタイ国に決まった意義は深遠である」と、一歩踏み込んだタイトルで日本の「一帯一路」協力を断定形で讃えている。おまけに「宣言!」という表現まで使って、その断定が確固たるものであることを世界に発信しているのだ。

 日本政府は中国との第三国における経済協力について「一帯一路」とは関係ないと主張してきたが、中国での位置づけは全く異なるし、世界も「一帯一路」の一環だとしか見ていない。筆者は必ずそうなると言い続けてきたが、今回の全人代は、それを否定の余地がない形で世界に発信した。

◆その勢いで、ヨーロッパを5G でも誘い込む

 話はそこに留まらない。

 3月8日の中央テレビ局CCTVは、全人代の特別番組として日中の「一帯一路の共同建設」を礼賛した後、「5Gに関して、ヨーロッパを中国側に誘い込む」解説を行なった。つまり、ヨーロッパ市場が中国側を向くか、アメリカを向くかによって、次世代移動通信システムに関する世界の趨勢が決まっていくと解説委員が分析したのである。

 これら一連の流れから、以下のような中国の目論みが読み取れる。

1.一帯一路における中国の野心に関して、2017年辺りからヨーロッパ諸国が不信感を持ち始めたので、日本を誘い込み、ヨーロッパ諸国が離れていくのを喰い止めようとした。高利子と借金漬けによる債務の罠などが問題になっており、おまけに中国はシーレーンの要衝となる沿線国の港を半植民地化して軍事拠点化しようとしていることが見えてきたため、ヨーロッパ諸国は「一帯一路」構想と距離を置き始めた。そこで中国はアジア開発銀行などを通して信用を得ている日本を一帯一路に誘い込み、「あの日本が入ったのなら大丈夫だろう」と、ヨーロッパ諸国を踏み止まらせようと目論んだ。

2.中国はこれまで、一帯一路やそれと対を成すAIIB(アジアインフラ投資銀行)を先進諸国にも呼びかけるに当たって、まずイギリスに照準を当て、イギリスに参加を表明させた。これに関しては、2015年3月2日付けのコラム<ウィリアム王子訪中――中国の思惑は?>や同年10月19日付のコラム<習近平主席訪英の思惑 ― 「一帯一路」の終点>などで何度も書いてきた。中国の戦略は見事に当たり、フランスやドイツなど、主要なヨーロッパ諸国が雪崩を打ったように「一帯一路」やAIIBへの参加や協力を表明したため、今では123ヵ国と29の国際組織と171の協力文書に署名するに至っている(データは3月6日の発展改革委員会による発表)。

3.ところで次世代移動通信システム5Gに関して、今年2月22日付のコラム<Huaweiめぐり英中接近か――背後には華人富豪・李嘉誠>で、Huaweiの5Gシステム規格をイギリスが採用する可能性が大きくなったことを書いた。

 そこで中国は、「一帯一路」やAIIBでの当初の成功例を5Gに関しても適用していこうという戦略に出た。たしかに李嘉誠という華人の大富豪がHuawei(特にその創始者である任正非氏)を個人的に応援したという背景があるが、中国はこれをも最大限に活用して、先ずはイギリスを引き込み、あわよくばヨーロッパを切り崩したいと考えている。

4.3月8日のCCTVは、5Gに関して「ヨーロッパこそが主戦場です。ヨーロッパがどちらに傾くかによって、次世代通信システムの趨勢が決まっていくのです」と解説したのである。

 

◆日本が果たした役割

 つまり、日本は「一帯一路」において、ヨーロッパ諸国が中国から離れていかないようにする役割を果たしたことになる。

 そのお蔭で中国は「一帯一路」に協力し続けるか否か逡巡しているヨーロッパ諸国を中国側に引き戻し、5GにおいてもHuaweiシステムを使用するよう働き掛けていくことが容易になったわけだ。

 3月5日夜の日テレBS「深層ニュース」では、この「一帯一路」に日本がどう対処していくかに関しても甘利元経済再生担当大臣と議論することとなり、甘利氏は「日本が“一帯一路”構想に協力する場合は、中国の思惑を打ち消すような条件を課すので、懸念には及ばない」と仰ったが、既にその「懸念」は、現実のものとして具現化している。世耕経済産業大臣など安倍政権は「中国との第三国における経済協力は、基本的に一帯一路とは関係ない」という弁明をしているが、中国も世界もそうは見ていないのである。

 おまけに予想を超えて、5Gにまで影響を及ぼしているではないか――。

 中国の強かな戦略を甘く見てはならない。

 習近平国家主席は全人代閉幕後に、イタリアやフランスを歴訪することになっているが、「一帯一路」に関して話し合うと同時に、5Gに関しても説得するものと思われる。

 中国は「一帯一路」沿線国の内の発展途上国に代わって人工衛星を打ち上げ宇宙からそれらの国々を実効支配しようとしている。Yahooのコラムにおいて「だから日本は一帯一路にだけは協力してはならない」と書きまくってきたし、拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』でも、力を込めて詳述した。しかし執筆時には、まさか同時に一帯一路沿線国を「5G」においても支配下に置こうとしているとは気づかなかった。3月8日にCCTVの全人代特別番組の解説を聞いていて、ハッとしたのである。

 だから中国はなお一層、何としてもヨーロッパ諸国が一帯一路から離反していくことを防ぎたかったのだということを、今般改めて思い知らされた。そこに「5G」覇権への策略が隠されていたのだ。

 それこそが、日本を「一帯一路」へ誘い込む真の狙いだったのかもしれない。

 中国のその策略にまんまと嵌った日本の罪は、なおさら重い。

 今からでも、引き返すべきだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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