中国で8人の子供を産んで鎖につながれていた女性は人身売買の被害者
中国で8人の子供の母親とされる女性が鎖につながれていた事件。捜査の結果、この女性が何度も転売された人身売買の被害者であったことが分かった。中国当局としては、これで事件の幕引きを図りたいところだが、同時に、農村で「嫁を買う」という習慣が、現代中国でも続いていた実態を浮き彫りにした。
なぜ女性は鎖につながれた?
この事件は、江蘇省の豊県歓口鎮にある農村で、8人の子供の母親とされる女性が、首に鎖をつながれて自由を奪われていたとみられる状態に置かれていたもの。女性の映像が1月下旬にネット上に流れ、真相究明を求める声が上がっていた。
当初、地元政府は「女性に精神疾患があり、子供や老人に暴力を振るうため」などと説明していたが、女性が誘拐されて連れて来られた可能性や、夫以外の男の子供を産まされていた可能性も疑われていた。国内での関心の高さに加え、北京冬季五輪の期間中にこの事件を外国メディアが取り上げたこともあり、当局も捜査に本腰を入れざるを得なかったのだろう。江蘇省当局は調査結果を本日2月23日に発表し、国営中国中央テレビなどがそれを報じた。
10代で一度目の結婚に失敗した後、売られてしまい...
結論から言えば、女性は何度も転売され、最後は今の董という夫の下に売られて来た人身売買の被害者だった。
女性の出自については、様々な憶測が出ていたが、調査結果によれば、女性は雲南省福貢県の出身。1977年生まれで現在44歳。
女性は、1995年に一度結婚して雲南省内の別の都市に行くが、2年後に離婚して地元に戻った。親戚や周囲の人の話によれば、その頃、女性の言動に異常が出たという。
女性は離婚の翌年、同じ雲南省福貢県出身の女に、療養目的や相手を紹介するなどという口実で、その女の夫の出身地である江蘇省の東海県に連れて行かれた。女性はそこで徐という男に売られてしまう。徐が女の夫に対し、結婚相手を探してもらう代わりに、金を払うという約束をしていたのだ。女は徐から5000元(当時のレートで約7万5千円)を受け取った。
女性は徐の下で3、4か月暮らしたが、ある朝、どこかに行ってしまって2度と戻って来なかった。徐は女性を連れて来た女に対し、2000元(同約3万円)の賠償金を要求したという。
宿泊先のホテル経営者が売人?
女性が徐の下から姿を消したのは、1998年5月上旬。今の夫、董の下に売られて来たのはそれから1か月足らずの同年6月だった。
なぜ再び売られてしまうような事態が起きたのか。
女性は、徐の下から姿を消した後、河南省の夏邑村にあるホテルで過ごしていた。女性に目をつけたのは、そのホテルを経営する夫婦だった。
夫婦は、近くの工事現場で働いていた2人の男にこの女性を売ったという。この男たちが、女性が最終的に見つかった江蘇省歓口鎮の出身。2人の男は、同郷の別の男を介して、女性を董の父親に売ったという。
次第に精神に異常をきたし...
女性は、董の下に売られて来たばかりの頃は、目が虚ろだったり、にやけたりするようなことはあったが、生活や他人とのコミュニケーションに問題はなかったという。1999年7月に第一子を出産するが、その長男によれば幼い頃には、母親に学校の送り迎えもしてもらったという。
だが女性は、2012年に第三子を出産した後から精神疾患がひどくなっていったという。そして2017年以降、女性は精神疾患を発症すると、夫の董によって縄でしばられたり鎖でつながれたりするようになった。
今回、悲惨な境遇が発覚した後、女性は保護された。その後に行われた診断によれば、女性は統合失調症を患っており、現在は正常なコミュニケーションが難しい状態だという。
8人の子供たちの父親は...
女性は、1999年に第一子を出産した後、2011年に第二子を出産。その後は1〜2年おきに2020年まで出産を繰り返し、男7人女1人、合わせて8人の子供を産んだ。DNA鑑定の結果、いずれも女性と董との間の子供だと確認できたという。
また女性の歯が欠損している点なども注目されていたが、検査の結果、歯は長い間の不衛生状態による歯周病によって抜け落ちたのであり、外傷によって抜けたという証拠は見つからなかったという。
女性の夫は逮捕
警察は女性の夫、董を拘束し調べていたが、2月22日、虐待の罪で逮捕。誘拐された婦女を購入した疑いでも調べを進めるという。女性を雲南省から連れ出して、徐という男に売った女とその夫についても、婦女を誘拐売却した罪で同日逮捕した。
また、最初に女性を妻として買った徐や、宿泊客であった女性を売った河南省のホテル経営者の夫婦、その夫婦から女性を買い受け、転売した男2人や仲介した男についても調べを進めている。
さらに女性が見つかった豊県のトップである共産党書記など、党や行政部門の関係者、合わせて17人が処分された。
中国の農村などでは、女性は嫁、子供は後継として売買されてきた実態がある。農村における女性売買の問題を描き、2007年に公開された中国映画「盲山」では、騙されて農村に売られた主人公が、逃げないように鎖でつながれるシーンがある。そのシーンと今回の女性が置かれた境遇とがあまりに似て見えたのは、この事件が、必ずしも特異なケースではないという悲しい現実をおそらく示している。