北朝鮮軍、性暴力の加害者に処罰事例 それでも「泣き寝入り」続く被害女性の境遇
北朝鮮の黄海南道(ファンヘナムド)海州(ヘジュ)に本部を置く、朝鮮人民軍第4軍団隷下の師団政治部長の40代の男が、2018年から4年間で50人以上の女性兵士に性暴力を働いていたことが発覚し、軍団当局に逮捕された件については本欄で伝えたことがある。
北朝鮮においては長らく、性暴力の被害者らが「泣き寝入り」を強いられてきた。というよりも、性暴力が何であるかを知るための教育が皆無であるために、苦しみながらもそれを訴えることすらできなかったのだ。
しかし冒頭で言及したように、近年では加害者が処罰される例も見られるようになった。件の政治部長は、北朝鮮お得意の「見せしめ」の対象となり、衆人環視の中で手錠をかけられ連行されたという。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
こうした変化は、人権意識の改善によるものなのだろうか。そういう部分もあるかもしれない。配給制度の崩壊により、望むと望まざるとにかかわらず国家から経済的に自立した大衆は、自分の生活を守るためにも、権力からの理不尽な仕打ちには出来る限り抵抗しようとする。その延長線上で人権をめぐる摩擦が生まれ、権力の側も対応せざるを得なくなっている様子がうかがえるのだ。
しかしそれは、権力(または加害者)が「反省した」ことによるものではない。
女性兵士に対する性暴力の取締りも、少子化の進行と兵役忌避の広がりで軍の人員不足が深刻になっている状況が背景にあるのではないか。立場の弱い被害者の境遇は、相変わらずなのではないか――そんな疑いを強く持たせるエピソードが、デイリーNK内部情報筋によって伝えられた。
加害者は奇しくも、冒頭の事件と同じ第4軍団に所属する師団政治部長だ。ただ、こちらは50代だというので別人物だろう。被害者は、師団軍医所の21歳の女性看護兵だった。
彼女は不眠を訴える政治部長から2日に1回のペースで呼び出され、2年間にわたり被害に遭った。政治部長の犯行は計画的だった。自分の好みのタイプである彼女を、権力を行使して軍医所に配属させたのだ。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
苦しみに耐えられなくなった彼女は政治部長の毒殺を図り、自らの命を絶ったが、政治部長は一命を取りとめた。母ひとり娘ひとりという力なき家庭の出であった彼女の死の真相は徹底的に伏せられ、真実を知る同僚らも政治部長による粛清人事でそれぞれ違う下級部隊に厄介払いされた。
それでもこうしたエピソードはときに、こうして国外にまで漏れ伝わってくる。であれば、金正恩総書記や金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長の耳に入らないこともないだろう。軍の兵士が置かれた環境の改善は彼らの利害にもかなうはずだが、そんなことも出来ないようであれば、いくら核兵器で威嚇しようとも、北朝鮮軍はいざというときに使い物にならない、ポンコツの最弱軍隊であり続けることだろう。