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【蓮舫議員二重国籍疑惑】本当の問題はどこにあるのか

田上嘉一弁護士/陸上自衛隊二等陸佐(予備)
会見を行う蓮舫氏(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

戸籍の一部を公開した蓮舫議員

民進党代表で参議院議員である蓮舫氏が、昨日18日、日本国籍と台湾国籍との「二重国籍」問題をめぐって、記者会見を開き、戸籍の一部を公開しました。

「戸籍開示要求は差別」指摘も 蓮舫氏「特例」強調(朝日デジタル)

どのような法律の問題があったのか

前回の記事でも述べましたが、国籍の取得方法には以下の3通りの方法があります。

  1. 出生(国籍法2条)
  2. 届出(国籍法3条、17条)
  3. 帰化(国籍法4-9条)

このうち、「帰化」というのは、日本国籍を有しない者が日本国籍を取得することをいいます。「届出」というのは、両親の一方が日本人であった場合には、日本国籍を取得することができるというものです。

かつての国籍法は、父系が日本人の場合にしか届け出による国籍取得を認めていませんでした。それが昭和60年(1985年)に改正国籍法が施行され、母親が日本人の場合にも届出による国籍取得が可能となったのです。

蓮舫氏の場合は、父親が台湾国籍でしたが、母親が日本国籍でしたので、まさに、この改正法によって日本国籍を取得することが可能となったのです。当時17歳の蓮舫氏は、届出によって国籍を取得します。このときの根拠条文は、昭和59年法律45号附則5条です。

昭和59年法律45号附則

第5条 (国籍の取得の特例)

昭和40年1月1日からこの法律の施行の日(以下「施行日」という。)の前日までに生まれた者(日本国民であつた者を除く。)でその出生の時に母が日本国民であつたものは、母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、施行日から3年以内に、法務省令で定めるところにより法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。

2  前項に規定する届出は、国籍を取得しようとする者が15歳未満であるときは、法定代理人が代わつてする。

3  第1項に規定する届出をしようとする者が天災その他その責めに帰することができない事由によつて同項に定める期間内に届け出ることができないときは、その届出の期間は、これをすることができるに至つた時から3月とする。

4  第1項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

晴れて日本国籍を取得した蓮舫氏ですが、この時点では台湾国籍も有していますので、いわゆる二重国籍状態です。

二重国籍の場合、(i)20歳になる前に重国籍となった場合は22歳になるまで、(ii)20歳になった後に重国籍となった場合は、重国籍となった時から2年以内に国籍の選択をしなければなりません(国籍法14条)。日本では、出生などの様々な理由により多重国籍になることは認めつつ、成人した場合には原則として多重国籍を認めていないのです。

第14条(国籍の選択)

1  外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が20歳に達する以前であるときは22歳に達するまでに、その時が20歳に達した後であるときはその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

2  日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法 の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。

ここで日本の国籍を選択した場合には、他方の外国籍を離脱する努力義務があります(国籍法16条)

第16条

1  選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。

2  法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。

3  前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行わなければならない。

4  第2項の宣告は、官報に告示してしなければならない。

5  第2項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。

国籍の選択をしていなかった蓮舫氏

前回の記事を書いたときは、私も、蓮舫氏がこの国籍の選択をした上で、台湾国籍の放棄を行っていないのだと思っていました。しかし、実際には国籍の選択すらしていなかったことが明らかとなります。今回公開された戸籍の一部にも、2016年10月7日に国籍を選択したことが明記されています。

このことは一見変わらないようでいて、実は大きな差があります。16条の文言は、「外国の国籍の離脱に努めなければならない」としてあり、努力義務であるとされています。当時の報道や見解は、「16条は離脱義務にすぎないのだから、これを全うしていなくとも法律違反とは言えない」というようなものが多かったのです。

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他方で、14条の文言を見ると「いずれかの国籍を選択しなければならない」と規定されており国籍の選択が法律上の義務であることは明らかです。しかし、今回公開された戸籍からも改めて明らかとなったのは、蓮舫氏が本来国籍選択を行うはずだった22歳となる1989年11月から昨年10月までの実に27年もの間、この義務を怠っていたこととなるのです。14条は16条の努力義務とは違い、あくまで当該行為を行うか行わないかですから、これを怠っていることは明白な法律違反といえるでしょう。

もっとも14条違反には罰則規定はありませんから、法律違反とはいってもその違法性は決して高くはないといっていいと思いますし、実際に国籍選択を行っていない人は少なくないと思います(決して褒められたことではありませんが)。したがって、これはあくまで個人的な意見ですが、蓮舫氏が国籍選択を行わず、台湾籍の離脱を行っていないこと自体は、決して賞賛すべきものではないものの、そこまで目くじらを立てるものものでもないと思っています。問題は蓮舫氏の説明が二転三転したことにあります。

差別や排外主義とは関係がない

今回の戸籍公開をめぐって、これは不当な人種差別であるとか排外主義である、または多様性の否定であるといったような批判も巻き起こっています。

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しかし、これは明らかな論点の取り違い、または擦り替えといっていいでしょう。そもそも蓮舫氏が戸籍を公開するよう追い込まれたのは、昨年秋の釈明が二転三転し、重要な点について明確な回答を行わなかったからであり、自失によって招いたものであるといえます。

蓮舫氏は、「日本国籍を取得し、台湾籍の放棄を宣言しています」 といったり、9月3日の読売テレビでは、「私は生まれたときから日本人です」 「(台湾)籍抜いてます」「18歳で日本人を選びました」 と答えたりしています。

これらはすべて事実に反するものでした。

今となってはいってももう仕方のないことですが、蓮舫氏が昨年秋の時点で、「法律上の手続を怠っており、国籍選択並びに台湾籍の放棄がなされていませんでした」といって謝罪をしていれば、誰も戸籍を見せろなどとはいわなかったでしょう。辻褄のあわない説明が続いたからこそ、蓮舫氏は嘘を言っているのではないかという疑惑が高まり、最終的には戸籍の公開という事態となってしまいました。とても残念なことです。

問題が国籍にあるのではなく、あくまで自己についての疑惑について誠実に回答しなかったということが大きいでしょう。これまで歯切れよく政権与党に切り込んできた蓮舫氏だからこそ、自分についての説明責任はきちんと果たしてほしかったので、返す返すも残念でなりません。

蓮舫氏は、先日の会見で「昨年指摘をいただくまで、台湾籍を持っているとは考えたことも思ったこともなかった」と答えています。

しかし、これまで指摘されたとおり、1997年に発売された雑誌「CREA」のインタビュー記事の中で「自分の国籍は台湾」と発言し、週刊現代の1993年2月6日発行号では、「父は台湾で、私は、二重国籍なんです」と答え、 2010年8月の「飛越」という中国国内線の機内誌においても、「子供の時から日本で学んだが、ずっと台湾の中華民国国籍を保持している」 と述べているようです。

これらの記事を見ていると、蓮舫氏が自らを二重国籍保持者と認識していたと考えて良いでしょうから、先日の会見でもまだ錯誤しているか嘘をついている可能性があります。

結果的に今回の一連の騒動を経て浮き彫りとなったのは、蓮舫氏の問題に対する姿勢でした。

蓮舫氏は、以下のように会見で述べています。

「今回、選択宣言の日付を公開し、台湾籍が残っていないことをお伝えしたが、こうした開示は私で最後にしてもらいたいと思う。全て国民は法の下に平等だ。人種や性別、社会的身分などで差別をされてはいけない。親や本人、子供の国籍、髪や肌の色や名前や筋など、日本人と違うところを見つけて『違わないということを戸籍で示せ』と強要することがない社会をしっかりとつくっていきたいと思っている。多様性の象徴でもある私が、自らの経験をもって差別を助長することのない社会、多様性を認め合う共生社会を、民進党代表としてつくっていきたいということを最後に強く申し上げたいと思う」

本来は、自分の過失や錯誤により法律上の義務を果たさずに、また曖昧模糊とした説明を繰り返してきたにもかかわらず、なぜか被害者のような弁を述べている点は釈然としません。自己に関わる疑惑を追求されたときに、多様性の否定や人種差別といったような隠れ蓑を用いることが、政治的責任を果たしているといえるのでしょうか。

さらに言うと、今回の件は、日本が今後、多重国籍を許容するかどうかという立法政策とも本来は関係がありません。繰り返しますが、今回の争点はあくまで政治家としての姿勢の問題なのです。また多重国籍を認めているから進んでいるとか、認めていないから保守的であるという紋切り型の論調にも私は懐疑的です。

そして安易に人種差別や多様性の問題につなげていることにも危うさを感じます。今回の件は人種差別や多様性、プライバシーといった人権問題とは無関係の、一政治家の誠実さが問われた問題にほかならないからです。

弁護士/陸上自衛隊二等陸佐(予備)

弁護士。早稲田大学法学部卒、ロンドン大学クィーン・メアリー校修士課程修了。陸上自衛隊三等陸佐(予備自衛官)。日本安全保障戦略研究所研究員。防衛法学会、戦略法研究会所属。TOKYO MX「モーニングCROSS」、JFN 「Day by Day」などメディア出演多数。近著に『国民を守れない日本の法律』(扶桑社新書)。

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