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順番待ちの行列、入場整理券の消えた東京ゲームショウ 初のオンライン開催はどうなった?

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
東京ゲームショウの公式エンディング番組より(筆者撮影)

9月23~27日の5日間、東京ゲームショウ2020オンラインが開催された。

東京ゲームショウ(以下、TGS)は、毎年9月に幕張メッセで開催されるゲームの展示イベントで、来場者が20万人を超える一大祭典として定着しているが、今年は新型コロナウイルスの流行にともない、初のオンライン開催となった。

以下、筆者がTGSの公式番組を中心に視聴したうえで、オンライン開催になったことで特に良かった点と、逆に気になったところを独断と偏見でまとめてみた。

良かったところ

・新ハード、および対応ソフトの情報が目白押し

今年のTGSは、間もなく発売となるSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)のプレイステーション5と、マイクロソフトのXbox Seires Xの新型ゲーム機が初登場ということもあり、当然ながら両ハード用に作られた新作タイトルを多数見ることができた。

特に印象に残ったのが、24日に配信された日本マイクロソフトの公式番組だった。同社は、年によってはTGSに出展しないこともあるが、今年は満を持して参加。公式番組では大手メーカーだけでなく、インディーゲームの新作や開発者インタビューにも多くの時間を割き、「AAAタイトルも、インディーゲームの新作もたくさん遊べますよ」という印象を多くの視聴者に与えたと思われる。一方のSIEは、単独で公式番組を配信しなかったものの、各メーカーの公式および独自制作の番組で新作ソフトのチェックができた。

ちなみにSIEは、任天堂と協賛する形で「センス・オブ・ワンダー ナイト2020」という、インディーゲーム開発者がアイデアを競う公式番組を配信した。本番組でも多数のインディゲームが紹介されており、特に大手メーカーに比べ予算が限られるインディーゲーム開発者にとっては、プラットフォーマーが「インディーゲームにも注力しますよ」という姿勢を示してくれたのは、マイクロソフトともども心強かったことだろう。

9月24日に配信された日本マイクロソフトのTGS公式番組(※筆者撮影。以下同)
9月24日に配信された日本マイクロソフトのTGS公式番組(※筆者撮影。以下同)

・人混み、行列とは無縁に

これも当たり前の話だが、毎年多数の来場者が訪れ、会場内を移動するだけでも困難を極めるTGSにあって、誰もがお目当ての新作ゲームやメーカーの番組を無料で、しかも待ち時間なしで人混みに巻き込まれることもなく、同じ視点で見られるのもオンライン開催ならではのメリットだ。特に、幕張から遠く離れた地方の在住者にはありがたかったと思われる。

・コメント欄やSNSを介して、全世界の視聴者が参加可能に

生配信された番組では、YouTube、ニコニコ動画やTwitch、SNSに投稿されたコメントに対し、司会者やゲスト出演したタレントがリアルタイムでコメントを返す光景は見ていて楽しかった。なかには海外の視聴者が書き込んだ英語のコメントに反応した出演者もいて、国境を超えてライブ感を演出していた番組もあった。

また、例年のTGSには海外からも多数のメーカーやインディーゲーム開発者が出展するが、ブースによっては日本語を話せるスタッフがいないため、筆者のように英語ができない人間では困ることがたびたびあった。だが今回のTGSでは、ほとんどの番組で外国人が出演中は日本語字幕を表示してくれたのでたいへん助かった。

中国のゲームメーカー、Lightning Gamesの公式番組より。ほとんどの出展社が日本語字幕を用意してくれたので実にありがたかった
中国のゲームメーカー、Lightning Gamesの公式番組より。ほとんどの出展社が日本語字幕を用意してくれたので実にありがたかった

・日本ゲーム大賞で画期的な演出を実現

TGSの主催者でもあるCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)が、毎年優れたゲームを表彰する日本ゲーム大賞は、受賞作品の発表・表彰をTGS会場で行うのが恒例となっている。今年は公式番組で各部門の受賞作品が発表されたが、とりわけゲームデザイナーズ大賞を受賞したパズルゲーム「Baba Is You」の紹介方法が素晴らしかった。

本作は、審査員長の桜井政博氏が自ら実況プレイを行いながら、遊び方や授賞理由を丁寧に解説してくれたので、単なる表彰式ではない、ひとつのエンターテインメント番組としても楽しむことができた。「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズなどを開発したエキスパートが解説することで、なぜ本作が受賞したのかという説得力が増し、今までその存在を知らなかった視聴者(※恥ずかしながら筆者もそのひとりだ)の興味を引くきっかけ作りにも大きく貢献したことだろう。

筆者も過去にゲーム大賞の表彰式を取材した経験があるが、従来のように開発者に賞状やトロフィーを渡すだけの式にするよりも、今回のように実況プレイを交えた形のほうが見ていて断然面白かった。次回以降もぜひ続けてほしい。

公式番組「日本ゲーム大賞2020 年間作品部門『発表イベント』1日目」より。ゲームデザイナーズ大賞受賞作「Baba Is You」を解説する桜井氏
公式番組「日本ゲーム大賞2020 年間作品部門『発表イベント』1日目」より。ゲームデザイナーズ大賞受賞作「Baba Is You」を解説する桜井氏

気になった点

・新ハードの「体験」ができなかった

しかたのないことではあるが、せっかくプレイステーション5、Xbox Seires Xの両ハードが新登場となるタイミングだったのに、実機に触れて体験することができなかったのは本当に残念だった。

両ハード向けの新作ソフトの情報自体は、確かにたくさんあった。だがオンライン開催によりプレイができない以上、新作の紹介番組においては、ただトレーラー映像を流すだけでなく、新ハードならではの機能を生かして新たにどんな遊び、あるいは体験ができるのか、全般的にもっと詳しく解説をする構成にしたほうがよかったかもしれない。例えば、「プレイステーション5の立体音響技術に対応しているので、主人公の周囲で起きた爆発音は、音を聞くだけでも爆発した位置がわかります」などと紹介するのとしないのとでは、視聴者の印象がおのずと違ったことだろう。

公式番組「2021年に向けたゲーム業界最新技術トレンド」より。プレイステーション5、Xbox Series X両ハードの性能を識者が詳しく解説していた
公式番組「2021年に向けたゲーム業界最新技術トレンド」より。プレイステーション5、Xbox Series X両ハードの性能を識者が詳しく解説していた

・番組によってはタイムシフト視聴ができない

TGS公式番組は、すべてYouTubeでアーカイブ化されている(※10月1日現在)が、これとは別に出展社が独自に配信した番組の一部は、残念ながらタイムシフト視聴ができなかった。これでは、もし視聴者が見たい番組の時間帯が重なった場合は困ってしまう。ザッピングする手もなくはないが、お目当ての実況プレイやトークイベント同士が重なったら十分には楽しめないだろう。

オンライン開催のメリットを生かすためにも、どの番組もタイムシフト視聴ができるよう、TGSの公式サイトやチャンネルを利用してアーカイブをしてほしかった。出展社側は、タイムシフト視聴に非対応でも宣伝効果は十分にあると見込んだのかもしれないが、タイムシフト視聴ができないと後から知ってがっかりしたユーザーもかなりいたように思われる。

富士通コネクテッドテクノロジーズの公式番組より。オンライン開催となったことで実況プレイを見せる番組が非常に多かった
富士通コネクテッドテクノロジーズの公式番組より。オンライン開催となったことで実況プレイを見せる番組が非常に多かった

・トークや芸人のネタが長時間続くと飽きてしまう

冒頭からシリーズ作品の紹介や制作中のエピソートなど、開発スタッフによるトークが延々と続く番組がいくつもあったが、PCやスマホの画面をとおして見ていると、ゲームの映像が流れないと途中でどうしても飽きてしまう。「新作ゲームの発表」「eスポーツ」などと事前にアナウンスをしておきながら、いざ番組が始まったら肝心の映像が見られず、顔も名前も知らない人たちのトークが20分も30分も続いたら、視聴者が途中で飽きるのも無理はないように思われる。

また、お笑い芸人をゲストに招いた一部の番組では、実況プレイ中にゲームとは直接関係ない、芸人のネタを披露する時間を挟んでしまったため、ゲームの特徴や内容が見ていて全然伝わらず、かえってつまらなくしているケースも見受けられた。なかには配信中に高評価よりも低評価の数が上回ったり、視聴者数が減少した番組もあった。

コメント欄に、いわゆる「荒らし」が目立つ番組も散見されたが、視聴者が最も求めていたであろう新作の情報が不十分、あるいは伝わらない番組構成だったこともその一因だったのではないか。

・子供向けの番組が皆無

例年のTGSでは、小さい子供向けのゲームやイベントステージ、ゲームプログラム体験コーナーなどを設けた「ファミリーゲームパーク」が用意されているが、今回は子供向けに配信された番組がほとんどなかった。

TGS公式番組のうち、子供向けに用意されていたのは27日に配信された「Nintendo Switchでゲームを作って『ゲームクリエイターになろう!』」ぐらいしかなかったのはあまりにも寂しい。次回以降は、未来のゲームファンに向けた番組をもっと増やし、プレイヤー人口の拡大や業界の活性化を図るべきではないだろうか。

「Nintendo Switchでゲームを作って『ゲームクリエイターになろう!』」の配信より。このような子供向けの番組が、今回は極端に少なかった
「Nintendo Switchでゲームを作って『ゲームクリエイターになろう!』」の配信より。このような子供向けの番組が、今回は極端に少なかった

来年以降も、オンライン開催の継続を

誰もが予想だにしなかった事態が発生し、急きょオンライン開催に変更となったことで、主催者も出展社も短い時間での準備を強いられてさぞたいへんだったことだろう。関係者の皆さんには、本当におつかれさまでしたと申し上げたい。

次回のTGSが開催されるであろう、来年の9月までに新型コロナウイルスが終息しているかどうかは未知数だが、もし仮に終息していたとしても、オンライン開催は継続して実施してほしいと筆者は考えている。その最大の理由は地方、あるいは海外在住者でも分け隔てなく参加できるイベントになるからだ。

さらに次回は、PlayStation VRなどのVR機器を利用して、実際の会場をCGで再現した「バーチャルTGS会場」を用意し、自宅でも会場にいるかのようなライブ感を楽しめるようにしてはどうか。これならサーバーや回線がパンクしない限り、世界中の誰もが人混みや待ち時間を一切気にせず、ショウを楽しむことができるだろう。

例年、前評判の高い新作ゲームやメーカーのブースでは、入場整理券が開場直後に「瞬殺」されたり、「120分待ち」などと書かれたプラカードが並ぶ光景はTGSの名物となっているが、オンライン開催であればそんな混雑が一切起きないメリットは大きい。もし「バーチャルTGS会場」が実現すれば、たとえ展示スペースの狭いインディーゲームなどの出展社であっても、HMDを通じて会場内を散策した参加者の目に留まる可能性が飛躍的に高まり、宣伝効果も増すハズだ。

主催者・出展社の皆さんには、今回で得られたノウハウや教訓を生かし、日本はもとより世界中のゲームファンがネットを介しても楽しめる、TGSの理想・未来形をぜひ構築ほしい。

(参考サイト)

・「東京ゲームショウ2020オンライン」公式サイト

・「東京ゲームショウ」のYouTubeチャンネル

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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