オズの魔法使いと日銀の異次元緩和
先日、米国で史上最大級の竜巻が発生し大きな被害が出た。このような巨大な竜巻の情景はライマン・フランク・ボームの名作児童文学「オズの魔法使い」(1900年5月に出版)でも描かれていた。この「オズの魔法使い」について、私は2013年3月に次のような文章を書いていた。
米国のカンザス州に暮らす少女ドロシーは竜巻に家ごと巻き込まれ、飼い犬のトトと共に不思議な「オズの国」へと飛ばされてしまう。途中で脳の無いカカシ・心の無いブリキの木こり・臆病なライオンと出会い、それぞれの願いを叶えてもらうため「エメラルドの都」にいるという「魔法使いのオズ」に会いに行くというストーリーである。
この「オズの魔法使い」には政治的な解釈ができるとの説があるのをご存じであろうか。当時の米国の金融政策をめぐる議論、特にデフレからの脱却が大きなテーマになっていたとの解釈である。
米国では南北戦争時の不換紙幣発行増によるインフレなどから兌換制度への要望が強まり、1873年の「貨幣法」によって金本位制をアメリカの通貨制度として定め、1879年に施行された。この金本位制への移行が、その後の不況やデフレの要因とされ、金銀複本位制を求める運動が広まった。
1896年の米大統領選挙はデフレ対策が大きな争点となった。金本位制を維持するか(アンチリフレ派)、金銀複本位制とするのか(リフレ派)が争点となっていたのである。金銀複本位制は通貨の価値を落としかねないとして、金本位制を主張していたマッキンリーが勝利した。
「オズの魔法使い」を書いたジャーナリストでもあった原作者のライマン・フランク・ボームは、農民達が苦しんでいるのをみてリフレ政策に賛同していたとの説がある。農民をイメージしていたカカシ、工場労働者をイメージしたブリキの木こり、さらに金銀本位制を主張していた大統領候補を臆病なライオンにたとえて、金の重さを表す「トロイオンス(oz)」つまり、「オズ」の魔法使いにそれぞれの願いをかなえてもらいに会いに行くという解釈である。
ドロシー達が頼ったオズは本当は魔法使いなどではなかった。そんなオズがどうして大魔法使いと認識されたのか。まさにここにはオズの世界にいる人達による「期待」に働きかけられていた面が大きい。原作でもそんなオズに頼ろうとしたというのは、当時はまだ米国にはなかった中央銀行という存在を原作者はイメージしていたのであろうか。
この文章を書いたのは2013年3月30日であった。その数日後に日銀は異次元緩和と呼ばれ、2%の物価目標の達成を目指した量的・質的金融緩和策を決定した。その魔法の効果は果たしてどうであったのか。