【香川真司インタビュー】W杯はとてつもなく大きな影響を与える場所。そのゴールはただのゴールじゃない
2022年カタールワールドカップ(W杯)に挑む日本代表最終登録メンバー26人が11月1日に発表された。森保ジャパン発足時から攻撃陣をリードしてきた2018年ロシアワールドカップ(W杯)組の大迫勇也(神戸)、原口元気(ウニオン・ベルリン)がまさかの落選。2014年ブラジル・2018年ロシア大会と2大会連続でエースナンバー10を背負った香川真司(シントトロイデン)の名前も残念ながら、呼ばれなかった。
「W杯は人生を懸ける価値がある場所。最後まで諦めていない」と言い続けてきた33歳のベテランにとっては残念な結果だが、出場する後輩たちに、W杯を戦ってきた彼らが経験したものを引き継いでもらいたいと願う。
香川が感じた日本代表、そしてW杯の意味は何なのか。改めて本人の言葉からひも解いた。
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カタールW杯を本気で狙い続けた4年間
──2018年ロシアW杯の後、「カタールを目指します」と話していた香川選手ですが、4年という歳月をどう感じていますか?
「代表やW杯を諦めてなかったからこそ、僕は欧州でやり続けてきました。代表には2019年6月から3年以上、呼ばれてないですし、メンバー入りは物凄く難しい状況というのは理解していたけど、サッカーは何が起きるか分からない世界。最後までドキドキ、ワクワク感を持ってやってきました。『何だかんだでもう4年。ここまで来たんだな』という気持ちは強かったですね」
──W杯というのは、それだけ何度も行きたくなる場所ということですね。
「やっぱりそうです。自分のサッカー人生以外のものを犠牲にして、歯を食いしばって戦えるのも、W杯があるからだと思うんですよね。サッカーやってる人間なら、みんなそうだと思いますけど」
──特に2011年アジアカップ(カタール)から2019年まで足掛け9年間、エースナンバー10をつけた香川選手は背負ったものが非常に大きかったでしょうね。
「確かに僕は10番をつけさせてもらって、いろんなことを学ばせてもらった。それらは、最終的にすごくいい経験だと言えるものばっかりだったと思います」
「ドーハの悲劇」のラモス瑠偉に始まり、1998年フランスW杯の名波浩(松本山雅監督)、2002日韓W杯~2010年にかけての中村俊輔(横浜FC)、今回の南野拓実(モナコ)と、代表のエースナンバー10は偉大な面々に継承されてきた。香川はその系譜を引き継ぐ者をして大きな期待を寄せられ、その重圧と戦い続けてきた。「10番だったからこそ、得られたもの」があると本人も言うように、特別な存在として駆け抜けた時間は紛れもなく財産であり宝物。それは誰もが認めるところだろう。
「点を取れて日本を勝たせられる10番」を目指した約10年間
──香川選手が10番をつけた頃、「点を取れて日本を勝たせられる新たな10番像を確立したい」と言ったのを覚えていますか? それはどのくらい達成できました?
「いや~、分かんないです。それは周りが決めればいいことだから。僕の中では10番は今も中村俊輔さんですね」
──確かに俊輔選手も強烈な印象を残しています。2人の後の10番はなかなか定着していないようにも映りますが。
「今の10番は拓実ですよね。彼は代表でずっと出てますし、苦労もしてる。頑張ってると思いますよ。セレッソ大阪の後輩でもあるし、(イングランド・プレミアリーグ最高峰の)リバプールでプレーした経験含めて共通点が多い分、気持ちはよく分かります。
日本の10番は求められるものが多いし、注目度も高い分、普通のパフォーマンスでは叩かれてしまう。それがこの世界では当たり前。そしてそういう中でも結局、一番大事なのはW杯。そこは強調したいところです」
──香川選手が本当の意味で10番の重圧から解放されたのは、ロシア大会の初戦・コロンビア戦(サランスク)の先制PKだったのではないですか?
「重荷を下ろせたのかどうかは分かんないです。でも、『W杯で得点するってことはこういうことなんだな』というのはすごく感じたし、それくらいしびれるものではあった。あの感覚はやっぱりただのゴールじゃない。いろんなものを背負って、4年に一度の大舞台で取るわけですから、気持ち的に残るものは大きいですよね」
──長年、代表、そして香川選手を見続けてきた我々メディアもグッときましたよ。
「それはひしひし感じましたよ、もちろん(笑)。あの試合にはカズ(三浦知良=JFL鈴鹿)さんも来ていたし、日本の国民の期待を背負っているプレッシャーの中で決めたPKでしたからね」
──逆にW杯の厳しさや難しさを切実に感じたのはいつだったんですか?
「ブラジルW杯の初戦・コートジボワール戦(レシフェ)で負けた日でしょうね。あの夜は人生の中で一番きつかった。泣きはしなかったですけど、一睡もできなかった。もちろん一睡もできなかった夜なんて何回もあるけど、あの日はね…。良くも悪くも自分を強くさせてくれたなあって思いますけどね。後から、振り返った時に」
──サッカー人生の重要なターニングポイントですね。
「そうですね。ものすごくきつかったけど、絶対に忘れられない。何ならコロンビア戦より忘れられない1日かもしれないですけどね、僕にとっては」
「(長友)佑都は現実主義者。地道にコツコツやるタイプ」
香川真司のこれまでの代表実績は97試合出場31ゴール。50ゴールの岡崎慎司(シントトロイデン)や37ゴールの本田圭佑が同世代にいるため、やや過小評価されがちだったかもしれない。
とはいえ、12年間にわたって代表に呼ばれ続け、これだけの数字を残すというのは、そうそうできることではない。現代表の最多得点者が25ゴールのFW大迫勇也(神戸)であることを考えると、香川の偉大さがよく分かるはずだ。
彼が味わった苦悩と歓喜。それを次世代の面々は確実に受け継ぎ、超えていかなければならない。とりわけ、トップ下を主戦場とする鎌田大地(フランクフルト)と久保建英(レアル・ソシエダ)には重責を託されることになる。
──香川選手は紆余曲折を乗り越え、ロシアW杯で結果を出したわけですが、自分自身を客観的に見てどう思いますか?
「僕はダメージを受けやすい人間だし、かなり繊細ではあるんで、自分で自分を苦しめることなんて沢山ある。それでホントに苦労してます(苦笑)。身近にいるオカちゃん(岡崎)はタフで、『岡崎すげえな』って思いながら、日々過ごしてます」
──それは、本田選手や長友佑都(FC東京)選手にも共通する点です。
「圭佑君なんか見てると、落ち込むことはあるだろうけど、そこの切り替えがすごく早い。佑都もそうですけど、みんな前向きで、起こったことに対してどう前を向いていくかってところの切り替えのスピードがホントに早い。感心させられます。自分は(切り替えに)割と時間がかかるほうなんで。でも、数年前からは、負けた試合の後はすごく悔しくていろいろ考えるけど、『次の日からしっかり切り替えてやろう』と自分に言い聞かせて、徹底してやってますけどね」
──森保監督も「佑都はスーパーポジティブ」と言ってますからね。
「佑都は現実主義者で、ホントに地道にコツコツやるタイプ。長谷部(誠=フランクフルト)さんはその究極でしょう。あの人は波がないし、セルフコントロールが本当にうまい。徹底したマイペースだから、自分のリズムを乱すことがない。だから、悪い時も悪いとは思ってないでしょうし、いい時もそんなにいいとは思ってない。つねにブレずに対応できる強みがあると思います。僕とは少し違いますね」
香川が味わった歓喜と苦悩、重責を託される久保や鎌田
──カタールW杯に出場する選手たちも、常人には想像できない経験をすると思います。特にトップ下の鎌田、久保両選手に思うところはありますか?
「僕はあまり人のことを言いたくはないんですけど、W杯本番を前にして、大地も久保も律(堂安=フライブルク)も点を取っているというニュースを聞いて、みんないい状態にあるんじゃないかと思ってます。11月から始まる大会をいい状態で迎えられるかというのはすごく大事なこと。彼らには毎日刺激を受けているし、それが率直な思いです」
──香川選手にとっての戦いは?
「僕にとっては、大事なのはここから先。シントトロイデンのプレーオフ進出(上位8位以内)という目標を果たせるように自分を引き上げていく。どうやってもっともっとチームと自分をよくさせていくか。それだけを考えて、毎日戦い続けます」
香川には欧州挑戦を続けるという信念がある。それを貫き、納得できるパフォーマンスをして結果を残すこと。それしか今の香川真司は考えていない。
こうした中、慢性的な痛みを抱えていた足の手術に踏み切ることを11月2日に発表。戦線復帰はW杯中断期間開けの12月末から1月にかけてだと見られる。さまざまなしがらみから解き放たれた33歳のMFが、どのように自身の新たな理想像を確立させるのか。
飽くなき挑戦はここからが本番だ。
■香川真司(かがわ・しんじ)
1989年3月17日生まれ。兵庫県神戸市出身。ベルギー1部・シントトロイデン所属。2006年にセレッソ大阪入りし、19歳だった2008年5月のコートジボワール戦で代表デビュー。当時は平成生まれの初の代表選手として名を馳せた。2010年南アフリカW杯はサポートメンバーとしてチームに帯同。ザッケローニ監督体制で不動の存在となる。2011年アジアカップからつけた10番を2019年6月のトリニダード・トバゴ戦まで背負い続けた。2018年ロシアW杯・コロンビア戦では先制点を挙げた。16強入りの原動力となる。175センチ・68キロ。国際Aマッチ97試合31得点。
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