間違った処方箋の劇薬を飲み続ける日本
日銀の黒田総裁は4日、米国の利上げに関して「もし米国が利上げするとすれば、それは米国経済がよりしっかりと成長していくことを物語っており、それ自体は世界経済にプラスだと思う」との認識を示した(ロイター)。
米国の利上げが世界経済にプラスとの表現はやや誤解を与えるかもしれない。世界的に株価が不安定となるなか、その不安定要因のひとつがFRBの利上げへの懸念であることを考えると世界経済にプラスとはどういう意味なのかと疑問を投げかけられるかもしれない。
過去の利上げについてはインフレへの懸念や景気の過熱に対処するために行ってきたとの印象があると思う。しかし、今回のFRBの利上げの目的はそうではないことに注意すべきである。
日銀も含め、米国の中央銀行であるFRB、イングランド銀行、そしてユーロ危機のど真ん中にいたECBは、サブプライムローン問題からリーマン・ショック、ギリシャ・ショックからユーロの信用不安に至る過程で、救世主的な存在となった。特に財政出動がしづらくなったことで過度に金融政策に危機対策が押しつけられた格好となった。
たしかに日米欧の中央銀行により、ゼロ金利政策とともに量的緩和と呼ばれるような非伝統的な金融政策が競争するかのごとく講じられてきた。これもあり、百年に一度とされる危機が収まったことは事実である。
ただし、注意すべきは今回の危機が金融危機であったことである。いずれも金融機関や国の信用が不安視され、それが金融市場を混乱させたのである。その金融市場の混乱を抑えることが異常ともいえる金融緩和に期待され、それが結果を出したことになる。金融危機が経済にも直接影響を与えたが、その経済や物価を直接、金融政策で復活させたわけではない。金融危機が去れば経済環境も危機以前の状態に戻ってしかるべきである。黒田総裁の発言はこの世界的な金融危機が去り、利上げというより正常化、つまり危機以前の普通の金融政策に戻れるという事実が好感されるとの意味にも取れる。
ところが、黒田総裁がトップの日銀は、その世界的な危機が後退する最中に異次元緩和を二度も発動している。米国発と欧州発の危機に影響は受けた日本だが、欧米に比べると直接的な被害は少なかったはずである。それにも関わらず非常時の金融政策を続けなければいけないのはどうしてなのか。デフレからの脱却が主目的であったとすれば、2年で結果が出なかった以上、処方箋を誤った可能性があり、間違った処方箋の劇薬を飲み続ける日本にはその副作用を心配する必要もあるのではなかろうか。