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能登半島地震対応の予備費40億円が「少なすぎる」はミスリード。災害時の予算措置について考える

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

4日、岸田総理大臣は能登半島地震に対応するため、40億円規模の予備費の使用を9日に閣議決定することを記者会見で表明しました。この報道について、SNSを中心に「道路や岸壁が壊れていて40億円で済むわけがない、少なすぎる」「万博リング予算の350億円と比較しても10分の1しかない」「裏金とそこまで変わらない」などといった批判が相次いでいます。

今回予備費として支出が決定される見込みの40億円は、能登半島地震に対応するための第1弾の予備費です。第1弾の予備費は、これまでの地震の例からプッシュ型支援に係った経費分のみとみられ、能登半島地震にかかる費用の総額ではないことに注意が必要です。

このことについて、筆者は上記の通りSNSでも注意喚起をしましたが、「予備費」「プッシュ型支援」などといった聞き慣れない言葉も多いため、よりわかりやすく解説していきます。

総理記者会見でも触れられた「プッシュ型支援」

岸田総理大臣の記者会見を見ると、そもそも総理は自らこの費用についてプッシュ型支援についてであると述べています。(枠内、太字は筆者)

また、プッシュ型の物資支援を一層強化するため、週明け9日に予備費の閣議決定を行います。今後とも必要な財政措置を臨機応変に講じてまいります。

(中略、以下記者質疑)
(予備費の閣議決定は9日火曜日に行うという理解で良いか、その規模感はどのくらいになるのか及び現地視察の予定等について)

 まず、先ほど申し上げましたが、週明け、9日に予備費の閣議決定を行いたいと考えております。そして、規模感についてですが、今、精査中ではありますが、寒さが本格化する中、寒冷対策、避難所対策の強化にも万全を期していきたいと考えております。
 過去の災害時も、発災直後に、プッシュ型物資支援の財源措置を予備費で講じてきましたが、今、申し上げた寒冷対策、あるいは避難所対策の強化、これを加味したならば、平成28年の熊本地震の23億円、平成30年7月豪雨の20億円、さらには令和2年7月豪雨の22億円といった、過去の事例と比較しても倍近くになるのではないか、このように考えております。
 ーー令和6年能登半島地震についての会見(首相官邸)

プッシュ型支援とは、国が被災都道府県からの具体的な要請を待たないで、避難所避難者への支援を中心に必要不可欠と見込まれる物資を調達し、被災地に物資を緊急輸送すること(内閣府)を言います。今回の能登半島地震でも、自衛隊を中心にプッシュ型支援が行われており、現時点でかかった費用について、予備費を充てることを閣議決定するという趣旨と考えられます。

熊本地震のプッシュ型支援を含む国からの支援物資一覧 www.bousai.go.jp/updates/h280414jishin/h28kumamoto/pdf/h280729sanko05.pdf
熊本地震のプッシュ型支援を含む国からの支援物資一覧 www.bousai.go.jp/updates/h280414jishin/h28kumamoto/pdf/h280729sanko05.pdf

またそもそも予備費とは、予見し難い予算の不足に充てるための経費で、予算成立後において歳出に計上された既定経費に不足を生じたり、又は新規に経費が必要となった場合、その不足に充てるため、内閣の責任において支出できるもの(財務省)とされています。年度予算に一定額を決めておき、当初予見していなかったものに支出することとされ、最近では新型コロナウイルス感染症対策で多額の支出・予算計上がなされたことでも話題になりました。

予備費は使う際に、「内閣の責任において支出できる」とある通り、閣議決定をすることとなります。また、現在は国会の会期外ではありますが、国会会期中は『予備費の使用について』(昭和29年4月16日閣議決定)において、その目的にも一定の制限が課せられています。

熊本地震でも第1弾の予備費は23億4000万円だった

能登半島地震に対応するために9日に閣議決定で使用される見込みの予備費は、40億円規模と報道されています。これは首相の記者会見でも触れられている通り、平成28年の熊本地震では23億4000万円でした。さらにこの23億4000万円の予備費は全額執行されたわけではなく、14億8000万円が執行され、残額が未執行(不用)となったとされています。

熊本地震に関する首相官邸のお知らせ(https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/kumamoto_earthquake/seifu_oshirase35.pdf)
熊本地震に関する首相官邸のお知らせ(https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/kumamoto_earthquake/seifu_oshirase35.pdf)

熊本地震では発生後1ヶ月後に、総額約7800億円の平成28年度補正予算が成立し、このうち使途目的が定められなかった予備費7000億円は道路などのインフラ復旧のほか、180億円が九州観光支援旅行券といった観光客を呼び起こす事業などにも使われました。

現時点では発災からわずか3日という時点で、何よりも被災者の救命・安全確保を第一にする段階です。予算を作るという大きな流れからみれば、今後、被害の全容解明や復興復旧という段階にかけて、必要な費用が見積もられた上で、第2弾となる予備費決定や補正予算、本予算という流れになると考えられます。かかる費用が不明な段階で予算を策定することはできない以上、現時点でかかった費用に対して予備費を充てるというのが現時点での予算措置としての段階であり、今後被害の全容解明や復旧・復興の段階において、新たに予備費などの予算措置がなされるとみられます。

なお、「閣議決定が9日では遅い」との指摘がありますが、ここまで述べた通り予備費として支出決定することは、現在進行中の「プッシュ型支援」に対して予算を充てる措置であり、いわば事後的措置です。言い方を変えれば「予備費」の性質・特徴であり、また災害対応としては当然のことですから(予算として計上してから支援していたのでは、救命や支援が大きく遅れることは明らかなのですから)、事後的な措置として閣議決定が多少遅れること自体が、復興や復旧に悪影響を及ぼすとは考えにくいと言えます。

「予備費40億円報道」についてのまとめ

ここまで述べた通り、能登半島地震に対する予備費40億円という規模については、予備費執行としては第1弾の可能性が極めて高く、ここまでかかっているプッシュ型支援の費用に対する予算措置がメインです。過去の地震の例から言えば、この後に桁の違う規模の第2弾予備費や予算措置が行われることがほぼ確実です。

現時点での予備費の規模をもって、地震の復興復旧にかかる費用と他の政策費用とを比較したり、地震の規模に対して金額の多寡を論ずるのは早計であり、比較する対象などによってはミスリードになる可能性があります。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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