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喫茶店のおつまみからギフトまで。実はスゴい!名古屋の豆菓子文化

大竹敏之名古屋ネタライター
喫茶店のおつまみ、定番のロングセラー、高付加価値のギフトなど多彩な名古屋の豆菓子

豆食文化を背景に発展した名古屋の豆菓子

名古屋では喫茶店のコーヒーに豆菓子がつくのが当たり前。この他にも海外で人気を博すロングセラーがあったり、付加価値の高いギフトブランドがあったりと、実は特徴的な商品展開を果たしているメーカーが並び立っています。

「豆菓子はでん六(山形)、ミツヤ(福岡)、春日井製菓(愛知)と、大手メーカーが全国に点在していて、愛知・名古屋に特に集中しているわけではありません。ただし、全体的には西高東低で、主なカステラ製造業の分布と類似(九州、大阪、名古屋)しているのも興味深いところ。カステラと同じ南蛮菓子であるこんぺいとうの製法とも共通点が多く、こんぺいとうをルーツに独自に発展したのが日本の豆菓子ではないかとも推察されます

こう語るのは名古屋の豆菓子専門店「豆福」3代目の福谷勝史さん。さらに「愛知は大豆を原料とする味噌や醤油の醸造も盛んな上に、ピーナッツをおつまみにコーヒーを飲む習慣も浸透している。豆にまつわる食文化がある土地柄から、独自の豆菓子文化も発展したといえるのでは」ともいいます。

コーヒーにピーナッツ。喫茶店のおつまみサービスが定着した理由とは?

喫茶店でコーヒーを注文すると、ピーナッツが無料でついてくる。この“おつまみ”サービスを考案したのがヨコイピーナッツ(名古屋市港区)です。

コーヒーに無料でついてくるおつまみの豆菓子。近年は柿の種などをミックスした小袋が多い。写真はヨコイピーナッツの豆菓子を採用しているコメダ珈琲店今池店(名古屋市千種区)
コーヒーに無料でついてくるおつまみの豆菓子。近年は柿の種などをミックスした小袋が多い。写真はヨコイピーナッツの豆菓子を採用しているコメダ珈琲店今池店(名古屋市千種区)

「昭和30年代半ばのこと。きっかけは落花生の自動皮むき器が開発されたことでした」。こう語るのは同社3代目で現会長の横井慶雄さん。それ以前はピーナッツの茶色い薄皮を手むきしていたところ、自動化によって生産力が10倍にアップ。そこで、従来の取引先の菓子店だけでなく喫茶店にも売り込むようになったといいます

折しも喫茶店は出店ラッシュの時代で、特に競争が激しかったのが名古屋でした。ピーナッツをつけるおつまみサービスはライバル店との差別化にうってつけと、名古屋中の喫茶店に広がります。普及しすぎてほどなくこれがデフォルトになり、結果的に差別化にならなかったというオチまでついています。

ヨコイピーナッツ(名古屋市港区)の横井慶雄さん。「当初は喫茶店主が業務用の缶からピーナッツをよそって小皿に盛って出していた。“もう一杯ちょう”とおねだりする人への対策としても小袋入りは有効でした」
ヨコイピーナッツ(名古屋市港区)の横井慶雄さん。「当初は喫茶店主が業務用の缶からピーナッツをよそって小皿に盛って出していた。“もう一杯ちょう”とおねだりする人への対策としても小袋入りは有効でした」

こぞって受け入れられたのは、名古屋のコーヒーとバターピーナッツいわゆるバタピーの相性のよさも要因でした。

名古屋の喫茶店では苦味とコクの強いコーヒーが好まれ、これにバタピーの適度な油分と塩気がマッチし、次のひと口がよりフレッシュに感じられるんです。当時は苦いコーヒーに砂糖を3杯くらい入れて、苦味も甘みも濃くして飲む人が多かったのですが、バタピーをおつまみにすると砂糖の量を抑えられるというメリットもありました」(横井さん)

当初は大きな一斗缶で店に納入していたのが、昭和50年代以降は管理しやすい個包装タイプになり、またバタピー以外に柿の種との組み合わせなどバリエーションも広がっていきました。

「他の地方にも売り込みに行きましたが、浸透したのは東は愛知県の豊橋、西は三重県の桑名、北は岐阜の北部まで。その他の地域では“粗利が減る”と敬遠されて広まりませんでした」と横井さん。喫茶店でコーヒーに豆菓子をつけるサービスは、地域の嗜好との相性、喫茶店のサービス精神などがあいまって地域限定で広まったのでした。

春日井製菓のロングセラー「グリーン豆」は海外でも人気

名古屋に本社を置く代表的な菓子メーカーが春日井製菓です。キャンディーやグミなど幅広い菓子を手がけますが、豆菓子の分野でも生産量は日本で三本の指に入ります。中でもグリーン豆は1973年に発売した同社を代表するロングセラーです。

春日井製菓の豆菓子の多彩なラインナップ。グリーン豆、うすピー、いかピーナなどのロングセラーの他にも、地域の調味料とのコラボやワインと合う味わいのものなどユニークな新商品も多い
春日井製菓の豆菓子の多彩なラインナップ。グリーン豆、うすピー、いかピーナなどのロングセラーの他にも、地域の調味料とのコラボやワインと合う味わいのものなどユニークな新商品も多い

「1928年に創業し、戦後になって豆菓子を手がけるように。スナックとしての豆菓子を売り出したのは国内でも早い方だったと思います」とはマーケティング部の長尾岳さん。

グリーン豆の特徴は原料のえんどう豆。落花生と比べて手間がかかるため、豆菓子の世界ではあまり使われないのだといいます。「落花生の豆菓子は衣をかけて煎ればできますが、えんどう豆はその前に水につけて柔らかくした上で揚げる2つの工程が必要。手間がかかる分、口当たりが軽く、うま味がしっかりつくという魅力にもつながります」と商品開発部の新城明久さん。

「既存商品をよりおいしくしていきたい。グリーン豆も私の入社当時よりおいしくなっています!」と新城明久さん(左)。「ビール、お茶、ワインと豆菓子とのペアリングを提案したい」と長尾岳さん(右)
「既存商品をよりおいしくしていきたい。グリーン豆も私の入社当時よりおいしくなっています!」と新城明久さん(左)。「ビール、お茶、ワインと豆菓子とのペアリングを提案したい」と長尾岳さん(右)

このグリーン豆、実は海外でも人気を博しているそう。アジアやアメリカなど海外での売り上げが全体の10%を占めるのだとか。

「昭和50年代頃から問屋さんが海外で広めてくれたようで、私たちが積極的に売り込んだわけではないんです。海外にはこんなきれいに衣がかかって味わいがしっかりした豆菓子はなく、またわさび味も“日本らしい”とウケているようです。外国製のコピー商品もあるようですが、品質まではコピーできないと思います」と長尾さん。

コロナ禍による家飲み消費で需要が拡大

今秋新発売したグリーン豆のバージョンアップ版「豆極み」、愛知の調味料メーカーとコラボした「ゆで旨ピーナッツ」。特徴あるテイストの新商品も次々売り出している
今秋新発売したグリーン豆のバージョンアップ版「豆極み」、愛知の調味料メーカーとコラボした「ゆで旨ピーナッツ」。特徴あるテイストの新商品も次々売り出している

そして、海外での評価にとどまらず、最近は国内でも再評価されているといいます。

豆菓子の売上は2000年代前半から横ばい状態だったのですが、コロナ禍で家飲み需要が増えた影響もあって売り上げが伸びています。コンビニやドラッグストアで気軽に買え、お酒のつまみだけでなくお茶うけにもなる。しかもヘルシーな上にお腹にもたまる、と見直されているのです」(新城さん)

この10月にはよりおいしくなった「NEWグリーン豆」が発売。さらに手づくりの要素を加えたアップグレード版グリーン豆「極み豆」も発売。世間の追い風ムードに、おいしさを追求する企業努力の成果がタイミングよく重なり、再評価の気運はますます高まっているのです。

ギフト向け路線に特化し豆菓子の可能性を広げる豆福

冒頭のコメントの「豆福」はギフト向けの豆菓子に特化した個性派メーカー。戦後の高度成長期から贈答用豆菓子を看板商品にしてきましたが、10年前に3代目の福谷勝史さんが陣頭指揮をとるようになってから、この路線をより明確に打ち出したといいます。

豆福では、金シャチ型のパッケージがユニークな「豆でなも」、ワインやクラフトビールに合うことをテーマにイカスミやトリュフ塩を用いて開発された「豆バル」など付加価値の高い商品がラインナップされる
豆福では、金シャチ型のパッケージがユニークな「豆でなも」、ワインやクラフトビールに合うことをテーマにイカスミやトリュフ塩を用いて開発された「豆バル」など付加価値の高い商品がラインナップされる
3代目の福谷勝史さん(右)をはじめ豆福のスタッフは若い世代が主力。製造から販売まで一貫体制の企業は豆菓子業界では非常に珍しい
3代目の福谷勝史さん(右)をはじめ豆福のスタッフは若い世代が主力。製造から販売まで一貫体制の企業は豆菓子業界では非常に珍しい

「この業界はOEMが主流で、同じ商品がラベルだけ変えて流通しているケースが多いのですが、我が社は自社のブランドで売るオリジナル商品にこだわっています」と福谷さん。商品はバラエティに富んでいてオリジナリティ豊か。大豆やそら豆、アーモンドやカシューナッツといった様々な素材に、和三盆やカレー、チーズ、八丁味噌などバラエティに富んだフレーバーをかけて他にはない味をつくっています。金シャチのパッケージの名古屋みやげとなる商品、ワインやクラフトビールに合うナッツの詰め合わせなどもユニークです。

名古屋市西区にある豆福の店舗。製造もここで行っている
名古屋市西区にある豆福の店舗。製造もここで行っている

「低価格路線だと大手と競合してしまうので、素材や製法にこだわって、ギフトや自分へのごほうびになるものに特化して商品をつくっています」という福谷さん。販路も百貨店や観光施設の土産物売り場などにしぼって付加価値を高めているそう。特にほぼ全商品を取り扱うのは名古屋市内の本店とジェイアール名古屋タカシマヤ店、松坂屋名古屋店の3店舗に限定。コンビニやスーパーで安価で買えるものとは真逆を行く戦略をとっています。

「豆はヘルシーで味つけもしやすく菓子の素材として使いやすい。豆菓子の枠にとどまらず、日本を代表する菓子のひとつに育てていきたいと考えています」。日本独特の発展・進化を遂げてきた豆菓子にはまだまだポテンシャルがある、そういって福谷さんは胸を張ります。

コーヒーのお伴、老若男女に愛される大衆的なお菓子、そして高付加価値のギフト。様々なシーンや販路で親しまれている名古屋発の豆菓子。喫茶店で、コンビニやスーパー、ギフトショップで、手に取って味わってもらいたいものです。

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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