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女子ゴルフツアー開幕戦の結果から今季を占う!~韓国勢か鈴木愛か、イ・ボミとキム・ハヌルは!?~

金明昱スポーツライター
開幕戦で5年ぶりに予選落ちしたイ・ボミ。復調を期待したい(写真:Nippon News/アフロ)

韓国勢の強さは健在

 やはり今年も韓国勢なのか――。

 2018年の日本女子ゴルフツアーが開幕し、ダイキンオーキッドレディスで優勝したのは日本ツアー参戦2年目の韓国のイ・ミニョンだった。これでツアー通算3勝目だ。

 彼女は2017年シーズン、ツアー初参戦ながら2勝をマーク。トップ10入りは14回と抜群の成績を残して賞金ランキング2位となった。

 パーオン率は73.6111%で1位、平均ストロークも70.7278%で3位と安定した数字を残していた。

 3年前に腎臓がんになり、その後病魔を克服した“不屈のゴルファー”と呼ばれる25歳は、「明日、自分がどうなるかわからない。とにかく後悔しないこと。ゴルフ以外にもやってみたいことがあったら、やったほうがいい」と、空いた時間があれば趣味の海外旅行を楽しみつつ、ツアーのある週はゴルフに専念する。

 一方で、ガンの再発もあるかもしれない恐怖とも戦っていると聞く。今を生きることに全力の彼女には、ある種の覚悟と強さがある。

 そうした精神力に加え、昨年の実績からしても、開幕戦優勝は決して驚くべきことではないだろう。今季、賞金女王候補の筆頭と言っても過言ではない。

 イ・ミニョン以外の韓国人選手の活躍も目立った。2位にユン・チェヨン、3位タイに申ジエ、李知姫、9位タイにキム・ヘリム、12位タイにペ・ヒギョンと実力者の名前が並ぶ。

 昨年から日本初参戦した“8頭身美女ゴルファー”と呼ばれるユン・チェヨンは、日本でも人気急上昇の31歳。

 30歳にして韓国ツアーから離れ、日本ツアーに専念する覚悟を決めて、昨年苦労の末、初シードを獲得した。

 昨年の序盤は慣れないコースや日本の生活環境に戸惑いを見せていたが、プレーからはすでにそうした迷いは吹っ切れた様子がうかがえた。悲願の初優勝こそ逃したものの、「2年目から気持ちが楽になった」との余裕が好成績につながった。今季は上位争いに食い込む可能性のあるプレーヤーだろう。

 さらに日本ツアーで常に賞金女王争いしている2009年米ツアー賞金女王の申ジエの集中力、そして決して崩れることのないゴルフは健在だ。

 2013年から5年連続で賞金ランキングトップ5入りしているが、まだ日本で賞金女王のタイトルは取れていない。日本で頂点を狙う彼女にとっては、幸先のいいスタートとなった。

 今季は2月に行われた欧州・豪州女子ツアーの共催「ActewAGL キャンベラ・クラシック」でも優勝しており、今年も日本ツアーでは上位に食い込む存在なのは間違いない。

ダークホースはキム・ヘリム

 そして、もう一人、注視しておきたい実力者がいる。キム・ヘリムだ。驚いたのは開幕戦2日目に65をたたき出したこと。最終的に順位は7位タイだったが、爆発力は昨年同様で、衰えを知らない。

 自分の体重を増やすため、1日にたまごを30個食べてトレーニングしていたという話があり、韓国では「たまごゴルファー」という愛称も。それくらい、勝つために必要なことは何でも取り入れる姿勢が、彼女の魅力でもある。

 昨年、7月のサマンサタバサガールズコレクション・レディースに主催者推薦で出場し、「優勝を狙っていた」と豪語しながらも、有言実行でツアー初参戦・初優勝を飾った実力は健在。

 この1勝で今季ツアーの出場権を得ているが、キムは日本女子プロゴルフ協会(LPGA)会員でないため、今年7月の同大会までの1年間が出場のリミットとなる。

「それまで可能な限り試合に出て、ツアー出場権を得たい」と話しており、目標を達成するために全力で優勝を狙ってくるに違いない。

賞金女王・鈴木愛が対抗馬か

 それに対抗する日本人選手はやはり、鈴木愛と断言したい。これは期待の意味も込めてだ。

 昨季、2013年の森田理香子以来、4年ぶりの日本人賞金女王となったが、その勢いは今季の開幕戦でも垣間見えた。

 最終日に単独首位からスタートしたが、失速して優勝を逃した。それでも今季初戦から優勝争いするところを見ると、決して調子は悪くない。

 それに「もう一回、賞金女王を取ったら本物。今年はもっと勝利数を上げて取りたい」と2年連続賞金女王を虎視眈々と狙っている。

 昨年はほけんの窓口レディースとアース・モンダミンカップで2勝し、トップ10入り16回と安定感抜群だった。

 今季もその流れを維持していきたいところ。最も得意とするパターで「昨年は申ジエさんに抜かれた平均パット数で1位を狙いたい」とも宣言している。

 さらに「外国人選手には対抗したい、という気持ちは常にありますし、もっと練習してうまくなりたい。シードを取れただけで満足しちゃいけないんです」と語るほど、向上心は持ち続けている。

 彼女ほどの強い気持ちでツアーに参戦している20代選手は、どれくらいいるのだろうか。

 個人的には昨年ツアー初参戦ながら、マンシングウェアレディースで初優勝して賞金ランキング7位に入った23歳の川岸史果やツアー通算8勝している25歳の成田美寿々にも期待している。

 2人はともに開幕戦で14位タイだったが、優勝するポテンシャルは十分にあると思う。

 川岸は若手ながら、緊張するシーンでも常に落ち着いたプレーが目を見張る。

 一方の成田は、勝利に対する執着心は誰よりも強く、引けを取らないと感じる。韓国人選手たちとの争いにどれだけ食い込んでいけるのかに注目したい。

気になるイ・ボミとキム・ハヌル

 どうしてもゴルフファンが気になるのは、ツアー屈指の人気を誇るイ・ボミとキム・ハヌルの2人が今季どうなるのかだ。

 開幕戦では5年ぶりの予選落ちと、見せ場を作れずに終わった2015、16年賞金女王のイ・ボミ。

 去年も1勝こそしたが、スイングが不調なのは誰が見ても明らかで、それをまだ引きずるかのようなプレーが続いた。

「迷いながら回っていた」と正直に語っていたが、まさかの予選落ちに周囲も驚いたに違いない。

 ただ、まだ始まったばかりとあって、この1試合ですべてを決めるのは時期尚早。本人も「何かで1番になりたい。3勝あげたい」と語っており、必ず軌道修正してくるはずだ。

 専属キャディの清水重憲氏も「ボミは“スロースターター”」と語っていたが、ゆっくりと上昇するきっかけをつかんでいきたいところだろう。

 そしてもう一人はキム・ハヌル。昨季は3勝して一時、賞金ランキングで1位を走っていたが、シーズン終盤で鈴木愛に逆転でトップの座を譲り、同4位に。

 今季開幕戦でも、彼女の動向に注目が集まったが、通算1オーバーの37位タイ。

 開幕前、ハヌルは韓国メディアに「1勝するのも難しいですが、欲を出すなら今季は4勝。日本ツアーに参戦して1年目は1勝、2年目は2勝、3年目は3勝したので、今年は4年目なので4勝」と語っており、目標は明確。

 開幕戦こそ他の韓国勢に押され、蚊帳の外に置かれた感じがあるが、昨年の強さが戻ってくると信じたい。

リランキング制度開始で争い過熱

 優勝争いが白熱する一方で、今季から注目されているのが、ツアー出場権を巡る争いだ。

 日本女子プロゴルフ協会(LPGA)は今季から「リランキング制度」を導入した。これは、賞金シード以外の選手をシーズン中に2度、その時点の賞金ランキングに応じて、以降の出場優先順位を変更するというもの。

 そのため、昨年までの規定であればQTの上位選手は、ツアーにほぼフル参戦できたのだが、今季からそうはいかなくなった。

 出場するすべての試合が大事な戦いで、賞金を稼いでランキングを上げていかなければ、リランキングが行われた時点で出場権を失う選手もいる。

 さらにレギュラーツアーの出場権を持たない選手にもチャンスが生じ、その争いも過熱している。

 その代表的な選手は、昨季シード権を喪失した原江里菜、2013年賞金女王の森田理香子やツアー屈指の人気プロの香妻琴乃などだ。

 彼女たちは開幕戦のダイキンオーキッドレディスに主催者推薦枠(最大8試合)で出場したが、以降も推薦枠からの出場で、賞金ランキング上位入りを目指している。

 そうした戦いの行方を追うと、また違ったツアーの楽しみ方ができるが、選手たちは毎週行われるし烈な争いに、心中穏やかではないだろう。

 いずれにしても、今季女子ツアーはまだ始まったばかり。様々なドラマが生まれ、新たなスターが誕生することを期待したい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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