「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 命を守るため震災発生時に活用してほしいペットボトル水と備蓄食品の情報
2024年1月1日16時10分ごろに発生したマグニチュード7.6の能登半島地震。5名の方が亡くなったとのこと(1)(2)。亡くなった方のご冥福をお祈り申し上げ、避難している方たちの無事をお祈りすると同時に、今ある食べ物や飲み物が最大限に活かされるよう、震災が発生した時、賞味期限が過ぎていても飲んだり食べたりできるものの情報をお伝えしたい。被災地はもちろん、被災していない全国の方にも活かしていただきたいと願って記事を書いている。
ペットボトル入りミネラルウォーターの期限は「容量が担保できる期限」
ペットボトルに入っているミネラルウォーターには「賞味期限」が表示されている。「賞味期限」は、おいしさのめやすである。だが、ペットボトル入りミネラルウォーターの場合、書いてある期限は、正しくは「おいしさのめやす」ではない。表示してある容量が担保できる期限である(3)。なぜなら、ペットボトルは、長期間保存しておくと、容器を介して水が蒸発していくので、「2リットル」と書いてあっても、書いてある容量より少なくなってしまう場合があるのだ。日本には計量法という法律があり、誤差範囲を超えて容量が少なくなってしまうと、販売することができなくなってしまう。
ペットボトル入りのミネラルウォーターは、ろ過・殺菌されているので、たとえ期限が過ぎていたとしても飲めることがほとんどだ。水があれば命がつながる。いざというときには確認した上で飲料水として使ってほしい。
缶詰の賞味期限「3年間」は缶それ自体の品質保持期限
缶詰の賞味期限は、たいていの場合、3年間と決められている。それは、缶自体の品質が保証できるのが3年間だからだ。缶詰は、「缶熟」といって、作りたてより、作ってから日をおいたほうが味がしみておいしくなっていることが多い(4)。
食品保存に詳しい、東京農業大学の元教授である徳江千代子先生は、ご自身の実験結果から、味の濃いものや果物のシロップ漬けの缶詰は、15年程度保存できたと話している(5)。また、四国で発見された、70年以上前に製造された赤飯の缶詰も、中を開けて菌を調べたところ、菌が検出されなかったという事実もある(6)。缶詰は真空調理してあるので、外から穴を開けられたりしない限り、中の食品は長期保存できる。だから、たとえ賞味期限が過ぎていたとしても、中を確認して食べられそうだったら活用してほしい。
幼児から高齢者まで食べられる5年保存のパンの缶詰
阪神淡路大震災をきっかけにパンの缶詰を製造している、栃木県那須塩原市のパン・アキモトでは、このたび5年間保存できるパンの缶詰を開発した(7)。パン・アキモトは、パンの缶詰を買ってくれた組織や個人が再度購入してくれる場合、それまで備蓄していたものを引き取って、国内外の被災地や戦闘地などに寄付してくれる。乾パンだと咀嚼できる人しか食べることはできないが、パンの缶詰は、噛むことが難しい幼児から高齢者まで、幅広い世代に食べていただくことができる。製造から2年以上経ってもふわふわのままだ。
アルファ米など非常食は3年以上保存できる
アルファ米も長期保存できる備蓄食品の代表格だ。お湯を入れればご飯になるし、お湯を沸かすことができない場合、水を入れることでご飯になる(8)。賞味期限が過ぎると風味が落ちるものの、いざというときには活用したい。
非常食は、3年から5年の期間保存できるものが多い。中には10年以上保存できるものも開発され、販売されている。
賞味期限は2割以上短くなっていることが多い
賞味期限は、「微生物検査」「理化学検査」「官能検査」という3つの検査をおこない、おいしく食べられるめやすが算出される。その算出された「おいしさのめやす」に、安全係数といって、1未満の数字を掛け算し、賞味期限を表示することが多い(5)。これは製造工場を出荷した後にも、直射日光の場所や高温高湿の場所に置かれるなどのリスクを考えた上のことだ。同じ製造工場で作った同じロット番号のものでも、食品なので、ブレ(個体差)がある。同じリスクにさらされても、大丈夫なものも、そうでないものもある。そのようなリスクを考えて、2割程度短めに設定されているのだ。国が推奨する安全係数は0.8以上。たとえば10ヶ月という賞味期限が算出されたカップ麺は、0.8を掛け算すると8ヶ月に縮まる。直射日光を避け、高温高湿の場所を避けて適切に保存されていれば、印字してある賞味期限を超えて品質が保たれる場合が多い。
俳優の役所広司さんが主演してカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した、ヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』(9)。この映画の中で、役所広司さん演じる主人公の平山が、金に困った同僚に持ち金を渡してしまい、台所に保管していたカップ麺しか食べ物がなく、カップ麺の蓋を開けてクンクンとにおいを嗅ぐシーンがある(10)。においを嗅いで、食べられるかどうか確かめているのだ。もし、食品の中に含まれている脂質が酸化していると、油がまわったような、違和感のあるにおいが感じられるはずだ。
最近では、賞味期限の数字だけ見て処分されることが多いので、においや見た目などの五感を使って判断することが少なくなってしまった。だが、賞味期限などの期限表示が食品ロスの一因になっていることは、日本はじめ、先進諸国では常識となっている。実際、日本政府も、賞味期限の設定の際に使われる安全係数の見直しをすることをつい先日(2023年12月22日)に発表したばかりだ(11)。
「賞味期限」はおいしさのめやす
「賞味期限」は、おいしさのめやすに過ぎない。
いざというときに飲める水、食べられる食べ物があるということは、命を守る。
賞味期限にとらわれ過ぎず、数字だけ見てすぐに処分することのないようにしたい。
参考情報
1)【被害まとめ 2日】石川県内で計4人が死亡 各地でけが人も(NHK、2024/1/2 5:42am)
2)倒壊した建物の下敷きなど・・・石川県で5人死亡 石川で震度7(日テレ、2024/1/2 5:09am)
3)「賞味期限切れ」すぐ捨てないで 災害時に命を守るペットボトル(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2022/8/8)
4)「賞味期限切れ」の方がむしろおいしい食品とは?(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2022/8/10)
5)『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(井出留美、幻冬舎新書)
6)70年以上前に作った缶詰が発見!はたして中身は・・・(井出留美、山形法人会ニュース、2023/11/9, p5)
7)5年経っても焼きたてのおいしさ!!「アキモトのパンのかんづめ」に乳酸菌入りが登場しました。(パン・アキモト公式サイト)