シャビ・アロンソ、アルテタ、イラオラ、欧州の若き名将に共通する少年時代の環境とは?
<勝てば官軍、負ければ賊軍>
それはプロサッカーにおける一つの真理だろう。
勝つために、技術を高め、体力を上げ、メンタルを強化する。勝つために、負けることから学ぶ。勝つために、すべてを捧げる。勝負に敗れ続けたら、その先に道はないからだ。
しかし目的は同じであっても、逆のアプローチもある。
技術そのものを高め、コンビネーションを重ね、質を高めた結果、勝利する。論理的にプレーを組み立てることによって、勝利する。トレーニングの鍛錬で実現したものをよりどころに、勝利する。
鶏が先か、卵が先か。どちらが正解か、不正解か、はない。勝利主義、現実主義にも分けられるが、とにかくアプローチの違いだ。
論理的な勝利へのアプローチ
現在、欧州で勝利を重ねて”若き名将”に名前が挙がるミケル・アルテタ(アーセナル)、シャビ・アロンソ(レバークーゼン)、アンドニ・イラオラ(ボーンマス)の3人は論理的な勝利へのアプローチが際立っている。
アルテタは、主にエバートンで活躍したMFだった。引退後はジョゼップ・グアルディオラに師事し、現在はプレミアリーグでアーセナルを率いる。昨シーズンはし烈な優勝争いを演じ、今シーズンも首位を争う。“師匠”グアルディオラと伍する攻撃的サッカーを展開している。
シャビ・アロンソは、世界最高のMFとして数々のタイトルを勝ち取った。ブンデスリーガ、レバークーゼンで指揮。昨シーズンは降格危機だったレバークーゼンを途中で率いてヨーロッパリーグに導き、今季はバイエルン・ミュンヘンを抑えて首位だ。
アンドニ・イラオラは、アスレティック・ビルバオでサイドバックとして活躍。今や気鋭の若手監督で、昨シーズンはラージョ・バジェカーノの監督としてスペクタクルなサッカーを実現し、FCバルセロナもレアル・マドリードも撃破した。今シーズンはプレミアリーグのボーンマスで采配を振り、じりじりと順位を上げる。
3人は”共通の薫陶”を受けた。少年時代を同じ哲学のクラブ、アンティグオコで過ごしているのだ。
アンティグオコ、結果よりもサッカーを極める
バスク地方ギプスコア県にあるアンティグオコは、1982年に設立している。いわゆる”虎の穴“。育成だけに専念し、レアル・ソシエダやアスレティックに選手を送り込んできた。
アンティグオコは選手に基本を叩き込みながら、選手の長所を重んじる。結果には囚われない。トップチームがないおかげで、勝利主義の枠の外にいられる。育成、養成、練磨が優先。選手としての土台を作り、覚醒、開花を待つ。
当初はアスレティックと提携契約を結んでいたが、2001年からは好条件を提示してきたレアル・ソシエダと契約。現在は再びアスレティックとの契約に戻している。一例を挙げると、レアル・ソシエダ時代の年間契約料は250万ユーロ(約3億3000万円)だった。トップデビューした場合は6000ユーロ、10試合出場で1万2000ユーロ、30試合出場で3万ユーロ。さらにA代表キャップで1万5000ユーロを受け取るなど、条件は細部にわたっていた。
また、アンティグオコは出身選手が提携クラブから別のクラブへ移籍したとき、移籍金の10%を要求。育成だけのクラブにしては高飛車にも思える額だろう。しかし、それだけの自信と実績がある。過去20年、3人だけでなく、他にもハビエル・デ・ペドロ、アリツ・アドゥリス、イマノル・アギレチェなど国際的に成功を収めた選手をざくざくと“産出”している。
アンティグオコの指導は勝利主義がはびこる時代では独特と言える。物事を解決するのに自分と向き合うことを求める。それによって、“虎の牙と爪を隠し持つ”独立心の強い選手を送り出せる。
アルテタ、シャビ・アロンソ、イラオラの3人は素晴らしい現役生活を送った。いずれも知的なプレーヤーとして傑出していた。結果よりもサッカーを極めた成果があった。
その後、彼らは指導者としてもロジカルな仕組みを作っている。選手と対峙し、その力を引き出す。常にサッカーと向き合う行動規範が、監督でもベースになっているのだ。