NYママでブーム、ベビーシッター付きエクササイズ!
きらきらひかる〜 おそらのほしよ〜
「あれ、鼻水でちゃった? 拭こうか。薫先生、ワイプ取って〜!」
一見、普通の託児所のような会話だが、ここはダンススタジオ。壁には大きな鏡が張られ、バレエレッスン用のバーまである。今、NY在住ママの間で密かなブームとなっているベビーシッター付きエクササイズクラスの一コマだ。
ママによるママのためのクラス
マンハッタンから電車で15分ほど。日本人も多く住むクイーンズ地区アストリアにある「YUYU Dance Studio」が、今年1月からベビーシッター付きエクササイズクラスをスタートさせた。
ベビーシッターといっても、子供を預かるのは5歳の娘を持ち、「YUYU Dance Studio」を運営するトリニダット友子さん。友子さんのダンス留学時代からの友人で、スタジオを一緒に切り盛りする横木薫さん(5歳と4歳の男の子のママ! 30分に1度は「コラー!」と叫んでるとか・・・)も一緒に子供達の面倒を見てくれる。
子供を預ける、というより、ママ友に見てもらっているような安心感があるのが人気の理由。アストリア地区の土地柄、駐妻というより、国際結婚組や永住組が多く、毎回10人近くの日本人ママで一杯になる。(ちまみに、駐妻(ちゅうづま)とは、夫の仕事で海外赴任となった奥様の事です)
産後の引きこもり経験が動機に
友子さんがママさん向けのクラスを始めたのは、自身の出産経験による所が大きい。5年前に長女を出産したが、「初めての出産がまさかのニューヨーク」。日本にいる家族に頼れるわけでもない。日本人ママ友がいるわけでもない。アクティブだったはずが、いつしか引きこもりのようになったという。
「感情の波が激しくなって、ノイローゼーじゃないけど、ストレスもあった。このストレスを発散したかったし、こういう気持ちを誰かと共有したかった。なかなか子連れでエクササイズする場がなかったから、それなら自分で作っちゃえ!」
長女の育児が少し落ち着いた3年前、マンハッタンでダンス仲間をベビーシッターにしたママさん向けクラスを開講。2010年9月、アストリア地区に子供向けダンスクラスを行うスタジオをオープンし、今年1月から同地区でママさん向けクラスをスタートさせた。苦境をプラスにー。NYを生き抜く女性はパワフルです。
ちょうど、9月24日のレッスンはママ7人と、5か月から3歳までの子供5人が集合。ママがヨガレッスンで汗を流す間、子供たちは友子先生、薫先生と楽しい時間を過ごしていた。
「最初は、(薫さんと)2人で疲れきってたけど」。友子さんはそう笑うが、そこはママさんでもあり、キッズダンススクールの先生。「だいたい見ているとどういう子かわかる。『この子はある程度1人で遊んでも大丈夫』とか対処できるのは、自分もママだから」。泣けばひたすら抱っこであやし、おもちゃで一緒に遊ぶ。オムツも変えて、「喉かわいてない?」と水分補給だって怠らない。
しかも、ヨガを教えている柴田真理子さんは、NY在住23年の大ベテランで、10歳、8歳、4歳の3児のママ。3人の子育ての傍ら、「ヨガアライアンス」という全米認定ヨガインストラクターの資格まで取っちゃった、デキるママさんなのだ。3人も産んでるとは思えないほど、お腹はぺっちゃんこ。子育て経験も語ってくれる、頼れる先輩ママさんです。
「子供を預けて、自分の時間も持てる。日本でもママサークルがあったりするので、こっちでも広げて行きたい」と、友子さんの夢は果てしなく広がる。
マンハッタンでもシッター付きバレエ
高層ビルが立ち並ぶマンハッタンでも、毎週金曜の午後になるとぞくぞくとベビーカーを押すママさんがやってくるクラスがある。
針山真実さんが行う「針山バレエ Mパフォーミングアーツスタジオ」だ。
マンハッタン中部に位置し、世界屈指の観光名所タイムズスクエアから近く、周囲には紀伊国屋や日系スーパーマーケットなどがある一等地。2010年9月に念願のスタジオをオープンした敏腕先生は、今年30歳になったばかりという若さだ。
時おり西海岸ロサンゼルスでもバレエ指導を行うが、ギャラで自分の渡航費をカバー。「もっとしっかりしてたら、渡航費は絶対下さいなんて言ってたけど(笑)。一生貧乏です」。なんて謙遜するが、来て欲しいと呼ばれれば、赤字覚悟ですっ飛んで行く。スラリと伸びた手足をしなやかに動かしながら、その芯はしっかり強い。
クラリネット奏者を父に持ち、母はピアニスト、2人の姉も国際的に活躍するバレリーナという芸術一家に産まれた真実さん。幼少の頃からピアノとバレエをたしなんで来た。2005年にマンハッタンでバレエ教室を開講し、2010年9月に自身のスタジオをオープン。一切広告を出していないのにも関わらず、評判は口コミで広がり、多くのチビッ子が集まる人気クラスだ。
そんな正統派バレエ教室が、ママ向けクラスをオープンしたキッカケは?
「大人のバレエクラスを取っていた生徒さんが今年に入って出産をしたのですが、その生徒さんが『子供がいてもクラスを取りたい』ということで、それならなんとかその気持ちに応えてあげたいと思った」
毎週金曜の午後、ストレッチを目的としたリラクゼーションバレエと大人向けバレエの2クラスでベビーシッター付きクラスを行っている。シッターを買って出るのは、バレエスタジオの子供好きアシスタントだったり、子供を持つ友人だったり。細長いスタジオの一角を椅子で区切って託児スペースにし、レッスンを受けているママの姿を、子供たちも見ることができるようにしている。
どちらも、手が手ないほどクラス代が高いのでは?
そう思うなかれ! アストリア地区の「YUYU Dance Studio」は1クラスとベビーシッター代で15ドル。「針山バレエ Mパフォーミングアーツスタジオ」も1クラス20ドルとシッター代(その日の生徒数で変動するが、10ドルほど)。入会金や年会費などは一切ない。事前に参加の旨を伝えるだけという気軽さも受けている。
心と体のオアシス
シッター付きエクササイズクラスを受けたあと、私はなぜか心も広くなる。うちには1歳5か月のやんちゃ娘がいるけど、ちょうど遊び食べ、食べムラ真っ最中・・・。
どんなにご飯をぐちゃぐちゃにしようと、「うん、いいよ、いいよ〜」。例え、頭と顔中そうめんだらけになっても、「お風呂入ればいいもんね〜」。本気でイラッとするところで、丸い気持ちになる。娘も同じ年齢のお友達と遊ぶ事ができて楽しそうだし、まさに一石二鳥じゃないですか!
海外での出産は、もちろん幸せに溢れているが、孤独も大きい。日本の家族と話したくても、時差が邪魔する事もある。「しっかりしなきゃ」と自分を追いつめてしまいがちだ。だからこそ、こういうクラスで他の日本人ママと離乳食がどうだこうだと話をするだけで、スッキリしたりする。
NY在住ママの間で人気となっているシッター付きエクササイズクラス。産後の体を軽くするだけでなく、心と体の“オアシス”なのだ。