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女子の方がアンハッピー、ニューヨーク市の10代への無料メンタルサポートとは

宮下幸恵NY在住フリーライター
学校生活において女子は「無言のプレッシャー」を感じているという。(写真:アフロ)

目を閉じて、大きく息を吸って吐いて・・・。それを何度か繰り返す。

ヨガのクラスの一コマではない。先日参加したニューヨーク市の公立中学校での保護者会でのことだ。

マイクを握る校長先生による誘導でマインドフルネス呼吸をしてから、保護者会が始まった。ニューヨーク市の公立校では、昨年9月の新年度から毎日2〜5分のマインドフルネス呼吸法が幼稚園年長から高校まで取り入れられている。

学校生活、女子生徒はアンハッピー

ニューヨーク市の教育委員会が行った2023〜24年度の生徒調査によると、男子より女子の方が高校の卒業率が10ポイント高いなど学業面で上をいくかわりに、より多くのストレスを学校生活で感じており、そのストレスが先生にはなかなか伝わっていないという現状が分かった。

  • 学校の勉強で「ストレス」を感じる、という問いに「強く感じる」「そう感じる」と答えたのは女子生徒の80%、男女どちらでもないノンバイナリー74%、男子63%。
  • 学校での勉強で「不安」を感じる、という問いに「強く感じる」「そう感じる」と答えたのは女子生徒の61%、ノンバイナリー67%、男子47%。
  • 勉強で苦労していると先生が気づいてくれる、と「強く思う」「そう思う」と答えたのは女子生徒の53%、ノンバイナリー39%、男子が63%。
  • 勉強でガッカリしていることに先生が気付いてくれる、と「強く思う」「そう思う」答えたのは女子生徒の46%、ノンバイナリー36%、男子56%。

ニューヨーク市の教育委員会調査より。調査は男女のほか、男女どちらでもないノンバイナリーを含めている)

筆者はちょうどこの調査に当てはまる8年生、13歳の娘をニューヨークで育てている。普段見ている娘と友達たちはとても楽しそうに青春を謳歌しているけれど、見えない不安やプレッシャーを抱えているのだとしたら、何とかして取り除くことはできないかと思うのが親心だ。

市保健局による13〜17歳への無料メンタルサポート

私のような親にとってありがたいのは、ニューヨーク市保健局が13歳から17歳へ無料のメンタルサポートを始めたことだ。

昨年11月に「Teenspace」と呼ばれるオンラインセラピープラットフォームが誕生。子供たちは保険の有無や種類に関わらず、無料でセラピストと電話やメセッメージで一対一のやりとりができる。

ニューヨーク市による無料メンタルサポートのインスタグラム 広告(筆者撮影)
ニューヨーク市による無料メンタルサポートのインスタグラム 広告(筆者撮影)

身体的健康だけでなく、心も健やかに成長するためには、プロによる介入も必要。今年5月、アダムス市長は会見で「Teenspace」がスタートから半年で6800人ほどに利用され、そのうち65%は気分が改善したと明かした。

テレビやインスタグラム広告でもよく見かけ、何かあった時に親や先生にも言いにくいことを誰かに話せるという選択肢があるだけで心強い。

さまざまな「無言のプレッシャー」を感じる女子生徒

ニューヨーク市教育委員会の昨年度の調査を掲載した教育系ウェブサイト「Chalkbeat」では、「女子生徒には無言のプレッシャーがある」とし「女の子の方が不安や鬱を感じるレベルが高いし、それが増加している」というジョンズ・ホプキンス大学タマー・メンデルソン教授の言葉を紹介した。

人種別で見ると、学校生活全般の満足度が一番低いのは黒人女子生徒。「Chalkbeat」の記事内で、17歳の女子生徒は「美しいってどういうこと?それは黒人の女の子ではない」という。何を着て誰といるか、10代ならではの「帰属意識」を人種の坩堝であるニューヨーク市で育っていても感じるというのは心が痛い。

個人の性格もあるが、女の子の方が不安や鬱を感じやすい要因は、ここ数年のSNSの普及を考えるといくつもあるように思う。

カリフォルニア州は46億ドルかけ若者へ無料メンタルサポート

ティーンエージャーへのメンタルサポートに力を入れるのは、ニューヨーク市だけではない。

カリフォルニア州保健サービス局(DHCS)は今年1月、46億ドルをかけて25歳までの若者への無料メンタルサポートプラットフォーム「​​​​​​​​​​​​​​Behavioral Health Virtual Services Platform」をスタート。匿名で申し込み可能でアプリもある。

0〜12歳までの子供とその親・保護者が利用できる「Brightline」と、13歳から25歳までが利用できる「Soluna」というサービスがある。

可愛らしい見た目でティーンエージャーもアクセスしやすそう。(筆者撮影)
可愛らしい見た目でティーンエージャーもアクセスしやすそう。(筆者撮影)

勉強でもプレッシャーがかかるローティーン

ニューヨーク市の無料メンタルサポート対象となる13歳は、難しい年頃だ。

13歳、8年生は、ニューヨーク市では高校受験の年。2教科3時間(英語と算数)のテスト一発で決まるスペシャライズドハイスクールと呼ばれる8校のほか、ダンスや楽器などのオーディションで選抜される高校、学校独自の入試があるなど複雑なシステムの中から自分に合う高校を見つけなければならない。

さらに、高校受験が終われば、来年には「リージェンツ」と呼ばれる高校の単位を先取りするテストがある。本来「リージェンツ」は高校の卒業要件になっている教科ごとの必要単位だが、8年生で先取りすると、高校では「履修した」とみなされ、その先の段階から勉強が始まる。

そして高校になれば「AP」(Advanced Placement)という大学の単位を先に取る。進学先の大学で、高校時代に取得したAPが単位として認められれば、4年ではなく3年で卒業できる場合もある。 超高額な学費が問題となるアメリカの大学では、1年でも早く卒業できることは利点の一つだが、勉強では、中学と高校で先へ先へと急かされている感じがする。

日本で生まれ育った私には、アメリカの高校生=ビバヒル(ビバリーヒルズ高校白書と青春白書)の世界。自由に恋愛して伸び伸びしているのかと思っていたが、勉強のプレッシャーも多い。心も体も大きく成長する10代、様々なサポートの道があって欲しいと切に願う。

このニューヨーク市のティーンエージャー向け無料メンタルサポート「Teenspace」、サービスを受けている時に18歳になればその翌年の6月30日まで継続してセラピーを受けることができる。それ以降も継続する場合は保険、または実費となる。

NY在住フリーライター

NY在住元スポーツ紙記者。2006年からアメリカを拠点にフリーとして活動。宮里藍らが活躍する米女子ゴルフツアーを中心に取材し、新聞、雑誌など幅広く執筆。2011年第一子をNYで出産後、子供のイヤイヤ期がきっかけでコーチングの手法を学び、メンタル/ライフコーチとしても活動。書籍では『「ダメ母」の私を変えたHAPPY子育てコーチング』(佐々木のり子、青木理恵著、PHP文庫)の編集を担当。

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