「日本人は切腹せよ」 放言を繰り返すロゴジン露副首相とは何者か
ドミトリー・ロゴジン露副首相の発言が話題になっている。
メドヴェージェフ首相の北方領土訪問に日本政府が激しく抗議していることに対し、Twitter上で「本当の男なら切腹して静かにするだろう。なのに騒ぐばかりだ」と投稿したのである。
あまりに侮蔑的な発言であり、筆者も一日本国民として激しい憤りを抱いたが、同人の過去の言行を考えればさほど驚くほどのものでもない。
過去、筆者が寄稿した記事の中にロゴジンのひととなりを示すものがあるので、以下にご紹介することにしたい。
(以下は株式会社JSNから発行されている『ロシア通信』に掲載されたものを許可を得て転載したもの)
『ドミトリー・ロゴジンとは何者か』
ドミトリー・ロゴジンという人物
小欄ではロシアの国防政策に関する様々なトピックを取り上げてきたが、今回はその補助線として、ドミトリー・ロゴジン副首相に焦点を当ててみたい。
ロゴジンは1963年、空軍軍人であった父オレグ・ロゴジンの息子として生まれ、フランス語の専門学校で教育を受けた後、1981年にモスクワ大学に進学。卒業後は共産党専従となり、共産党付属マルクス・レーニン大学経済学部も卒業した。
しかし、1991年8月にソ連保守派を中心とするクーデターが発生すると、これに反対するエリツィン陣営に加わり、さらに同志達と共に政党「ロシア再生同盟」を設立。1997年には下院議員に当選し、2001年には「ロシア人民党」副党首に就任。2002-2003年にはEU拡大に関するカリーニングラード問題のロシア連邦大統領特使として交渉窓口を務めた。2003年には選挙ブロック「祖国」に加入し、2004年には同委員長となる。
安全保障問題との深い関わりを持つようになったのは2008年、プーチン大統領によってNATO常駐代表に任命されて以降で、ロシアの立場を主張するタフ・ネゴシエイターとして名を馳せた。2011年には副首相に就任し、軍需産業及び宇宙産業を統括する立場となり、現在に至っている。また、モルドヴァの分離独立地域である沿ドニエストル共和国の問題についても大統領特使を務めているほか、昨今のウクライナ問題でも当初、政策決定に大きな役割を果たしていたと伝えられる。さらにセルジュコフ前国防相の退任論が噂された当初、後継候補の一人にも擬せられた(結局、実現せず)。
過激な言行
ロゴジンの人となりを示すのは、その過激な言行だ。最近では2014年5月、沿ドニエストル共和国を訪問した際、ルーマニアとウクライナがロシア政府専用機の領空通過を許可せず、これに対して「次はTu-160戦略爆撃機に乗ってくることにしよう」とTwitterに投稿したことが話題になった。
ロゴジンはロシア政府きっての「ツイ廃」(一日中Twitterに入り浸っている「Twitter廃人」)として有名で、このほかにも、虎を抱いたプーチン大統領と犬を抱いたオバマ大統領の写真を並べて「我々には異なった価値観と異なった同盟者が居る」とツイートしたり、ウクライナ危機によってロシア製のロケット・エンジンの対米供給が問題になると「NASAの諸君、これで宇宙に行ったらどうだい?」とトランポリンの写真をアップロードするなど、公人と思えないような挑発的・侮蔑的ツイートを繰り返してきた。
その一方、肥満体のロゴジンが戦車に試乗した際には腹がつかえてハッチから出られなくなるという珍事も発生し、これがネット上で拡散されるなど、「いじられキャラ」として奇妙な人気を博してもいる。
(追記 ちなみにロゴジンのアカウントは@Rogozinである)
先端軍事技術に対する鋭い視線
ただし、ロゴジンはときとして安全保障問題、特に先端軍事技術に対して鋭い見解を披露することもある。筆者がなるほどと思ったのは、2009年、米国が東欧へのミサイル防衛(MD)システム配備計画を修正した際のことだ。当時、米露間では、ブッシュ政権時代に決定されたチェコとポーランドへのMDシステム配備が懸案となっていたが、オバマ政権はこれを撤回し、イージス艦を中心とする新計画へと切り替えたのである。米国はこれを戦略的な再編に過ぎないとしたが、ロシア側には、これがロシアの「外交的勝利」であると捉える向きも多かった。
しかし、ロゴジンは、「北極の氷が減少していることを考えれば、イージス艦が北極海に展開してくる可能性があり、こちらのほうがロシアのICBMを迎撃可能な範囲は広がる」との懸念を示したのである。その後、米露「リセット」のユーフォリアが薄れ、再びMD問題が先鋭化すると、実際に北極海へのイージス艦展開が問題になったことを考えれば、まさに慧眼というほかない。
さらにロゴジンは、米国が核弾頭では無く重金属などの非核弾頭を搭載した極超音速弾道ミサイル計画を進めていることにも早くから注目し、これに対抗する手段や、ロシア独自の極超音速兵器開発を行う態勢の確立を主張してきた。昨年末に改訂された軍事ドクトリンに見られるように、こうした極超音速兵器は昨今のロシアで注目を集めているところであり、この点でもロゴジンには先見の明が感じられる。
軍需産業の代弁者
ロゴジンはロシアの軍需産業の代弁者としての顔も持つ。以前からロゴジンは、軍需産業の影響力が強い軍需産業委員会のメンバーとして装備調達の改革や外国製兵器の導入を進めようとするセルジュコフ国防相らと対立してきた。セルジュコフ国防相がイタリア製軽装甲車の導入を決めた際には、ロシア製装甲車を「自家用車」として購入する一方、「雪上性能ならばロシア製の方が上だ」などとしてロシア製装甲車のシェアを守るべくキャンペーンを繰り広げた。
さらにウクライナ危機勃発後、ロシアがフランスに発注していたミストラル級強襲揚陸艦の引き渡しが停止された問題では、ロゴジンが、自らの手元にフランスからミストラル引き渡し式典の招待状が来ていることを現物の写真付きでTwitter上で暴露し、フランス政府は釈明に追われることになった。仕事を奪われたロシア造船業界は以前からミストラルの購入に反発し、今回の引き渡し停止を好機と捉えていたから、ロゴジンの暴露は引き渡し妨害を狙った工作であった可能性もある。
このように様々な顔を持つロゴジンは、ロシアの安全保障をウォッチする上で見逃せない人物と言えよう。