アメリカ人にITという言葉を使って本当に通じるのか?
昔書いたブログ記事の焼き直しです。
改めて説明するまでもないですが、ITはInformation Technologyの略で情報技術、あるいは、情報通信技術と訳されます。日本では、コンピューター(とネットワーク)を使った技術とその応用の総称ととらえる人が多いと思います。たとえば、facebook、Pepper、自動運転車、スマートグリッドなどもITの範疇とされるでしょう。
しかし、英語圏では(少なくともアメリカでは)ITという言葉のニュアンスはもう少し範囲が狭いことが多いです。
たとえば、Free Online Dictionary Of Computingでは、Information Technologyを”Applied computer systems- both hardware and software, and often including networking and telecommunications,usually in the context of a business or other enterprise.”と定義しています(強調は栗原)。要は、ITという言葉は企業内コンピューティングという文脈で使われ、コンシューマー向けや社会基盤的なコンピュータの応用は範疇外とされていることが多いことがわかります(日本と同様、情報技術全般を指すこともまったくないとは言えないでしょうが)。つまり、アメリカ人ビジネスマンにとってのITという言葉は日本人ビジネスマンにとっての「情シス」に近いです。
日本政府のIT戦略本部の英語サイトを見ると、IT Strategy Headquarterと書いてありますが、アメリカ人が見ると役所の組織内情報システム(人事や給与など)を管理している部門のことかと勘違いする可能性があるのではないかと心配してしまいます。
日本で言うITを英語で表現しようと思うとComputer TechnologyあるいはDigital Technologyと言った方がニュアンス的には近いと思います。産業としてのセクターを言うだけなら単にTechnology (sector)と言えば、日本で言う情報産業に近いと思います。
さらに、辞書には載っていないですが、アメリカではITを「情報システム部門」という意味で使うこともあります(IT Organizationの略なんでしょう)。日本で「情シス」というとシステムのことだけではなくそのシステムの管理をしている部門のことを指すことがあるのにも似ています。
これに関連して、たまに見られる誤訳問題について触れておきましょう。”10 things to help you bridge the IT/end user divide”という記事見出しのITをどう訳すべきでしょうか?「情報技術とエンドユーザーのギャップ解消に役立つ10のこと」だとちょっと意味が通じません(少なくとも記事の中身とは異なります)。「情報システム部門ととエンドユーザーのギャップ解消に役立つ10のこと」と訳せば記事の中身にも合致します。
同様に、”10 things I’ve learned from working in IT”という記事を「IT業界で働いて〜」と訳した事例がありましたがちょっと不正確で「IT部門で働いて〜」あるいは「情報システム部門で働いて〜」と訳すべきです。”IT業界”だと、たとえばベンダーの開発やマーケ担当者等々も含まれるイメージになりますが、この記事で触れているのは企業内の情報システム担当者の話だけです。
また、IT Professionalという言い回しもあります。日本語ですと「ITプロフェッショナル」とそのまま訳されることが多いと思いますが、その意味するところは、コンサルタントやアナリストなどのIT業界の専門家ではなく、企業の情シス部門社員のことです。なので、IT Professionalを「IT専門家」と訳してしまうとほぼ誤訳に近いと思います。
ということで、英語圏においてITという言葉に「(従来型の)社内情報システム」というニュアンスが強いことは意識しておいて損はないと思います。