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今季の前田健太が苦悩している明確な理由

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ここまでキャリア最低のシーズンを過ごしている前田健太投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【2試合連続で5回を投げきれなかった前田投手】

 タイガーズの前田健太投手が今シーズン16度目の登板に臨み、2回二死の場面でオースティン・ヘッジズ選手から見逃し三振を奪い、記念すべき通算1000奪三振を達成した。

 日本人メジャー投手としては野茂英雄投手(1918)、ダルビッシュ有投手(1982)に続く金字塔だ。だがこの日の前田投手のハイライトはこの1点のみだった。

 初回に2本塁打を喫し3失点を記録すると、2回は3者凡退に抑えたものの、3回は3安打を許しさらに3失点を追加され、2死を奪ったのみで途中交代している。

 これで7月は、2試合連続で先発投手として最低限のノルマである5回を投げきれずに降板している。

【ここまではキャリア最低のシーズンで推移】

 7月に限ったことではなく、今シーズンの前田投手は間違いなく苦悩の日々を過ごしている。この日の試合はチームが同点に追いつき黒星は免れたものの、ここまで2勝5敗、防御率7.26という成績からも明らかだろう。

 また6月5日のレンジャース戦で2球を投げただけで緊急降板した試合を含めると、今シーズンは16試合中9試合で5回に到達せずに降板している。選手の活躍度を指標化したWARを見てもマイナス評価になっており、まったく貢献できていないのが分かる(過去7シーズンでマイナス評価になったことは一度も無い)。

 右ヒジの内側側副靱帯損傷によりシーズン途中でトミージョン手術を受けることになった2021年でも防御率は4.66に止まっていただけに、ここまではキャリア最低のペースで推移している。

【前田投手の投球を支える3つの主要球種】

 それではなぜ今シーズンの前田投手は、これほどまでに苦しんでいるのだろうか。前田投手の投球データを改めて確認してみると、前田投手が苦しんでいる明確な理由が見えてきた。

 36歳になった前田投手の現在の立ち位置は、フォーシームを始めとする各球種の平均球速がMLB平均を下回っており、間違いなく技巧派投手に分類される。それを裏づけるように、MLB所属選手の各種データを公開しているMLB公式サイト「savant」は、今シーズンの前田投手がデータ上8種類の球種を投げ分けていると判断している。

 ただ各球種の使用頻度を見てみると、シーズンごとに多少の違いがあるものの、2019年以降はフォーシーム、スライダー、スプリットを主要球種として投球を組み立てているのが分かる。

 つまり3球種を巧みに投げ分け、うまく緩急を使いながら相手打者を翻弄するというのが前田投手の投球スタイルということになる。

【主要3球種の球質に目立った変化は確認できず】

 逆にいうと、主要3球種が機能しなければ前田投手は投球を組み立てるのが困難になるということだ。

 そこで下記の表に注目して欲しい。今シーズン含めた直近3シーズンの主要3球種の使用頻度と、各球種の被打率を示したものだ(資料元:MLB公式サイト「savant」)。

(筆者作成)
(筆者作成)

 如何だろう、今シーズンはスプリット以外の球種がまったく機能していないのだ、こんな状況で投球を組み立てるのは、前田投手でなくても至難の業だろう。

 もちろんフォーシームとスライダーの質を上げられれば、再び前田投手の本来の投球スタイルを取り戻すことができるはずだ。ただ指摘するのは簡単だが、それほど単純なことではなさそうだ。

 というのも、今シーズンの主要3球種の平均球速、スピン数、ムーブメントをチェックしても、過去2シーズンと比較して目立った差異を確認できないのだ。つまりボールの質という面では、大きな違いがないということだ。

 こうしたデータを見る限り、現状を打開できない限り今後も苦しい投球が続くと予想される。果たして前田投手は、この窮地を脱することができるだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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