「失敗したら腹を切る」と大見得を切った検事を法廷でガン詰め! プレサンス元社長冤罪事件国賠で証人尋問
「あなたAくんの取調べで間違いを起こしたら腹を切るって言いましたよね?」
「はい」
「どういう気持ちで言ったんですか?」
「捜査に全身全霊をかけているんだということをAさんに伝え、取調べに向き合ってもらいたいと思ったからです」
「間違い起こってるんですけど?」
「裁判所でそう判決されたことは残念に思ってます」
「できもしないことを被告人に堂々と言うんですか?」
「できもしないって……」
「腹を切るって、できるんですか?」
「それは例えで」
「えーえっ!!!! ノリでおっしゃったんですか? 腹を切るですよ」
法廷に山岸忍さんの声が響き渡る。
学校法人をめぐる横領事件で大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、その後無罪が確定した元プレサンスコーポレーション社長・山岸忍さんが起こした国家賠償請求訴訟で、11日、山岸さんの部下A氏の取調べを行った田渕大輔検事の証人尋問が大阪地裁にて行われた。
刑事事件の無罪判決のなかで「(A氏に)必要以上に強く責任を感じさせ、その責任を逃れようと真実とは異なる内容の供述に及ぶ強い動機を生じさせかねない」と指摘され、付審判請求に対する大阪地裁決定においては「特別公務員暴行陵虐罪の嫌疑が認められる」「強い非難を向けなければならないといえる」とまで書かれるなど、その取調べを指弾されている田渕検事は、冤罪事件を作り上げた責任についていかに語ったのか?
罵詈雑言を浴びせ続けた挙げ句、「腹を切る」発言
田渕検事は2019年12月8日夕方、山岸さんの部下A氏に対する取調べにおいて、思いっきり机を叩き、「ウソつき」などと15分にわたって大声を張り上げ、罵倒し続けた。
いったん静かな口調に戻るのだが、また興奮しはじめ、30分もの間、A氏にひとことも口をはさませず、一方的に、
「もうさ、あなた詰んでるんだから。もう起訴ですよ、あなた。っていうか、有罪ですよ、確実に」
「子供だって知ってます、嘘ついたら叱られる、お仕置きを受ける、当たり前のことです。小学生だって分かってる、幼稚園児だって分かってる。あんたそんなことも分かってないでしょ。(中略)いっちょまえに嘘ついてないなんて。かっこつけるんじゃね-よ。ふざけんな」
と罵声を浴びせ続ける。
原告である山岸忍さんが言及した「切腹発言」はそのあとに行われていた。
「失敗したら腹切らなきゃいけないんだよ。命賭けてるんだ、こっちは。だから、絶対失敗しないように証拠を集めて、何百人の人から話を聞き、何千点という証拠を集め、何万という電子ファイルを見て、何十万通ものメールを見て、これをしてあなた達を逮捕しているんだ。命賭けてるんだよ。検察なめんなよ。命賭けてるんだよ、俺達は。あなた達みたいに金を賭けてるんじゃねえんだ。かけてる天秤の重さが違うんだ、こっちは。金なんかよりも大事な命と人の人生を天秤に賭けてこっちは仕事をしてるんだよ。なめるんじゃねーよ」
この発言が「例え」なのだと言うのである。
「命を賭ける」「失敗したら腹を切る」とのたまっていた田渕氏は検察庁を辞すこともなく、現在、東京高検の検事を務めている。
被疑者への罵倒を法廷で再現してください!
11日の田渕検事への証人尋問ではもうひとつ大きな山場があった。
尋問がふたり目の中村和洋弁護士に代わってからのこと。
「証人は今回、録音録画を見直しておられない。自分の言ったことだから覚えているということでしたね」
「はい」
「乙B25号証を示します。41ページです。残念ながら12月8日の取調べの録音録画はこの法廷には証拠として出ておりません。われわれは何度も見ているのですが、裁判官はどういうふうにお話になったかわからないんです。再現してみてくれますか」
すかさず訟務検事が立ち上がる。
「異議があります。質問ではありません」
と反論するも、
「えっ、質問ですよ」
と中村弁護士が即答。
「再現しないとならないですか?」
田渕検事は裁判長を見上げ、当惑したような表情を浮かべながら尋ねると、
「どうぞ」
と小田真治裁判長は右手を前に差し出して、証言を促す。田渕検事は手もとに置かれた書面に目を落とし、
「いや、はいじゃないだろ。反省しろよ、少しは。なに開き直ってんだよ。なに開き直ってるんだ。開き直ってんじゃないよ」
自分の取調べの録音反訳を念仏のような口調でモゴモゴ言いかける。
すると、
「そこまでで結構です。今のでは偽証になってしまいます。わたしは昨日、視てます。ちゃんとやってください」
中村弁護士が声を張り上げた。
「異議があります。音の感じ方には差があります。正確な再現は不可能です」
とふたたび訟務検事が立ち上がるも、中村弁護士は、
「全然違います。もう一度お願いします」
とキッパリ言い返す。法廷内が一瞬、静かになったあと、中村弁護士が、
「こんな感じではなかったですか?」と言うや、「いや、はいじゃないだろ。反省しろよ、少しは。なに開き直ってんだよ。なに開き直ってるんだ。開き直ってんじゃないよ」
と法廷内に響き渡るような怒声で読み上げてみせる。
まさにドラマを見ているような思いだった。
中村弁護士が話したように、12月8日の取調べの録音録画映像はまだ法廷でも公開されていない。この訴訟のなかで、国が提出を拒んでいるからだ。そのため、原告は2022年12月1日、文書提出命令を申立てている。
2023年9月19日に出された大阪地裁の決定は田渕検事による部下A氏に対する取調べ録音録画のほとんどの提出を命じるものだった。
しかし国が即時抗告した後、本年1月22日、大阪高裁は現決定を変更し、取調べの48分間以外の提出の申立てを却下するという信じ難い決定を下した。現在、最高裁に審理の場が移っている。
録音録画は国民の税金で行われたものであり、検察庁の私物ではない。冤罪を生むに至った取調べの実態を明らかにすることは国民の知る権利を鑑みても当然認められるべきであり、最高裁の公正な裁きが待たれるものである。
「不穏当」とは言ったものの、言い訳に終始
複数の裁判官からその取調べについて疑義を呈されている田渕検事は、証人尋問において、机を叩いたり、大声を出したりという行為については「不穏当であった」と語った。
その一方、被疑者A氏がウソをついたので、正直に自分に向き合ってもらうために、ああいうような取調べをせざるを得なかったという弁解を縷々続けるなど、自己正当化に終始しているとしか思えない場面が続いた。
ちなみに、田渕検事はA氏への取調べ以外で大声を出す、机を叩くといった行為をやったことはないと言明している。
刑事事件の公判では「3月17日付スキーム図」という書類の位置づけが問題となり、結局無罪判決の決め手となった。
この文書には「学校法人へ支払い」(貸付金)という記載があり、A氏が山岸さんへの説明のためにこの書類を作ったのであれば、山岸さんの横領事件への関与はなかったことの証明になるという性質のものだった。
もちろん特捜部もこの書類の存在を知っていた。この書類を作ったA氏は取調べのなかで、いったんは山岸さんへの説明資料だという供述もしているのだが、なぜか田渕検事はその内容を一行たりとも調書に書かず、経理担当者向け、もしくは弁護士向けの説明資料であると位置づけてしまった。
最重要証拠について、なぜ被疑者から整合性のある供述を取ろうとしなかったのか。秋田真志弁護士より厳しく問われたのだが、明解な答えは聞かれずじまいだった。
裁判長に注意されても無意味な異議を連発!
なお田渕検事はA氏への取調べにおいて、共犯者であるB氏が「自白」した内容をそのまま伝えて、同様の供述をするよう促すかのような会話を行っていた。この点について問われると、「軽々にすべき行為ではない」と不適切であったことを認めた。
しかし、法廷にて田渕検事の口から冤罪事件を作ってしまったことに対する謝罪や反省の弁が述べられたことは一切ない。
証人尋問では気になることがあった。
原告代理人からの質問の最中、訟務検事が幾度となく異議をとなえる場面があったのである。とりわけ山下裕之特捜部長(当時)や総括審査検察官について質問が及ぶとすぐさま立ち上がった。
田渕検事が口を開く前から「捜査の秘密に関わる内容ですので、答えられません」と先手を打つケースもあった。
裁判長が「理由がないのに異議を言わないでください」と何度も注意したのだが、訟務検事はやめようとしない。
検察庁の上層部へ責任問題が波及しないよう、組織防衛を図っているとしか思えない異様な対応だった。
国は前代未聞の冤罪事件を作ってしまったことについて真摯に向き合う姿勢があるのだろうか?
様々な疑問の残る初回の証人尋問だった。