AC長野パルセイロ・レディースが新サイクルに突入。田代久美子監督新体制で「結果にこだわる」シーズンに
AC長野パルセイロ・レディースが再び、転換点を迎えた。
10月に開幕するWEリーグ。2シーズン目の今季もオフにさまざまな移籍の動きが見られたが、選手の入れ替わりが最も大きかったのが長野だ。主力を含む8選手がチームを離れ、新たに7選手が加入。4分の1以上が入れ替わった。
指揮官も代わった。前任の小笠原唯志監督が退任し、田代久美子ヘッドコーチが監督に就任。WEリーグで女性監督が指揮を執るのは、ちふれASエルフェン埼玉に続き2チーム目となる。
WEリーグ初年度は5勝6分9敗で、11チーム中7位だった。代表クラスの選手がいない中で上位チームから勝利をもぎ取るなど健闘も光ったが、ケガ人の多さや得点力不足に苦しんだ。今季は陣容が大きく変化し、新たなサイクルに突入する。
チームはオフ明けの7月4日に始動。雄大な山を背景にした千曲川沿いのグラウンドに、初々しいかけ声が響いた。
【田代久美子監督の色とは?】
田代監督は現役時代、さいたまレイナスFC、浦和レッズレディースなどでDFとしてプレーした。28歳の時に引退し、指導者として13年以上の実績を持つ。
山梨学院大学女子サッカー部では創部から8年間指揮を執り、今では全国有数の強豪校に。2021年にA-Proライセンス(プロチームを指導できるS級ライセンスに準じる資格)を取得し、トップリーグでは初めて指揮を執る。
今年1月、長野にヘッドコーチとして加わったが、当時すでに監督就任の打診を受けていたという。新シーズンを見据えたチーム作りは、昨季から始まっていたと言える。
「このようなチャンスをパルセイロから頂いたことに対して自信もありましたが、自分の力がどこまで通用するのか、自分の可能性に挑戦してみたいという気持ちでした」(7月2日の就任記者会見)
田代監督が目指すのは「選手の特徴を最大限に引き出すサッカー」。その上で、プロリーグだからこそ「結果にこだわる」ことも強調している。
長野は昨季、得点数が「15」と少なく、シュート数も1試合平均「7」と、リーグ最少だった。目標とするリーグ6位以内に向けて、より多くのシュートチャンスを作りたい。
「『攻守ともに、運動量豊富にアグレッシブに』というクラブの指針があります。昨シーズン、(守備の)ハイプレスが相手にとって嫌な要素だったと改めて感じたので、そこを強みにしながら、相手によって戦い方を変える部分もしっかり構築していきます」
田代監督の言葉から見えてきたキーワードは、「ハイプレス」と「ハードワーク」、そして「チャレンジを楽しむこと」。目指すゴールは同じでも、相手によってシステムや配置を変化させた小笠原前監督の「カメレオン・サッカー」とは違ったアプローチを見せてくれそうだ。
始動日の練習は、走力強化がメインとなった。真夏の走り込みはハードだが、シーズンを戦い抜く上で避けては通れない。「とにかくケガ(人)を出さないように、強い丈夫な体を作り上げていくことがテーマ」(田代監督)というように、多くの負傷者を出して苦しんだ昨季の教訓もある。その上で、8月20日に始まるカップ戦に向けて、徐々に戦術的な落とし込みを進めていく。
「走りは嫌いなはずだったのですが、気分的に楽しかったです。雰囲気もめっちゃいいですね」という声も練習後には聞こえてきた。新加入のDF長江伊吹だ。
「新入団選手も多い中では、コミュニケーションをとっていくことが一つ重要なポイント」という田代監督。ゲーム形式のメニューも取り入れて練習の雰囲気にメリハリを作りながら、個々のプレーやキャラクターもじっくりと観察しているようだった。
【新戦力の融合】
レギュラーは、昨季からかなり変わるかもしれない。
オフには、センターバックのDF五嶋京香(→大宮)と、アグレッシブな攻守を象徴する存在だったMF瀧澤千聖(→広島)が移籍。昨季のリーグ優秀選手にも選ばれた2人の穴をいかにして埋めていくか喫緊のテーマとなりそうだ。
また、長くチームを支えてきたGK池ヶ谷夏美、MF泊志穂が引退。池ヶ谷はコーチングスタッフとして、今後は外からチームを支えていく。MF八坂芽依、MF住永楽夢も引退を発表し、2年目のDF藤田理子(→伊賀FC)、3年目のDF大河内友貴らがチームを離れた。
一方、新加入選手の顔ぶれも頼もしい。優勝した神戸からMF菊池まりあとDF長江伊吹、千葉からFW小澤寛。そして、昨季5位の仙台からMF福田ゆいとGK福田まい、FW(MF)成田恵理、DF奥川千沙の4名が加入した。
年代別代表で活躍した選手が多く、新加入の福田ゆいとまいは双子で、2018年U-20W杯優勝メンバー。長江は現U-20代表のリーダー格。出場機会を求めて移籍した選手が多く、チーム内の競争も活性化しそうだ。
五嶋が抜けた後の新キャプテンは、4年目のMF大久保舞が務める。主軸となる1996年世代の一人で、繊細なキックやパスで中盤を統率するボランチだ。
「キャプテンは、人生でやれるかやれないかぐらいの経験なので、断る選択肢はもちろんなかったし、快く引き受けました。自分の個性も発揮しながら、それぞれの選手の個をうまく活かそうと思っています」(大久保)
大久保を筆頭に、藤枝順心高校出身はこれまで4名だったが、新たに4名が加わり、同校出身者は8人(奥川、大久保、DF肝付萌、DF奥津礼菜、福田ゆい・まい、DF岩下胡桃、長江)に。同高は全日本高等学校女子サッカー選手権大会で最多5度の優勝を誇る名門で、8人中6人が全国優勝を経験している。これだけ揃ったのはたまたまだったというが、「藤枝順心出身の選手は基本的に技術がしっかりしている。走れる印象がありますし、アベレージが高い選手が多い」(田代監督)と言うように、ポテンシャルの高さは間違いない。
大久保が言う。
「高校3年間ポゼッションサッカーのコンセプトをみんなが理解してやっていたので、パスが欲しい場所にいいタイミングで出してくれる、という阿吽の呼吸が、プレーの中で自然と生まれると思います」
今季の背番号10を背負うのは、MF瀧澤莉央だ。昨季は千聖との“ダブル瀧澤”で攻撃をリード。縦に早くなりがちな攻撃に緩急をつけながら、自らも積極的にゴールを狙った。ボールを持つと何かをしてくれそうな期待を抱かせるゲームメーカーだ。
福田ゆいは、中盤の即戦力として期待される。優れたキープ力とパスセンスで決定機を創り出し、2017年にはリーグ新人賞に輝いた。仙台では出場機会に恵まれなかったが、長野でブレイクできるか。瀧澤や大久保、肝付、MF伊藤めぐみらと共に中盤を活性化したい。
若手主体のチーム構成となった中、MF國澤志乃が2016年の1部昇格を知るただ一人のメンバーとなった。新チームではどんな役割を担うのか。ケガからの早い復帰が待たれている。
田代監督の下で、新生チームはどんなスタートを切るのか。そのお披露目は、8月のカップ戦となる。
*写真はすべて筆者撮影