思うがままの容姿になれる奇跡の水を手にした女性の成れの果て。行き過ぎた外見至上主義を問う
韓国発の長編アニメーション「整形水」は、単なるサイコスリラーと片付けられない、現代社会の歪みを辛辣に容赦なく映し出す1作だ。
タイトルの「整形水」は、顔を浸しただけで、自分の思うがままの容姿になれる奇跡の水。
作品は、この水を手にし、美にとり憑かれた女性の成れの果てを描く。この作品で描こうとしたこととは?
手掛けた韓国のチョ・ギョンフン監督に訊くインタビューの第三回へ。(全三回)
外見至上主義がもたらす悲劇が、世界の観客に届いたのではないか
最終回は、監督自身のことを訊く。
チョ・ギョンフン監督は、先の回でも触れたように今回が長編映画監督としてはデビュー作になるが、すでにプロデューサーとして20年以上のキャリアを持つ。
結果として「整形水」は、世界各国で上映され、大きな成功を収めた。
プロデューサー的見地にたって、本作の成功をどう分析しているだろうか?
「プロデューサーとしての目かどうかはわかりませんが(笑)、まず先にお話ししたように外見至上主義がもたらす悲劇が、世界の観客に届いたのではないかと思っています。
ある意味、世界に共通してある、多くの国にあるテーマだったのではないかといま感じています。
ただ、わたしは、外見至上主義を正面から批判する目的で『整形水』を作ったわけではありません。
こういうことが起きても不思議ではないんじゃないか、果たしてわたしたちが望む『美』とは何なのか?
実は、わたしたちが求めてやまない『美』というのは、もしかしたらまったく意味のないものかもしれない。
わたしたちは勝手にメディアなどで作り上げられた『美』の観念にとらわれ過ぎているのではないか?
改めていまの社会における『美』の在り方について考えてもらう機会になってほしかったんです。
もう少し広い目で、客観的な目で『美』を見直してみたら、違う世界が見えてくるのではないか?そういうことを伝えたいと思いました。
こういったことを考えてほしいと思って、外見至上主義というテーマを主軸にして、そのことでもたらされる悲劇を少し誇張した形ではありますが描きました。
結果として、そのわたしの問いかけが伝わってくれて、観客のみなさんが『外見至上主義』についていろいろなことを考える機会になったのではないかと思っています。
そのことが世界で高評価を得ることにつながったかなと思っています」
代表としての立場と、監督としての欲望のせめぎ合いを
わたしはひとりでしていました(笑)
では、今回の監督への挑戦をいまどう振り返るだろう?
「今回の『整形水』の場合にはちょっと特殊なケースで。
スタート時点では、プロデューサーという立場で携わっていて、後半になってからは監督の役割を担うことになりました。
ですから、今回は監督として大変だったとか、プロデューサーとして大変だったとか、ちょっと一概に言えないところがあるんです。
ただ、一番何が大変だったかというと、わたしが自分の会社の代表という立場ながら、監督業も並行して務めたことです。それが何よりも大変でした。
代表の立場からすると、いかにその制作をスムーズに進めていくことが大事になってきます。
制作が少しでも効率よく進むようにしながら、クオリティを落とさない作品作りができるよう全体を見ていかなければならない。
でも、監督という立場は、そういうことを度外視してしまうものです。
作品を少しでも良くしたいですから、時間やスケジュール、経費などを度外視して己の望むまま突っ走るときがある。
どの監督もそうだと思うのですが、絶対に譲りたくないものがあって、それを叶えるためには締切とか関係なくなってしまいがちです(苦笑)。
この代表としての立場と、監督としての欲望のせめぎ合いをわたしはひとりでしていました(笑)。この相容れない両者が衝突することが多々あって苦労しましたね。
でも見方を変えれば、これがよかったかもとも思うんです。
普通だったら、プロデューサーがいて、監督がいて、対立したり衝突したりする。
それを誰かがうまく収めないといけないわけですけど、今回の場合は、わたしがひとりでプロデューサーと監督としてせめぎ合いをして、自分でどうにか収めるしかない。
ですから、他人に迷惑をかけることはなかったのではないかと思っています。
自分自身としても改めてプロデューサーの気苦労と、映画監督としての矜持みたいなことに気づいて大きな経験になりました。
今回の経験から、確かにこれからも監督をしてみたいという欲は生まれました。
監督としてこういう演出がしたいなとか、こういう表現を伴ったストーリーを作りたいな、なんていうことも以前より考えるようになりました。
ただ、長くプロデューサーをしてきましたから、まだまだプロデューサーとしてのアイデンティティーのほうが強い。
プロデューサーという仕事が自分には合っていて、最大限の力を発揮できる場所なのかなとも感じています。
ですから、話をまとめると、わたし自身が作品を撮ることも大事にしたい。
でも、いまはそれ以上に会社の代表を務め経営している立場でもあるので、一緒に仕事をしているみんなとともにいい作品を作ることが大事で意味があることと思っています。
曖昧なお答えになってしまいますが、監督をこれからするかもしれない。でも現実的には、おそらくプロデューサーとして作品を作ることのほうが多くなるだろうと思っています(笑)」
「整形水」
監督:チョ・ギョンフン
全国順次公開中
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