空洞化する中心市街地を、開業の夢を実現するまちへ。青梅市の「アキテンポ不動産」とは?【地域の自立】
商店街に一軒また一軒とシャッターの下りた店が増えていく。いま多くの地域では、空き家だけでなく、空き店舗の問題が深刻です。
借り手がいないからだろうと勝手に想像していたところ、その理由を知って軽いショックを受けました。『商店街実態調査報告書』(*)によると空き店舗の増えている理由の第一位は「所有者に貸す意思がない」。次いで「店舗の老朽化」、「家賃の折り合いがつかない」と続きます。
多くの物件所有者は店舗を放置していても、年金などで経済的に困らない。もしくはすでに持ち主や権利者が誰だかわからなくなっている物件も多い。一般の不動産屋がこうした物件に手を出すことはまれで、地元の若い人たちの開業ニーズも明らかにしないまま放置され、どんどん中心街が活気を失われているとのこと。
あなたのまちはどうでしょうか?
そんななか、物件をオーナーと交渉して借りやすい条件で提供し、若い人たちの夢を実現できるまちにしていこうと動いているのが東京都青梅市。2016年より「アキテンポ不動産」事業を立ち上げ、中心市街地の活性化に尽力してきた「株式会社まちつくり青梅」の國廣純子さんに話を伺いました。
(*)平成27年度「『商店街実態調査報告書』中小企業庁委託事業」より。空き店舗が埋まらない理由「所有者に貸す意思がない(39.0%)」「店舗の老朽化(34.6%)」「家賃の折り合いがつかない(29.2%)」
40年かけて空洞化した、青梅市の中心市街地
そもそも青梅とはどんなまちなのでしょうか。青梅市の人口は13万6000人。古くは綿織物の産地で、中心市街地は青梅街道の宿場町として賑わいました。
昭和50年頃から徐々に商業の中心は市東部および周辺郊外のショッピングモール等に移り、現在中心市街地に暮らすのは5000〜6000人。青梅駅に買い物に立ち寄る奥多摩方面のJR利用者を含めても、中心市街地の商圏人口は市全体のわずか一割、約1万3000人に満たないといいます。
「人口13万人規模で中心市街地の利用者がこれだけ少ないまちも珍しいです。たとえば立川市は人口17万人ですが、通勤者も多く昼間の人口は100万人規模。青梅は、まちの空洞化がかなり厳しいところまで進行しているんです」(國廣)
また、インターネットで何でも取り寄せられる現代は、お店で直接売り買いする市場は縮小し、市街地の意義自体も問われています。
「地元のみなさんは、賑わっていた頃のまちに誇りを持っていて、このまま放置しておきたくないという方が多い。でも従来のイベント型活性化事業では効果もあがらなかったり、地域内の閉鎖的な軋轢の中で、あきらめ感もあったりで」(國廣)
6年ほど前から市や商工会議所、商店街組織が話し合うなかで持ち上がったのが、国の「中心市街地活性化制度」の対象地区として、青梅市を認定してもらおうという案でした。認定されれば再生事業への助成やバックアップが受けられ、空き店舗の利活用促進にもはずみがつきます。國廣さんは再生事業の推進役を担うタウンマネージャーとして雇用され、2013年に青梅市へやってきました。
目標は、若い人たちが一定の割合で住み、働き続ける環境をつくること
タウンマネージャーとは、通常、中心市街地活性化協議会やまちづくり会社などに属し、都市再生の計画づくりや地域のプレーヤーとともに事業を組み立てていく、まちづくりの推進役。よその地から通ってくる人も多いなか、國廣さんは着任が決まった翌月にはもう単身、渋谷区から青梅市へ引っ越してきたと言います。
國廣さんの考える都市再生の目的は、「このまちに、若い人たちが一定の割合で住み、働き続ける環境をつくること」。景観まちづくり事業やマルシェイベント事業などいくつもの事業を行ってきたなかでも、本丸として進めてきたのが「アキテンポ不動産」事業です。
市内の空き店舗をオーナーと交渉して貸せる状態にし、借りたい人とマッチングする。そう書けばごくシンプルですが、これを進めるのはじつにハードルが高いのが現状です。
「そもそも空き店舗のリストもないですから。着任してはじめの2年は物件の調査とオーナーへのコンタクトを地道にやりました」(國廣)
個人の夢を実現するまちに
まず、建築アドバイザーを交えたチームと街歩きしながら「あの物件は空いていそう」と目視で"空き店舗物件リスト"をつくり、町内ごとの物件状況を地域の自治会長や商店会長に相談してオーナーと交渉。
仮にリストに100軒あっても、そのうちコンタクトが取れるのは20〜30軒。連絡先がわかっても、所有者が青梅在住でなかったり、入院中……など、さまざまなハードルを乗り越え、賃貸に応じてくれるのが5〜6軒という打率の低さ。ただ、交渉に至れば、若い人の開業を促進したい取組みの意義を認めて合意してくれる人も多く、賃貸供給できる物件として少しずつ契約が成立していきました。
物件開拓が進み、2016年1月には着任3年目にしてようやく「空き店舗展示ギャラリー」をオープン。初めての物件見学ツアーには50名が参加し、合計8件の申込みがあるなど、予想以上の反響とともに事業が動き始めます。
「SNSで物件情報を公開すると数日で5000件近くの閲覧数があり手応えを感じました。開業準備で具体的な物件を探している方だけでなく、良い物件があったらいつか開業したいと漠然と考えているような方々の潜在的な思いを引き出すことにも気づきました。
見学会に参加される方の約半数は青梅の方で、それ以外は西多摩や埼玉などと広範囲です。飲食店をやりたいという方やものづくりの工房を探している方など、いろいろなニーズがあります」(國廣)
青梅に住みながら昭島の家具メーカーに勤めていた森井隆介さんは、アキテンポ不動産を利用して2017年9月に独立。オーダーメイドもできる木工家具の店をオープンする夢を実現しました。
「普通の不動産屋にも工場だけ、店だけの物件はあったんですが、奥が工房として使えて表が店舗にできる広い物件はほかになくて。店の前に人通りもありますし、そこはやっぱり商店街ならでは」(森井)
本業は別にありながらも、趣味を生かして起業する例も。サイクリングで青梅をよく訪れていた村野秀二さんは、自転車の保管や休憩スペースを提供する「サイクルハーバー青梅」をオープン。共同経営するお兄さんの伸司さんがリタイア後に飲食店を開業するのが夢で同店舗のカフェで食事を提供しています。
その他にも撮影・編集ブースを備えた映像スタジオや、キッチンカーで営業していた若者がお弁当屋を開業するなどさまざまな事業が始まりつつあります。
本格的な事業から個々の夢を実現するような小さな事業まで、どれも楽しそう。はじめはぼんやり思い描いていた「やりたいこと」の輪郭が、物件を見て初めてはっきりしてくる人もいるのだそう。
2017年9月まで、約1年半の間に物件提供した約20軒のうち10軒が契約成立。数字だけ見ると小さいかもしれませんが、ここ4年間で中心市街地に新たに開業した店が57軒(閉店は42店舗)と考えると、この10軒の重みがわかります。
来年春には旧青梅街道沿いの本町商店街にクラフトビールのバーもオープン予定。地元の酒屋の若当主に、アキテンポ不動産で出た元化粧品店だった物件を勧めたところ、新しい青梅のクラフトビールを開発する挑戦に火がついたのだとか。着実に、新しい価値を生み出す素地が、まちにでき始めているようです。
新しい店をまちの活性化につなげていくために
開業だけでなく、まちにとっては事業を持続してもらうことも重要。そこでアキテンポ不動産では、起業した人が無理なく事業を続けていくための工夫もしています。
通常の不動産屋では、物件を預けるだけで不動産オーナーに月々お金がかかりますが、「アキテンポ不動産」ではこれを無償にする代わりに、借り手を優遇する策として、基本、敷金礼金はなし。初期の家賃が負担にならないよう月額5〜6万円程度に抑え、ゆくゆく事業規模の見込める事業者に対しては、家賃が段階的に増える階段式の家賃設定を提案します。
一方で、踏み倒しのリスクを回避するために家賃2〜3万円といった安すぎる設定は敢えてしないのだそう。
さらには、借りる人に物件が魅力的に見えるよう、さまざまな工夫も。
まず物件を内覧する際に室内サイズを測ってすぐに図面を起こします。長期間動かない物件には小さな建築模型をつくり、たとえば美容室として使うならこんな感じ……とイメージしやすい立体像をギャラリーに展示。実際に、この模型を見て美容院として物件を使い始めた方も。ウェブサイトには丁寧な物件情報が掲載され、SNSで随時告知。物件情報を陳列したギャラリーでは各物件情報のカードを持ち帰ることができます。
古い建物は地域の資源。その価値に気付いてもらうために
商店街の協力を得て、新しい借り手を探すマッチングが、はじめから順調に進んできたわけではありません。
「旧市街地は、空き店舗利用には重要なエリアです。でも古くからの住民の方が多いこともあって利害関係も複雑なので物件オーナーの猜疑心も強く、なかなか手をつけにくかったんです。
なのでまずは周辺から攻めようと。歴史的な建物を活用する良さを知ってもらう機会をつくったり、商店街の人たちと協同事業を行うなどして、人との関係をつくることに注力しました」(國廣)
たとえば、もともと「青梅織物工業協同組合」だった建物を文化財登録するための調査をしながら、テナントとして斡旋したり、近隣のクラフト関係者をつなぐ場づくりをしたり。
「こうした古い建物が地域の魅力になる価値に気付いてほしい思いがありました。建物はまちのひとつの個性で、資源でもありますから」(國廣)
織物工場だった広い空間を商店街の若手にイベント会場として使ってもらうなどのマッチングをしながら、地域のプレーヤーとの接点を増やしていきました。
「もともと青梅にはクリエイターなどプレイヤーになる人が多いんです。でも各々で活動していることが多くて、地域貢献になることを何かしたいと思っていてもなかなかきっかけがなかったんですね。そこへ一声かけて集まる場をつくると、何かやろうという空気が一気に生まれます。
青梅織物工業協同組合のエリアで現在活動している「織区123」や、まちつくり青梅が立ち上げた「おうめマルシェ」もそのひとつ。今では集まったメンバー同士で自主的にイベントを行ったり、地域貢献的な事業以外にも活動範囲を広げていってくれています」(國廣)
ここで出会った人たちが、後に空き店舗を活用してくれることにもつながっています。
身の周りの世論づくりが一番大切
中心市街地活性化事業は、青梅市の職員である野村正明さん、商工会議所の大野哲明さん、そして國廣さんの3人がコアメンバーとなって進めてきました。
「比較的短い間に多くのことを実現できたのは、自分たち3人が立場を超えて話し合って、やれたらいいよねって話が出た時に、じゃあやってみようって即座に決められたことが大きかったように思います。他の自治体でも参考にできそうなことで言えば、3人それぞれがある程度の裁量権を持たせてもらって動けたこと、でしょうか」(野村)
2015年4月、地域の43社を株主として「株式会社まちつくり青梅」が設立されました。「なぜこの取り組みが必要か」を説明する講演を市内で20回以上は行ったという國廣さん。
「身近な場所での世論づくりが一番丁寧にやるべきところ。情報を届けるべき対象はまずは近くの市民です」(國廣)
まちつくり会社のあるべき姿として、駅前唯一のスーパーが閉店した際には定期的にマルシェを開催するなど、住民に役立つ事業を率先して行ってきて、空き店舗活用事業、マルシェ事業、青梅織物工業協同組合施設の保全活用事業などを実施。それらを束ねた「中心市街地活性化基本計画」を内閣府に提出して2016年6月、無事に国の認定がおりました。
「青梅は私が赴任した4年前はうまくいっていないまちの典型に近い状態でしたし、決してはじめからみんなが協力的だったわけではないです。それでもこの数年間で、多くの変化が起きて、私自身が一番それを感じています」(國廣)
店や家は確かに所有者のもの。でも活用しないまま放置すれば、まちの空洞化に拍車がかかり、まちの活気が失われていきます。使っていないのであれば、開放して新しいことをやりたい人に託してみる。一軒でもそんな店が増えれば、まちに吹く風は違うものになっていくのかもしれません。
(写真:小林友美)
ソース:この記事はNPO法人グリーンズ『greenz.jp』(2017年12月19日公開)に掲載された記事を改訂したものです。