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自律型ロボット兵器の規制問題

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ海軍よりX-47Bステルス無人攻撃機

アメリカ軍が最近10年くらいの間に無人攻撃機のRQ-1プレデターやMQ-9リーパーを大々的に投入し始め、その活動が国際法に違反しているのではないかと問われ続けて来ました。越境攻撃や暗殺行為が問題にされたのです。ただし既存の無人攻撃機は遠隔操縦方式であり、人間の意思で攻撃の決定を下すという点では有人機と変わりがありません。前述の越境攻撃や暗殺行為といった問題は有人機でも行えることであり、仮に無人機を使用禁止にしても問題は何も解決しないのです。つまりプレデターやリーパーのような遠隔操縦型の無人機は、無人機特有の問題を抱えているわけではありません。

現在、無人攻撃機を代表とする無人戦闘兵器を規制しようという運動は「完全自律型戦闘システム」を備えた未来のロボット兵器を先制予防的に規制しようというのがテーマになっています。人間の意思を離れてロボットが自己判断で敵味方そして民間人を判別し敵への攻撃を行う・・・これこそが無人戦闘兵器の特有の問題であり、倫理的に規制すべきという声が一部から上がり始めました。

完全自律型の戦闘兵器の登場は遠い未来

しかし完全自律型の戦闘兵器とは非常に高度な人工知能を搭載する事が要求されます。戦場に敵味方しかおらず味方が識別信号を出している条件限定なら実用化は簡単ですが、現実には戦場は入り乱れ民間人も交じります。それを自動で判別し敵だけ攻撃するシステムの構築は現代の技術では実現困難です。それでも世界中の先進国は完全自律型戦闘兵器の実現を目指し、先ずは半自律型の戦闘兵器の試作を行っています。

半自律行動型ステルス無人攻撃機

既存の無人攻撃機であるプレデターやリーパーは遠隔操縦式の上に機体そのものの性能も軽飛行機程度の代物で、敵正規軍相手には全く使えすゲリラ掃討およびテロ首謀者暗殺などに使われて来ました。その次の段階の半自律型無人攻撃機はステルス性能が与えられ、遠隔操縦に加えて指令を与えたら簡単な任務なら自動でこなせる能力が盛り込まれます。これにより1機の有人機をリーダーとして複数の無人攻撃機を付けて編隊を組む事が出来ます。従来のように無人攻撃機を1機ずつ遠隔操縦する手間を省けるようになり、機体そのものの性能も上がり、敵正規軍に対する第一撃を行えるようになります。この半自律行動型ステルス無人攻撃機ですら、将来の戦闘の様相を全く変えてしまうだろうと言われています。

  • ノースロップ・グラマンX-47B(アメリカ)
  • BAEタラニス(イギリス)
  • ダッソーnEUROn(フランス)

試験飛行が始まった半自律行動型ステルス無人攻撃機は以上の3種類があります。ロシアや中国でも研究されているそうですが、こちらは公式の発表はまだありません。上記3種類のうちフランスのダッソーnEUROnはフランス以外のヨーロッパ各国も開発に参加しています。スイス・スウェーデン・イタリア・ギリシャ・スペイン・・・つまりヨーロッパの主要各国は半自律行動型ステルス無人攻撃機を規制しようという運動には賛同しないでしょう。

過去に対人地雷やクラスター爆弾の国際的な規制が条約として纏まった時、それらの兵器を最も多く保有するアメリカ・ロシア・中国は反対しました。それでも条約が纏まったのはヨーロッパ主要各国が団結したからです。しかし無人戦闘兵器の規制についてはヨーロッパ各国に期待する事があまり出来ません。

何処からが完全自律型と言えるのか

半自律行動型ステルス無人攻撃機の規制が困難である上に、規制を掛ける上で問題となるのは、規制すべき完全自律型戦闘兵器とは一体どういうものだと言えるのかという点です。まだ存在しない未来の兵器に規制を掛けようというのですから、雲を掴むような話です。その上、規制そのものが難しいかもしれません。完全自律行動が出来る人工知能は民間のロボット技術でも研究されていく筈であり、それを軍事用にフィードバックするのはきっと容易いでしょう。軍事技術と民間技術の垣根は低く、規制をますます難しくしています。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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