長時間労働の是正と矛盾する<裁量労働制>の拡大と<高プロ>の導入は断念を
ようやくというか、やっとというか、当然というか、ついにこのような動きが出てきました。
これらの報道によると、安倍首相は、裁量労働制の実態把握を調査するとして、それが終わるまで裁量労働制を含んだ法案の提出をしないと表明したということです。
そして、それは裁量労働制を法案から切り離すことも視野に入れいている(by読売新聞)・・・と。
出されようとしている法案はごちゃ混ぜ法案
安倍内閣が最重要法案と位置づけていた「働き方改革」関連法案は、いくつもの法律の改正案を抱き合わせた法案です。
残業時間を1ヶ月平均80時間までとする労働時間の上限規制や、政府が「同一労働同一賃金」と呼んでいる制度もこの法案には入っています。
そして、これと一緒に、今話題の裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度(=高プロ)も入っており、いわばごちゃ混ぜ状態になっているのです。
そもそも、こうしたやり方自体に無理があるわけです。
そもそも裁量労働制と高プロは法案の中で浮いた存在
遡れば、そもそも「働き方改革」の目玉はなんだったのでしょうか。
実は、目玉の1つは長時間労働を規制するということでした。
たとえば、平成28年3月25日の第6回「一億総活躍国民会議」における安倍総理は、次のように発言しています。
そして、ニッポン一億総活躍プラン(平成 28 年6月2日閣議決定)では、次のように記載されました。
こうした総理の発言や、閣議決定された文書を見ると、長時間労働規制やってくれそうだな!と思いそうになりますよね。
しかし、出てきた法案の中には、その考えと逆行する裁量労働制の拡大と高プロが入っていたのです。
長時間労働を誘発する制度
裁量労働制や高プロが長時間労働を誘発するのは、多くの人が指摘するところです。
両制度とも、給料額を一定にして、労働者を「定額働かせ放題」にできるという点では共通点があります。
普通の働き方をする場合には、残業代は、働いた時間に応じて払われます。
そして、1日8時間、週40時間を超えて働かせる場合は、25%の割増賃金を払わなければなりません。
これによって、使用者には、労働者を長く働かせるとたくさん給料を払わなければならないということで、労働者を長く働かせることに抑制が働くのです。
ところが、このリミッターを外すのが裁量労働制と高プロなのです。
たとえば、月給30万円の労働者のAさんとBさんがいたとします。
Aさんは、どんなに働かせても給料は30万円で固定です。
他方、Bさんは、働かせれば働かせるほど払うべき給料が増えていきます。
あなたが経営者であれば、どちらに残業させますか?
答えは自明で、給料が増えない定額のAさんほうでしょう。
こういう長時間労働を誘発する制度を、長時間労働をあんなに攻撃していた「働き方改革」に入れていること自体が、矛盾なのです。
なぜ政府はこだわるのか?
冒頭で指摘したとおり、ようやく政府はこの裁量労働制を切り離すことを視野に入れたとされています。
しかし、高プロについては言及していませんし、裁量労働制の拡大自体もまだ諦めたわけではないでしょう。
それにしても、高プロと裁量労働制について、なぜ政府がそんなにこだわるのでしょう?
上記にあったように、元々は、安倍総理も「長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や女性の活躍を阻む原因」と言っており、政府が閣議決定した文書でも「長時間労働の是正は、労働の質を高めることにより、多様なライフスタイルを可能にし、ひいては生産性の向上につながる」とまで言っているわけです。
あえて、それを「働き方改革」の法案に入れなくてもよかったのに・・・。
しかし、次のニュースを見ると、誰がこの制度の導入を求めているのかが分かると思います。
データ誤用、再調査促す=働き方法案の成立訴え-榊原経団連会長
トーンは異なるものの経営者団体側は法案の成立を訴えたり、審議の遅れに懸念を表しています。
では、労働側はどうでしょうか?
最大の労働組合の連合は次の通り反対です。
全労連や全労協なども反対を訴えています。
ご存じかどうか分かりませんが、労働組合にはいろんな流派があります。
しかし、上記の通りどの流派も反対です。
働き方改革の正体
経営者団体が法案の成立を訴え、労働組合が反対する・・・。
これが「働き方改革」の正体なのでしょう。
そして、その法案の成立を兎に角目指す政府。
この状態が全てを物語っており、あえて政府がどちらを向いてこの法案の成立を目指しているのかは言う必要さえないでしょう。
もちろん、働き方改革関連法案には、使用者にとっては痛いものもあります。
しかし、それでも、裁量労働制と高プロの2つを取るために、経営者側は肉を切らせて骨を断つつもりだったのだろうと思います。
それほどに、この2つを欲していることは、裏を返せば、それだけ労働者にとってデメリットがあるということでもあります。
裁量労働制と高プロは断念を
政府が、本当に働き方改革を目指し、長時間労働の是正を目指すのであれば、その目的に相反する裁量労働制の拡大と高プロの2つは断念すべきです。
少なくとも、この2つを「働き方改革」という衣に包んで通そうという姑息な手段は使うべきではないと思います。