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年末年始、どこ行く? 【ひとり温泉】を絶対失敗しないコツ≪土地の人との出会いも大切に≫

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
ひとり温泉中の筆者(三脚立てて筆者撮影)

旅先での出会いを求めるひとり温泉 土地の人との触れ合い

私のひとり温泉において、思い出に残る出会い、ごくごく個人的な旅の一例をご紹介しよう。

和歌山県湯の峰温泉は湯川の両側に温泉宿が並び、こじんまりとしている。湯川沿いに源泉があって、その上にある湯壺で、地元の人たちは筍やら里芋やら根菜などを湯がくのが日常的な風景。

「温泉で湯がくとね、野菜のあくが抜けるんだよ」

そこにいた地元の方らしきご婦人が教えてくれたが、いかにも生活の一部に温泉が存在することがわかる。

ご婦人と一言二言を交わした後に、少しだけ熊野古道を歩いた。

熊野古道の入口は、温泉寺の裏手。坂道を登ると杉木立があり、木々の下には苔が生い茂る。どことなく湿気が感じられる。その湿気も爽やかに感じたのは、熊野古道という聖なる土地ゆえか。

全身を大きく伸ばし、肺に入る限りの息を吸い込み、歩いては、また深呼吸して、休み、また歩く。爽快な時間が流れた。

温泉街に戻る。世界遺産に登録された、かの有名な貸切風呂「つぼ湯」は予約でいっぱいだったから、近くの共同浴場「薬湯」に入った。

小屋のような簡素な建物ののれんをくぐり、質素な脱衣場へ。脱衣所の棚にはプラスチックのピンクの籠が置いてある。どうやら先客がひとりいる様子。

風呂場に入り、熱すぎるお湯に身体に馴らしていると、

「あら、さっきのお姉さん」

と声をかけられた。

振り向くと、「温泉で野菜を湯がくとあくが抜ける」と湯壺で教えてくれたご婦人ではないか。

一緒にお湯に浸かる。

話をすると、やはり地元の田辺の住民だった。

しばし、熊野古道を歩いた話などをした後に、ご婦人は先に上がっていき、私はひとりで、まだまだお湯を愉しんだ。

さて、帰ろう。

温泉街のバス亭前のいすに座っていると、クラクションが鳴った。

軽トラックが目の前に止まる。先ほどのご婦人だ。

「田辺へ行くの? 乗せてってやろうか」

「はい!」

私は軽トラックに同乗させてもらい、紀州の梅の話などを聞きながら、田辺までの1時間を楽しくドライブしたのだ。

かれこれ20年前の出会いだったが、車に染みついた匂いやご婦人のしぐさなど、いまでもよく覚えている。

旅を彩る一期一会であった。

ひとりだからこそ出会いが広がる、寅さん的な旅である。

※この記事は2024年9月6日に発売された自著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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