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前王位・木村一基九段(47)今期リーグ最終戦で敗れ、藤井聡太現王位(18)へのリターンマッチならず

松本博文将棋ライター

 5月7日。東京・将棋会館において東京・将棋会館において、お~いお茶杯第62期王位戦・挑戦者決定リーグ紅組最終5回戦▲斎藤慎太郎八段(28歳)ー△木村一基九段(47歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時30分に終局。結果は99手で斎藤八段の勝ちとなりました。

 リーグ成績は斎藤八段、木村九段ともに3勝2敗に。豊島将之竜王が4勝1敗の好成績を収めて紅組優勝を決めました。

 将棋界屈指の人気棋士として、ファンからの大声援を受けて戦い続ける前王位・木村九段。今期、藤井聡太王位(18歳)へのリターンマッチはなりませんでした。

木村九段、プレーオフ進出ならず

 将棋界はこれから、藤井聡太王位・棋聖の防衛戦が始まります。棋聖戦では前棋聖・渡辺明名人がリターンマッチを決めました。

 一方で王位戦でも、前王位・木村九段がリターンマッチに名乗りをあげる可能性がありました。

 木村九段は初戦、2年前に七番勝負を戦った豊島将之現竜王と対戦。強敵に勝って好スタートを切りました。

 紅組は3勝1敗で木村九段、豊島竜王、澤田真吾七段が3勝1敗で並び、3者が優勝の可能性を残して最終戦を迎えました。

 斎藤八段は2連敗から2連勝で最終局を迎えました。

 斎藤「プロ入りしてから初めて王位リーグには入って、戦いは始まったんですけれども。出だしで2連敗してしまったので、ちょっと厳しくなったな、と思って。もう今節では残留の目はなかったと思いますので。なかなか、一局の重みというか、負けてから気づいてしまったかなという感じでした」

 木村九段と斎藤八段は過去に4局戦い、木村1勝、斎藤3勝という数字が残されています。

 本局は斎藤八段先手で、10時対局開始。戦型は相矢倉へと進みました。斎藤八段は現在挑戦中の名人戦七番勝負、先手番の第1局と第3局で矢倉を採用しています。

 斎藤八段にとって本局は、名人戦第3局から中1日(移動日)をおいての強行スケジュールでした。

 斎藤八段、木村九段の角は向かい合ったあとに交換され、両者は互いに相手陣に角を打ち込みます。

 斎藤八段は木村九段の攻めの銀を引っ張り込み、きわどい攻防で飛銀交換の駒得を果たします。対して木村九段は一足早く斎藤玉に迫る形を作りました。

 終盤、手番を得た斎藤八段は、大駒3枚の威力で木村陣を攻略していきます。最後は一手違いの形。そこで斎藤八段が木村玉を鮮やかに詰め上げました。

 感想戦が終わったあと、両者は一言ずつ求められました。

 最初2連敗スタートだった斎藤八段。

斎藤「それでも気持ちを切らさず、連敗してからは指すことができたなと思うので、そこは今後につなげたいなと思います」

 一方の木村九段はプレーオフ進出ならず。初戦で木村九段に敗れた豊島竜王が優勝を果たしています。

 木村九段はリーグも陥落となりました。

木村「まあちょっと、できがわるい一局になってしまいまして、いいところがないようなシリーズだった気がしますね。負けたら陥落は決まってたことだと思いましたので、あまり・・・そういう覚悟はしてました。ちょっと内容が、うまく指されたこともあって、いいところがありませんでしたので、そこが反省点というか、悔いが残るところですかね」

 王位戦挑戦者決定戦では、豊島竜王と羽生善治九段が対戦します。

 もし木村九段が紅組で優勝していれば、両組最年長者同士の挑決となったところでした。

 木村九段は終局後のインタビューが終わったあとしばらく「そうか・・・」と中空を見つめていました。席を立つ支度をしながらもまた「そうか・・・」とつぶやきます。そして斎藤八段に話しかけました。

木村「ずっと正座だった?」

斎藤「いや、そんなことはなかったと思いますけど(笑)」

 年齢を重ねると、次第に正座はきつくなるようです。木村九段は「できなくなっちゃった」と笑っていました。

「百折不撓」がモットーの木村九段。今期王位戦は残念な結果に終わりましたが、他棋戦でも変わらず上位に進出し続けています。週明けの5月10日には、叡王戦本戦開幕戦で都成竜馬七段と対戦します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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