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韓国でも話題のジブリ総選挙と『千と千尋』盗作疑惑。そして進出著しい日本映画の意外なジャンルとは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
『千と千尋の神隠し』韓国公開時の宣伝チラシ

スタジオジブリの長編劇場作品の中からもっとも人気が高い作品を投票形式で選ぶ『スタジオジブリ総選挙』が韓国でも話題だ。その投票結果は、「ジブリ最高アニメ投票1位は“千と千尋の神隠し”」(『TVリポート』)、「ジブリのファンたちがジブリ最高作を直接選定した」(『ハフィントンポスト韓国版』)など、さっそく韓国メディアでも紹介されている。

もともと韓国にはジブリ・ファンが多い。日本でもヒットしたドラマ『美男<イケメン>ですね』でヒロインを務めた女優のパク・シネは韓国芸能界きってのジブリ好きで有名であるし、韓国の人気女子ゴルファーで“フィールドの妖精”と呼ばれるキム・ジャヨンも、以前取材したとき、「ジブリ作品など日本のアニメが大好きです」と言っていたほどだ。

■韓国のジブリ人気、最近はパクリ疑惑まで

韓国ではジブリ作品はかならずと言っていいほど劇場公開されており、『ハウルの動く城』などはジブリ作品で初めて観客動員300万人突破にも成功している。

ただ、韓国の大手ポータルサイトの評点によると、韓国人がもっとも好きなジブリ作品は『ハウル』ではないらしい。栄えある1位は日本のジブリ総選挙と同じく『千と千尋の神隠し』だが、2位以下は韓国らしい特色があるようだ。

(参考記事:韓国の映画ファンが評価するスタジオジブリ作品のベスト10とワースト1位は?

興味深いのは、そんなジブリ作品に韓国アニメ映画界が多大な影響を受けていることだろう。今月9月7日からは『月光宮殿』という長編アニメ映画が公開されるのだが、ストーリーや設定、雰囲気、キャラクターデザインなどが『千と千尋の神隠し』にソックリなのだ。

同作品は韓国の世界文化遺産である昌徳宮(チャンドックン)を舞台に、13歳の少女ヒョン・ジュリが冒険を繰り広げる物語だ。昨今、韓国のアニメ映画の制作環境は劣悪で興行的にも苦戦を強いられているため、ジブリの作品世界にあやかりたかったのかもしれないが、韓国のネットユーザーたちの間では“『月光宮殿』パクリ疑惑“まで起きているほどだ。

韓国でヒットしている日本アニメはジブリ作品だけではない。劇場版『名探偵コナン』シリーズはかなりの人気だし、『進撃の巨人』などは19歳未満(日本の18歳未満)視聴禁止の判定を受けたにもかかわらず、小・中・高校生から20,30代はもちろん、中年世代たちも「一度見てみたい」という声が増えたほどの社会現象を起こしている。

(参考記事:『進撃の巨人』が韓国でも異例の快進撃を炸裂させたワケ

■輸入映画最多国は日本。しかし、その数字には意外な理由が

もっとも、韓国で進撃を続けているのは日本アニメだけじゃない。日本映画も多数、韓国に輸入されている。その快進撃を物語る興味深いデータもある。韓国の映像物等級委員会が毎年発表するデータだ。

韓国の映像物等級委員会は日本の映画倫理委員会に相当する機関で、“映画及びビデオ物の振興に関する法律”第71条にのっとって、韓国に輸入された作品を「全体観覧可」「12歳以上観覧可」「15歳以上観覧可」「制限上映可」「青少年観覧不可」といった等級にふるい分けているのだが、同委員会の2015年度韓国映画市場国別等級分類調査によると、もっとも多かったのは日本だったという。

その数、実に483作品もあったというのだから驚きだ。だが、483作品すべてがアニメや実写映画ではなかった。むしろ日本作品483作のうち、「全体観覧可」は7%、「12歳以上観覧可」は6.6%、「15歳以上観覧可」は4.6%、「制限上映可」は0.7%で、「青少年観覧不可」が81.1%(392作品)ともっとも多かったという。

「青少年観覧不可」とは、日本で言うところの「R18指定」で、とりわけ性表現が多い成人映画は無条件で「青少年観覧不可」となる。

つまり、韓国に輸出される日本映画の大半は成人映画でもあるわけだが、日本の成人映画が韓国の成人映画産業に壊滅的な打撃を与えていることは知る人ぞ知る事実だ。

(参考記事:韓国の成人映画産業を壊滅させたのは日本だった!! 目で見てわかる韓国成人映画栄枯盛衰史

アニメ映画と成人映画ではジャンルも作風も客層も異なるが、日本コンテンツに負けた韓国成人映画の前例を目の当たりにすると、今度は日本のアニメ映画が韓国のアニメ映画産業にどんな影響をもたらすことになるか、非常に気になってくる。クオリティが高くジャンルも豊富な日本のアニメ映画に市場を明け渡すか、それとも自前のオリジナル作品を作り続けるのか。

いずれにしてもジブリ作品は今後も、韓国で絶大な支持と人気を得ていくだろう。韓国の映画ファンたちにとって、ジブリ作品は“良心”そのものなのだから。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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