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NY批評家賞の快挙で『ドライブ・マイ・カー』、このままアカデミー賞へ進むのか?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
カンヌ国際映画祭で脚本賞受賞の濱口監督。この光景がアカデミー賞でも再現されるか。(写真:REX/アフロ)

2021年度の映画賞が続々と発表され、アカデミー賞の前哨戦のひとつであるニューヨーク映画批評家協会賞で、日本映画の『ドライブ・マイ・カー』が作品賞を受賞するという快挙をなしとげた。87回を数える同賞で、日本映画の作品賞受賞は史上初。はっきり言って、これは想定外の結果である。

濱口竜介監督、西島秀俊主演の『ドライブ・マイ・カー』は、カンヌ国際映画祭で脚本賞など4つの賞を受賞。米アカデミー賞の、国際長編映画賞の日本代表に選出されているので、このように賞レースで注目されるのは納得がいく。しかし、トップの作品賞を争う位置にいたわけではない。多くのアメリカ映画を振り切ってNY映画批評家協会賞に輝いたことで、今後、ますます注目が集まりそうだ。

ただ、NY映画批評家協会賞は、エッジの効いた作品を選出する傾向もある。昨年の作品賞受賞作『First Cow(原題)』は、料理人と中国移民が牛乳を使ったケーキで一儲けを企む物語で、気鋭の配給会社、A24の作品なのでNYの批評家には支持を集めつつ、その後、アカデミー賞には絡むことはなかった。日本でも、2022年公開予定とやや先送りされている。

しかし、それ以前のNY映画批評家協会賞の作品賞を並べるとーー

2019年 アイリッシュマン

2018年 ROMA/ローマ

2017年 レディ・バード

2016年 ラ・ラ・ランド

2015年 キャロル *

2014年 6才のボクが、大人になるまで。

2013年 アメリカン・ハッスル

2012年 ゼロ・ダーク・サーティ

2011年 アーティスト

2010年 ソーシャル・ネットワーク

2009年 ハート・ロッカー

2008年 ミルク

2007年 ノーカントリー

2006年 ユナイテッド93 *

2005年 ブロークバック・マウンテン

2004年 サイドウェイ

2003年 ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還

と、*の2作以外は、すべてその後、アカデミー賞で作品賞ノミネートを果たしている。上記のリストのうち、4作が作品賞に輝いているが、他も2番手、3番手として争っていた作品が多い。

そう考えれば、『ドライブ・マイ・カー』が、アカデミー賞の作品賞にノミネートされるという希望も高まる。少なくとも、今回のNY映画批評家協会賞での栄冠によって、アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネート、さらに受賞の確率は上がったと言っていい。同賞にノミネートされれば、『万引き家族』以来3年ぶり。受賞となれば『おくりびと』以来13年ぶりとなる。

現在、業界紙Varietyの予想では、アカデミー賞国際長編映画賞のカテゴリーで、『ドライブ・マイ・カー』は4位につけている。そして予想サイトのAwardsWatchでは、7位。しかしこれはNY映画批評家協会賞の発表前の順位なので、さらに上にランクアップされる可能性もある。

ただ今年度は、イランの『A Hero』や、フランスの『Titane』、イタリアの『The Hand of God』などライバル作品が例年以上に強力なのも事実。これから発表されるさまざまな賞で『ドライブ・マイ・カー』がどこまで評価されるか、期待しながら注視したい。

アカデミー賞で国際長編映画賞を超えて、作品賞のカテゴリーにも入ってくるようなら、脚本賞や監督賞などにも絡んでいくのは確実。一昨年、『パラサイト 半地下の家族』でポン・ジュノ監督が何度もアカデミー賞の壇上をにぎわせた光景が頭をよぎりつつも、現状、作品賞の予想では『ドライブ・マイ・カー』はかなり下の方なので、日本映画の快挙はまだ「夢」の段階。しかし例年、賞レースは想像もつかない展開もみせるので、その夢をしばらく見ていたいとも感じる。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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