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ジャイアントキリングを成し遂げた津商の試合巧者ぶり

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

春夏通じて初の甲子園出場となる津商と32回目の出場となる智弁和歌山の対戦。下馬評では智弁和歌山有利は動かなかった。実際、智弁和歌山は1回表、津商の攻撃を3人で抑えると裏の攻撃で幸先良く2点を先制。序盤はアウトになった打者もいい当たりの打球が多く、ワンサイドゲームの予感さえした。

しかし、津商は4回に相手の失策から1点を返すと5回には当たり損ないの打球が適時内野安打となり試合を振り出しに戻す。6回には2死からの連打で勝ち越しに成功。2回以降立ち直ったエースの力投あってこそのものだが、そこに至るまでには地力で勝る相手に挑むリスク覚悟の捨て身の戦法があった。1点を追う4回、2死1、2塁の場面では結果的には失敗となったがダブルスチールを敢行。5回1死1塁では9番打者が最初はバントの構えを見せていたがエンドラン。6回は2死2塁からの安打という状況が2度続きタイミング的にはどちらも止めるべきところで迷わず本塁に突入する。2人目は余裕を持って本塁タッチアウト、1人目も記録上はタイムリーヒットだがセンターからの送球が高く逸れなければアウトの可能性もあるほどだったが生還を果たす。

中盤の小刻みな得点でついにリードを奪うと7回には勝利を大きく引き寄せる3得点。その後ツーランを浴び反撃にあうが9回には2者連続のセーフティスクイズが決まり再び突き放す。津商が前半に試みたバントは1度のみだったが、8回と9回の2イニングだけで4度。これは強打のチームが好む戦法だ。

強力打線が自慢の福知山成美を率いた田所前監督(現校長)も試合序盤はほとんどバントを使わなかった。ただし5点勝負と読んだ試合で5得点を挙げると6点目、7点目を狙う場面ではバントを使う。イケイケムードに気を緩めてチャンスを潰すことなく、相手に流れを渡さないまま常に自分達のペースで試合を進めることに主眼を置く。津商が終盤に見せた攻めも正にそれだった。

記録上、津商が放った安打は智弁和歌山の倍となる14本。エースが熱中症で降板するアクシデントもあったが、それさえ2番手投手が甲子園のマウンドを経験しそこで好投したことでチームにとって今後に向けてはむしろプラス材料。智弁和歌山は守備が乱れまさかの7失策。他にも記録に残らないミスも多くあり自滅には違いないが、津商にペースを握られていた影響もゼロではないだろう。

”序盤はリスク覚悟で攻め、リードを奪うとジリッジリッと追い詰める”

津商の次戦の相手はまだ決まっていないが、格上相手にまたそんな試合巧者ぶりを発揮するかもしれない。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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