Yahoo!ニュース

焼鳥通もうなる隠れ家。鶏の個性を引き出す「匠の焼き」にどっぷり浸って【嘉とう/東京】

今回、冒険するのは東京・三田の「嘉とう」。三田といえばオフィス街に、学生街。仕事帰りの客で賑わう焼鳥屋もちらほら見かけるなか、「嘉とう」は駅前の雑踏から逃れるようにやや離れた場所にある。北千住の名店「バードコート」でキャリアを積み、さらに独自の視点で深めた加藤さんの焼鳥は「匠」のひと言だ。

出だしの抱き身で引き込まれる

「嘉とう」の焼鳥はショートコースを軸に、アラカルトで一品料理を組み合わせて味わう独自スタイル。フルコースの縛りがないので、しっかり食べるのも良し、仕事帰りに軽めに摘むのも良し、だ。

「串中心でいきますか?」と店主の加藤さん。どのみち焼鳥を追加する気満々だ。この日はお任せで焼いてもらうことにした。「嘉とう」の1本目は、地鶏の抱き身(むね肉)で始まることが多い。それにも、ちゃんと理由がある。

抱き身(むね)
抱き身(むね)

ほむっとしなやかで、噛むほどにうまみがジュワッと増してくるよう。「嘉とう」がメインに扱っている大分県の地鶏「豊のしゃも」のうまみをシンプルかつ深く味わえる1本。んん。これにはもう食欲に火が付くというもの!

さぁ、次の串は……

皮

ふりそで
ふりそで

首やほかの部位の皮を集めて打ったという皮。ただ皮といっても、合間に忍ばせた肉のうまみも感じられる。

続くふりそで(むねと手羽元の間)はあえて開き、フラットに打たれているのが特徴的。思いのほかふっくらとして、脂の甘みが口の中で膨らんでいくよう。

そうそう。焼鳥もいいけれど、「嘉とう」に来たなら忘れてはいけない一品がある。それが、コースにも含まれているレバーパテと、アラカルトで頼むことができる鶏焼売だ。

レバーペーストと鶏焼売も必食

レバーパテ
レバーパテ

今どき、レバーパテを出す焼鳥屋は多いけれど、なかにはレバーのくさみが立っていたり、変に水っぽいものもあるわけで……。その点、「嘉とう」のレバーパテは理想的かもしれない。

どこまでもなめらかで、とろけるような口あたり。深く、奥行きのある甘み。カカオニブのカリッとした食感のアクセントといい、もう、文句なしの仕上がり。焼鳥のネタが切れたらこのレバーペーストを頼めばいいと思うくらいだ。

鶏焼売
鶏焼売

コースとは別にどうしても頼みたいのが、この鶏焼売だ。焼鳥屋らしく使う肉は鶏だけ。それを王道の焼売と、黒米入りのもち米焼売でいただく。どちらも抜群にうまいのだけれど、とくにもち米焼売は他では味わえない至福の味わい。

外はもっちり、中はむっちりと。五香粉を練り込んだあんが大陸の風を運んでくるよう。いやぁ、本当にたまらない。どこかの食品メーカーが冷凍食品化してくれないだろうか……もちろん、「嘉とう」監修で。

中落ち
中落ち

ハツ
ハツ

ソリ
ソリ

さて、焼鳥だ。肋骨まわりの肉をこそげ取った中落ちと、芳しいハツに続いて現れたのは、豊のしゃものソリ。ももの付け根にある、いわゆる希少部位ネタ。

肉のうまみがギュッと凝縮されている肉がうまいのはもちろんのことだけれど、皮目の仕上げにぐっとくる。皮の際のギリギリに串を通すことで、フラットな打ちに。だから焼きの甘い部分が一切生まれないわけだ。

普通に打っても成り立つというのに、細部まで妥協しない加藤さんの姿勢がひしひしと感じられるようじゃないか。もう、さすがの一言。

ぼんじり
ぼんじり

ぼんじりは、余計な脂が落ちているので、後味も軽やか! 脂が多い部位だからこそ、どういう鶏のどういうぼんじりなのかを判断して、ベストな焼きを探る……。うーん。これぞ、焼鳥職人。

嘉とう」ならではのネタに舌鼓

まだまだ終わらない「嘉とう」ワールド。終盤に入り、ますます焼鳥の凄みが増してきた。そう。「嘉とう」のネタは何本食べてもダレず、新鮮な気持ちで迎えられるんだ。

抱き身(むね肉)
抱き身(むね肉)

「伊達鶏のむね肉に豊のしゃもの皮を巻いて仕上げました」と加藤さん。んん。この抱き身は技あり。軍鶏の厚い皮をパリッと焼き上げつつも、肉はしっとりとやわらかい。

なるほど。伊達鶏の皮で巻いても絶対にこうはならないはず。それぞれの鶏の個性を掛け合わせながら一体感を生み出すのはさすが。1本目に食べた皮なしの抱き身とはまったく表情の異なる味わい。これは嬉しいサプライズ。

ねぎま
ねぎま

そして、豊のしゃものふくらはぎの肉だけを使ったねぎま! 全国的に地鶏を扱う焼鳥屋は増えているけれど、ふくらはぎの肉だけを打つところは少ないと思う。

噛むほどにあふれる地鶏ならではの濃いうまみ、豊かな弾力。他の焼鳥屋のねぎまでは味わえない長い余韻。この串はドンピシャで好みなのだけれど、地鶏だからこそ本数にも限りがある。出会えたら? それはきっと幸運の印。

レバー
レバー

緩急を付けるかのように出されたのは、レバー。「嘉とう」のレバーは地鶏ではなく、伊達鶏を使うことが多い。レア焼きでもよく焼きでもなく、その境い目のうまく食べられる狭い幅を狙って火を入れていくイメージ。

何が良いかといえば、火がちゃんと入っているから、レバー本来の甘みやコクが引き出されていることだ。それでいて、とろけるようにしっとり。浅めに火入れをする焼鳥屋では味わえない深さ。これも腕のある焼鳥職人ならではの1本に違いない。

もも
もも

つくね
つくね

〆の塩つくねは、頬張れば肉汁があふれ出す一品。腕の立つ店は、やっぱりつくねが抜群にうまいなぁ。つくねは〆に使われることも多いネタだからこそ、味がピシッと決まっていると、その日の〝口福度〟も変わってくるというもの。

いやぁ、大満足。首尾一貫、加藤さんの焼きはいつもブレがない。地鶏と銘柄鶏それぞれの個性をぐっと引き出し、最適解に落とし込むような「匠の焼き」だ。

その技に惚れ込んでか、これまでは舌の肥えた40~50代の客が多かったように思うのだけれど、最近は若い人も増えているように感じる。それだけ「嘉とう」の魅力が浸透し始めているということかもしれない。

それもそうだ。しみじみうまいもの。

店舗情報

【店名】嘉とう
【最寄り駅】三田駅、田町駅
【住所】東京都港区三田3-3-2
【予約】03-6722-0977
【定休日】日曜、月曜
【串のアラカルト】なし
【鶏メモ】豊のしゃも、伊達鶏ほか

毎週、焼鳥三昧! 焼鳥を斜めに逆さ撮りする〝ヤキトリスト撮り〟は元祖にして名刺代わり! 「焼鳥は串柄、人柄」をテーマに、大衆的で気兼ねない町焼鳥から、鶏にこだわり1本1本に心血を注ぐ専門店まで焼鳥まみれの日々を送っています。焼鳥好きの方、フォローよろしくお願いします!

ヤキトリストの冒険の最近の記事