【静岡県】浜松市の住宅街に予約必須の繁盛店!フレッシュな焼鳥を堪能したあとは「小石でお勘定」!?
今回冒険するのは、静岡県浜松市の「焼鳥はだし」。最寄り駅は東海道本線・高塚駅。とは言っても、その高塚駅から歩けば30分もかかり、お世辞にも好アクセスとはいえない立地。いや、それでも繁盛店。他の焼鳥屋では味わえない魅力があった。
「焼鳥」と書かれた大きな白暖簾が目印
静岡県の西端、目と鼻の先に佐鳴湖というロケーション、閑静な住宅街……。潔く「焼鳥」とだけ書かれた白暖簾が「焼鳥はだし」の目印だ。最寄りの高塚駅からは徒歩で30分かかることもあって、ここに焼鳥屋があることを知らなければ、辿り着くこともないだろうなぁ。
ただ、あなどるなかれ、そんな立地でも繁盛店で、かなり「ユニーク」だと聞いていたので、それ以上は見聞きしないようにして、訪ねる日を心待ちにしていた。
店内はカウンター6席にテーブル4席ほど。カウンターに座り、正面を見ると「おまかせストップ」(1品約350円)の文字が書かれていた。文字通り、焼鳥も野菜も一品料理もすべて店主の"おまかせ"で出される、東京では馴染み深いスタイル。それが、ここ浜松でも楽しめるというわけだ。
それに、"おまかせ"ではあるものの、苦手な食材は事前に聞いてくれる。焼鳥を食べ慣れていない人も、これなら安心して味わえる。
飲み物はセルフサービスで
「飲み物はセルフサービスなんです。うしろの冷蔵庫や棚からお取りください」
店主の鈴木さんから声をかけられた。そう、「焼鳥はだし」は店主の鈴木さんがひとりで切り盛りしている焼鳥屋。焼きや調理に集中するため、飲み物は客に取りに行ってもらう独特なスタイルで営んでいるわけだ。
棚を見ると焼酎がずらりと並んでいた。すぐそばの冷蔵庫を開ければ瓶ビールにソフトドリンク、割り材がぎっしり。まずは瓶ビールを選び席に着いた。そうそう、栓抜きも忘れずに。
焼鳥の1本目は王道のさび焼きから
お、これは珍しい。前菜は花にらのおひたしとキンカン(卵になる前の黄身)。花が開く前のつぼみはネギ坊主のように丸く、もちろんそれも味わえる。
葉にらと比べてシャキッとしながらもやわらかく、香りもほのかに甘いのが特徴。まずはそのまま。途中でキンカンを割って黄身をとろり、からめて味変だ。
さぁ、焼鳥の1本目はささみ。ふっくらとして、やさしい味わい。たっぷりと添えられたわさびの香味が鼻をくすぐっていくよう。焼鳥をどんなネタから始めるかは焼鳥屋によって様々だけど、ささみから始まるのはやっぱり王道だ。
オクラはサクッと小気味よく。みずみずしくほのかに甘みがあり、素材の良さがじんわりと感じられる。焼き野菜を食べるなら、焼鳥に勝るものはないなぁ。
そして、名古屋コーチンの砂肝。いい塩加減で、ザシュッと歯が入っていくのが楽しい。そう、砂肝はまず歯で味わうネタなんだ。
焼鳥が焼き上げられる傍らで、塊肉がじっくりと焼かれていた。「名古屋コーチンのたたきです」と鈴木さん。地鶏らしく厚みのある皮、しなやかな肉質に食欲がそそられる。
おまかせストップの焼鳥屋は数あれど、串だけでなく地鶏のたたきを織り交ぜる店は珍しい。こういうアプローチも「焼鳥はだし」の魅力だ。
1品出るごとに置かれるのは動物柄の小石?
それに、ネタが一つひとつ出されるたびに、目の前の小皿に小石が置かれるのも「焼鳥はだし」のユニークさが表れているところ。コアラに犬、ねずみ……。小石に描かれた表情豊かな動物に、思わずくすっとくる。
「畳屋のご主人が描いたものをコレクションしていたら、けっこうたまって……。それを勘定に使おうと思いついたんです」と笑う鈴木さん。
焼鳥だけのおまかせストップなら串を数えれば済む話ではあるものの、なかには一品料理もあるわけだ。動物柄の小石を使って勘定する焼鳥屋は、全国を見てもここだけだろうなぁ……。
愛知県の銘柄鶏「三河赤鶏」
定番のねぎまはふっくらとして、やわらか。ほどよく皮もパリッと仕上がり、ていねいな焼きが感じられる。いやぁ、焼鳥屋に来るとやっぱりねぎまを食べたくなる。
聞けば三河赤鶏だという。銘柄名でわかるとおり、愛知県の三河地方で育てられている赤鶏。それを2日ほど脱水して余分な水分を抜き、うまみ豊かに仕上げているわけだ。
そうこうして、小石もたまってきた。ヒョウや猫……哺乳類だけかと思いきや、鳥類や魚類とバラエティー豊か。いや、一見、ヒョウに見える小石も、黒い斑点だからチーターなのかもしれないな。そんなことを考えながら飲むビールも、なんだか楽しい。
あいち鴨のレバーに、ロースも
続いて「あいち鴨のレバーです」と鈴木さん。お、これは珍しいなぁ。レバーは焼鳥の定番ネタだけど、若鶏でも銘柄鶏でも地鶏でもなく、まさかの鴨ときた!
噛めばしっとり、ねっとりと舌に絡みつくような口当たり。鴨らしく味も香り濃厚だ。どっしりとした赤ワイン、もしくは辛口の日本酒を合わせてもおいしいだろうなぁ。
鴨肉といえば鴨ロースは外せない。これがまた、しっとりとしてうまいんだ。鴨むね肉は火が入りすぎると途端にパサつき始めるデリケートな部位だけど、それを見事、繊細に仕上げている。こういう鴨ロース、大好物。
名古屋コーチンはフレッシュさを生かして
名古屋コーチンのねぎまは、ギュムッ! と押し返すような強い弾力……。あえて脱水させずフレッシュな状態でさばいた鶏だから楽しめる味わい。挟まれたねぎの香味がアクセントになり、手が止まらない。続く抱き身も食べごたえ充分だ。
食べやすい三河赤鶏から、濃厚なあいち鴨、弾力豊かな名古屋コーチンへと繋がっていく流れは食べごたえがある。気づけば15品近く。〆も食べたいものだから、ここで「ストップ」のコールをかけた。
〆にそぼろごはん、手作りプリン
さぁ、〆をどうするかと目の前の黒板を見ると「そぼろごはん」と「パイタンスープごはん」の文字。どちらも魅力的だけど、ここはやっぱり王道のそぼろごはんだ。
むね肉主体だからか、さっぱりとした味わいではあるものの、上に乗せた卵黄がコクと甘みを与えてくれる。おまかせストップの〆としてもちょうどいい塩梅。
「プリンもあるのですが、いかがですか?」と鈴木さん。なんでも鈴木さんの妻の手作りなんだとか。それにしても、コミカルなパッケージ。スコップの形をしたスプーンがまた愛らしさを添えるよう。
早速食べてみると、昔ながらのプリンらしく硬めで味も濃厚。これは確かにうまいなぁ。串は10本以上、〆も食べたというのに、別腹とはこのことだ。
たぬきやオランウータンなど、一品ずつ積み上げられる小石も随分と増え、ひと皿じゃ乗りきらず、ふた皿分になった。会計をお願いすると、鈴木さんが小石を勘定し始めた。分かってはいたけれど、なんともユニークな光景。こんな焼鳥屋、見たことがない。
ありのままの「はだし」で焼鳥と向き合う
鈴木さんが「焼鳥はだし」をオープンさせたのは2020年12月のこと。浜松市内の焼鳥屋で修業を積んだうえでの独立だったそう。最寄り駅からも徒歩30分近くかかる、いい立地とはいえない場所に構えた理由を聞いてみると……
「地元に近いというのもありましたが、とくに深く考えずに決めたんですよね(笑)。一人でまわす前提で店を作りたかったので、今のようなスタイルになりました」
「屋号を『はだし』と名付けたのは、駆け出しの気持ちを忘れないことと、ありのまま焼鳥に向き合う、という思いを込めてのことです」と謙虚に答える鈴木さん。うまい焼鳥と、ユニークな店づくり、鈴木さんの人柄……。そりゃあ、繁盛店になるわけだ。
▼冒険のおさらい
①最寄り駅から徒歩30分かかる隠れ家
②焼鳥はおまかせストップ制
③動物柄の小石で勘定するユニークさ
店舗情報
【店名】焼鳥はだし
【最寄り駅】高塚駅
【住所】静岡県浜松市中央区佐鳴台2-16-16
【予約】053-555-6471
【定休日】不定休
【串のアラカルト】なし
【コース(セット)】おまかせストップ制
【鶏メモ】三河赤鶏、あいち鴨、名古屋コーチン