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まだ使われていないイスラエルの「アイアンビーム」SNSで拡散のフェイク動画はゲームの1シーン

佐藤仁学術研究員・著述家
アイアンビーム(イスラエル国防省提供)

「イスラエルで初めてアイアンビームが使用された」という偽情報とともに拡散されるフェイク動画

2023年10月7日に、イスラエルに向けて武装組織ハマスから大量のロケット弾が発射された。ハマスからの執拗なロケット弾攻撃は続き、イスラエル国防軍によるとハマスが攻撃してから2週間で約7000発以上のロケット弾がイスラエルに向けて撃ち込まれている。ハマスからの大量のロケット弾の攻撃に対して、イスラエル軍は朝から晩まで「アイアンドーム」で迎撃してイスラエル領土をロケット弾から防衛している。

アイアンドームは実戦で使用されており、ここ数年でも迎撃の実績が多数ある。イスラエルの軍事企業ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズが開発した「アイアンビーム」はまだ実戦では使用されていない。2022年4月にイスラエル国防省は、上空からの攻撃ドローンやロケット弾にレーザーを使用して防衛する防空システム「アイアンビーム」の試験を行い上空のミサイルと攻撃ドローンをレーザービームで撃墜することに成功した。撃墜に成功した動画も公開していた。当時のイスラエルのベネット首相は自身のツイッターで「イスラエルはついに新たな『アイアンビーム』のテストに成功しました。これは世界初のエネルギーを元にした兵器システムで上空のロケット弾やミサイル、攻撃ドローンを1回の発射につき3.5ドル(約500円)で撃墜できます。SF(サイエンス・フィクション)のように聞こえますが、リアルです」と語っていた。イスラエル軍は2021年にレーザービームによる実証実験も行い、1キロメートル先の上空の攻撃ドローンを撃墜していた。現在は1キロ先の上空のドローンを撃墜できるが、イスラエル軍は将来には100キロワットのレーザーで20キロ先の上空の攻撃ドローンも撃墜することができるようにするとしていた。

米国のバイデン大統領が2022年7月にイスラエルを初めて訪問した時にも、ベングリオン国際空港に到着後に、空港に設置されたイスラエル製のドローン迎撃システムの「アイアンビーム」や「アイアンドーム」などをイスラエルの国防大臣らの案内で視察していた。アイアンビームはかなり期待の高い兵器である。

2023年10月15日にイスラエル国防省がアイアンビームでの防衛を検討していることを明らかにしたと報じられていた。それ以降、まだ実戦ではアイアンビームは使用されていないが、SNSではアイアンビームが使用されたというフェイク(偽)の動画が多数出回って拡散されていた。フェイク(偽物)なのか本物なのかわからないので「イスラエルで初めてアイアンビームが使用された」、「アイアンビームでハマスのロケットを迎撃」というテキストをたくさんの人が信じてしまい、多く拡散されている。

ゲーム開発企業「フェイク動画が削除されても、毎日10本アップロード」

ディフェンス・ニュースによると、このアイアンビームのフェイク動画は軍事シミュレーションビデオゲームArma3の動画の1シーンを改変したものが拡散されている。動画を拡散されて、フェイクであるというコメントに気が付いて削除していくユーザーも多いが、それでも現在でも拡散されている。武装集団ハマスとイスラエルの戦いではこれ以外にも様々なフェイク動画、偽の写真などがプロパガンダを目的として拡散されている。2022年2月ロシア軍がウクライナに侵攻した直後もプロパガンダを目的としたフェイク動画や偽の写真などが一時的に拡散されたが、最近ではそのようなフェイク動画や偽の写真などの拡散はかなり減少している。

ゲームを開発したチェコのBohemia Interactiveの広報担当のクジシュカ氏は「現実の戦争でゲームのシーンが誤解されてプロパガンダに使用されることは嬉しいことではありません。アイアンビームの攻撃シーンのフェイク動画が削除されても、毎日10本くらいアップロードされています。フェイク動画の拡散を防止するためにも多くのメディアやファクトチェッカーと積極的に協力していきたいです」とコメントしていた。

▼アイアンビーム(ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ制作のイメージ動画)

▼拡散されているアイアンビームが使用されたというフェイク動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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