アフターコロナ時代にフリーランスの働き方はどう変わる?【平田麻莉×倉重公太朗】第1回
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今回のゲストは、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の代表理事の平田麻莉さん。彼女は慶應義塾大学在学中にPR会社ビルコムの創業期に参画。Fortune 500企業からベンチャーまで、国内外50社以上において広報の戦略・企画・実働を担い、戦略的PR手法の体系化に尽力しました。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、2011年に慶應義塾大学ビジネススクール修了。2017年1月に同協会を設立しました。 フリーランスの代表として政策提言を積極的に行い、 新しい働き方の環境整備に情熱を注いでいます。
<ポイント>
・コロナはフリーランスにどのような影響を与えたか?
・副業兼業人材、フリーランス人材の活用を推進していくには?
・Uber Eatsの配達員はフリーランスなのか?
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■フリーランス協会が立ち上がった経緯
倉重:今日はフリーランス協会の代表理事の平田麻莉さんにお越しいただきました。
簡単に自己紹介をお願いいたします。
平田:フリーランス協会の平田です。フリーランス協会は2017年の1月に設立した、フリーランスによるフリーランスのための支援組織です。
今は4年目に入って、会員が3万4,000人。そのうち4,400人に対しては保険や福利厚生が利用できる「ベネフィットプラン」をご提供しています。
実態調査で皆さんの声を集めて政府やメディアに届ける活動や、フリーランスや副業人材を活用したい企業の支援もしています。
私個人としては、10年ぐらいフリーランスとして広報を専門軸にした個人事業主としての仕事も続けています。
倉重:最初の頃、メールマガジン会員のような形はありませんでしたか。
平田:今はメルマガ会員という言い方ではなくて、データベース登録など、できることは広がっているので、無料会員という言い方をしています。スキルアップやキャリアアップに関するセミナー、身を守るための情報提供、ワークショップなども開催しています。
倉重:なるほど。新型コロナウイルスの問題で、フリーランスの経済的状況が非常にクローズアップされていました。
平田さんはフリーランスの代表として、政府によくヒアリングを受けていらっしゃいますが、もともとは会社員だったんですね?
平田:代表というのはおこがましいのですが。はい、新卒は普通に会社員でした。周りに学生起業をしている人がたくさんいる大学に通っていたので、割とベンチャー志向があったと思います。
大学3年の時に、創業5カ月目の会社でインターンを始めました。最初の仕事は、「オフィスをつくる」というミッションで、予算1,000万を預かって物件探しから担当したのです。
そういう意味では、普通の民間の出来上がった会社で働いたことがほとんどありません。
慶應義塾大学という官僚組織で働いたことはあるのですが。
倉重:慶應大学の職員もされたことがあるのですね。
平田:はい。PR会社で働いた後、研究者になりたいと思って大学院に行きました。修士から博士課程に進むときに、「学生をしながらでいいから、職員としても広報や国際連携の仕事を手伝ってほしい」というオファーをいただいたのです。
そのときに業務委託という働き方もあることを初めて知りました。
博士課程の学生をしていると、本の翻訳や執筆、教材作成など、業務委託の仕事がいろいろと降ってきます。「組織の垣根を越えていろいろな仕事ができるのが楽しい」と感じました。
倉重:望んでフリーランスになったわけではないのですね。
平田:そうです。
出産を機に一度博士課程を退学しましたが、また戻ろうと考えていたのです。
専業主婦を満喫していたらいろいろな人に「あいつは暇そうだ」と思われたようで、頼まれごとを引き受けているうちに忙しくなってしまいました。それ以来ずっとフリーランスです。
倉重:フリーランス協会を設立しようと思ったきっかけは何だったのですか。
平田:もともとフリーランスの働き方を気に入っていたのですが、2回の出産と保活を通して、セーフティーネットなどで大変ことがあると知りました。
ただ当時は、「好きで選んでいるし、自己責任だ」と私自身は思っていたのです。
協会を設立する前の1~2年は、講演を頼まれたり、相談に乗ったりすることも多く、ワーママ・オブ・ザ・イヤーという賞を2015年に受賞して、「こういう働き方に関心を持って求めている人が増えているのかな」と感じたりもしました。
ただ、興味はあっても、社会的な制度の問題で踏み込めないという話も聞いていたので、そういうものが変わっていく必要があるんだろうとぼんやりと思っていたのです。
倉重:周りからいろいろと求められているうちに、あれよあれよと協会を設立することになったのですね。
平田:そんな感じですね。
具体的なきっかけとしては、2016年に雇用関係によらない働き方に関する研究会が経産省で立ち上がったときに、呼ばれているのが人材会社やクラウドソーシング会社の人ばかりだったのです。
マッチングサービスを利用していないフリーランスのほうが多いですし、私も使ったことがありません。「普通のフリーランスの声は誰が届けるのか」ということを仲間うちで話していました。
フリーランスと一口にいっても、あまりにも多様ですし、「政府としても誰に聞いていいのか分からないのではないか」という話になって、「それなら窓口をつくりますか」というノリで立ち上げた部分はあります。
分かりやすく旗を立てて、みんなの声を集めて届けるのは専門分野ですから、フリーランスや副業などの働き方を勝手に広報しているイメージです。
■コロナで影響を受けた人、業績が上がった人の違い
倉重:フリーランスの方々は本当に多種多様な方がいらっしゃると思います。今回の新型コロナウイルスの拡大に影響を受ける業種・職種と、今までどおりの方というのは分かれているのでしょうか?
平田:私たちフリーランス協会が緊急要請を出した3月の時点では、影響を受けているのは主にBtoCでお仕事をされている方でした。例えば休校で問題になった、習い事教室をされているような方や、パフォーマー、アーティストの方、イベント運営スタッフの方、美容師さん、ネイルさん、飲食店などで主に影響が出ていました。
普段からリモートワークで仕事をしているビジネス系の職種では、最初はそれほど影響が出ていませんでした。けれども、緊急事態宣言が出た4月以降は、日本中どころか、世界中のあらゆるセクターに影響が出てきた時期です。BtoBでお仕事をしている人たちも、得意先の業績が悪くなってきたことで仕事をペンディングされたり、無期延期されたりするケースが目立ってきました。
倉重:「プロジェクトをいったんストップしましょう」という話も多くなっていますか?
平田:はい。結局フリーランスの場合は、納品して初めて収入が入ってくるスタイルですから、打ち合わせの数が減ってプロジェクトの進行が遅れるだけで、収入減になってしまうことは多々あります。
倉重:緊急事態宣言が解除になったからといって即仕事が戻るというわけではないですよね。
平田:業界にもよりますが、今は全体的に先行きが見えなさ過ぎるので、クライアントサイドも、「今までどおりに仕事を発注しよう」というふうになるまでには時間がかかるでしょう。
特に接客や人の移動を伴う職種の方は、慎重に業務を再開しなければいけないというマインドもあると思います。解除されても、すぐ元どおりということにはならない可能性が高いです。
この4~5月は、皆さん目先の資金繰りで精いっぱいで、次のことを考える余裕もあまりなかったと思いますが、めどが立ってくると、ウィズコロナ、アフターコロナに向けてビジネスモデルの転換を迫られるはずです。
ビジネスモデルやワークスタイルを変えるときに、専門家の知見や事業開発のプロは必要です。また、ECを立ち上げる、テレワークを導入するという分野でのニーズは急速に高まっていくと思います。
そういう部分で需要が戻るというか、むしろ特需になる職種はあるのではないでしょうか。
今は常用雇用の採用が全体的にストップしていますが、人手不足なところは変わりません。今月に入ってから、「副業兼業人材、フリーランス人材の活用を推進していきたい」という問い合わせが自治体や政府の経営支援をしている担当課などから増えています。
■フリーランスが求めている保障は?
倉重:経営者から見ても、これからの不確実な変動を見据えたときに、「雇用だと怖い」という方もいらっしゃいますよね。
平田:そうだと思います。
ポジティブな変化とは一概に言い難いとは思いますが、皮肉なことに、今回のコロナで終身雇用で社員を抱えていることの負担は、経営者は少なからず感じたと思います。長期的に見ると、今後は必要最低限の社員と、その時々のプロジェクトに合わせた業務委託の人材を活用していくことがトレンドになるのではないでしょうか。
倉重:ポストコロナという意味ではそうなのでしょうね。
労働者の場合は労働基準法上の休業手当があって、雇用調整助成金等で一応のカバーはされています。
ただ、昔の生産調整などに使われていた制度だから、労働者であることが前提になっていて、フリーランスは想定されていませんね。
平田:もともとフリーランスは事業リスクをある程度背負うことがコンセンサスとしてあるはずです。私たちが毎年している実態調査でも、失業保険や労働時間規制を求める声はほとんどありません。
倉重:失業保険もないのですか。
平田:調査結果で求める声が多かったのは、ライフリスクに対するセーフティーネットでした。病気やけが、出産、子育て、介護、長生きリスクという意味での年金の部分は、誰もが背負うリスクです。そこは働き方を問わず、中立なセーフティーネットであってほしいという声は非常に大きいです。
倉重:厚生年金や健保組合に相当するものが欲しいという要望が多いのでしょうか。
平田:皆さん国民健康保険に入っていますが傷病手当金や出産手当金はないですし、雇用保険に入れないので育児休業給付金や介護休業給付金、職業訓練給付金もありません。そういったところの要望があります。
一方で、失業やビジネスリスクに対しては、「そのぐらいの自覚は持って、織り込み済みです」という声はあります。
倉重:そこはもう自己責任という感じなのですね。
平田:当事者の中でも割とそういう声が多いと思います。
フリーランス協会で緊急要請を出したときも、「補償ではなく救済措置をお願いしたい」と言いました。フリーランスはそもそも休業という概念がないですし、法律的なコンセプトで言うと、休業補償という概念は自営業者にはなじみにくい部分があると思うのです。
ただ今回は、個人や一事業者が抱えられるリスクの範疇(はんちゅう)を超えているので、
「救済措置をお願いしたい」ということで、現金給付を要請して持続化給付金を実現していただきました。
アフターコロナであっても、こういうリスクや有事が起こらないとも限りません。
ビジネスリスクやトラブルも含めたセーフティーネットをどのように整備していくかという議論は、まさに今いろいろな省庁で加速しているところです。
倉重: フリーランス協会さんに入っている方は、意識も高くてしっかりした方が多いのではないかという気もするのですが、例えばUber Eatsをしている学生さんに近いような人になるとどうなのでしょうか。
法形式には争いがありますけれども、仮に業務委託だとすると労働者ではありません。こういうプラットフォーム労働が増えてくると、交渉力格差や圧倒的な立場の違いは明らかになっていきますよね。
平田:まさに今おっしゃったように、自律性が弱めの「準従属労働者」の問題は、ライフリスクやビジネストラブルの問題とは別に、協会としてもずっと問題提起してきている部分です。
「フリーランス」と一口に言っても、非常に多様性があります。
そこを丁寧に理解してほしいということは、常に政府の方々にはお願いしています。
倉重:平田さんの中では何パターンぐらいに分けていますか。
平田:1つ目が独立志向があり、完全に自律している方々です。
2つ目が、その予備軍というか、自律する意思はあるけれども今は副業をしている方。
3つ目は、文化・芸術関係者など、業界特性でなかば必然的に自営業になる方。
4つ目が、準従属労働者。本人は独立志向がないのだけれども、業界構造や取引先の都合で、非自発的に業務委託にさせられている方々です。
倉重:SE系では準従属労働者が多そうですね。
平田:準従属労働者が特に多いのは、やはりメディア業界です。
出版業界やテレビ制作業界、アニメ業界は、プロジェクト型でアドホックに人を集めて動かす構造になっています。デスクを並べている社員と全く同じ仕事をしているのに、雇用形態や待遇が全然違うとか、「労基法を気にしなくていい人」という扱いをされていることが往々にしてあるわけです。
また、今回のコロナでフォーカスが当たったのが、文化芸術系の方たちです。文化芸術系の方は、必ずしも業務委託で企業から発注を受けているわけではありません。自分で習い事教室を運営していたり、コンサートやライブをしたり、事務所に所属していらっしゃる方もいます。
その職業を選択した時点で会社員としての選択肢はほとんどないので、自律した自営業者とみなすのは乱暴だと思うのです。そういう人たちは、準従属労働者とは別の枠組みで、保護や支援を検討しなくてはならないことが今回明らかになったのではないでしょうか。
(つづく)
対談協力:平田麻莉(ひらた まり)
一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事
慶應義塾大学総合政策学部在学中の2004年にPR会社ビルコムの創業期に参画。Fortune 500企業からベンチャーまで、国内外50社以上において広報の戦略・企画・実働を担い、戦略的PR手法の体系化に尽力。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。同大学ビジネス・スクール委員長室で広報・国際連携を担いつつ、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程で学生と職員の二足の草鞋を履く。出産を機に退学、専業主婦を体験。
現在はフリーランスでPRプランニングや出版プロデュースを行う。2017年1月にプロボノの社会活動としてプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。 政府検討会の委員・有識者経験多数。
日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)発起人、初代実行委員長。パワーママプロジェクト「ワーママ・オブ・ザ・イヤー2015」、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。