甘味飲料多飲で「ノックアウト型」脳梗塞リスクが3倍以上に?20万人観察結果【最新情報】
後遺症が重篤な「ノックアウト型」脳梗塞
「ノックアウト型」脳梗塞という言葉をご存知ですか?
まるでボクシングでノックアウトされたように、二度と立ち上がれないほどダメージの大きい、つまり重症度の高い脳梗塞のことを指します。
重症度の高さを具体的にお示ししましょう。
青森県のある脳卒中センターに運び込まれた患者さん750人強を調べたところ、「ノックアウト型」脳梗塞の6割弱が、「死亡」または「介助なしでは生活できない」状態で退院していました。「ノックアウト型」以外の脳梗塞では20~35%程度です [奥村謙ほか. 2011]。
「ノックアウト型」と呼ばれるのも理解できますね。
そしてこの「ノックアウト型」脳梗塞になる危険性が、砂糖や人工甘味料入りの飲料をよく飲む人では跳ね上がっていました。
米国の「サーキュレーション:不整脈と電気生理学」という、頭が痛くなりそうな名前の学術誌が3月5日、論文を掲載しました。著者は中国・上海交通大学のイン・スン氏たち [文末文献1]。
同じ東アジア人なので参考にしやすいデータです。
正式名称は「心原性脳塞栓症」
さて、「ノックアウト型」脳梗塞の医学的な正式名称は「心原性塞栓症」と言います。その名のとおり、心臓が原因で(心原性)脳血管を栓が塞いでしまう(脳塞栓症)脳梗塞の一種です(詳しくは後述)。
そしてこの「ノックアウト型」脳梗塞(心原性塞栓症)の最も大きな原因とされている「心房細動」という病気が、砂糖・人工甘味料入り飲料をよく飲む人では多い——。これが今回、スン氏たちが明らかにした事実です。
心房細動があるとなぜ「ノックアウト型」脳梗塞に?
(病気の説明が面倒な方は、この段落は飛ばしてください)
なぜ「心房細動」という病気があると、「ノックアウト型」脳梗塞になるリスクが上がるのでしょう?
それは脳の血管を詰まらせる「栓」が大きいからです。
例えて言えば、大きな道で大型トラックが横転したような感じでしょうか。それが軽自動車なら自転車くらいだったら横を通り抜けられるでしょう。でも大型トラックです。道は完全に道が塞がれてしまいます。
人体で言えば大きな血管の血の流れが完全に血流が途絶えてしまうのです。そこから枝分かれした血管から血流を受けている脳はすべて、息も絶え絶えとなってしまいます。これが重症化する理由です。
そしてその大きな「栓」は「心房」から血流に乗って流れてきます。
心房は普段なら「タン、タン、タン」とリズムよく収縮して血液を送り出していますが、調子がおかしくなるとリズムが乱れ、「アタタタタ」と震えるだけ(細動)になります。
そうすると心房の中でうっ滞した血液の一部が固まり、結構なサイズとなります(血栓)。これが血管を通って脳まで届き、太い脳血管を塞いでしまうと「ノックアウト型」脳梗塞です。
長い説明にお付き合いありがとうございました。
「砂糖」入りと「人工甘味料」入り飲料がリスクを上げる
さて、今回の本題は、
「ノックアウト型」脳梗塞の原因となる「心房細動」リスクを、ある種の甘味飲料常飲が増やす、というお話でした。
スン氏たちが解析したのは、「心房細動」と診断されたことのない20万人の中国住民です。最初に食生活をいろいろ調べ、約10年間、観察しました。
すると「砂糖入り飲料」を「1週間に2リットル以上」飲む人は、まったく飲まない人に比べ「心房細動」になる確率が3.3倍も増えていました。
「1週間に2リットル」というとかなり多く感じるかもしれませんが、1日に直せば285ミリリットル。100円ちょっとの缶ジュースが1本350ミリリットルですから、気付かぬうちに飲んでしまう量でしょう。
なら「ノンシュガー飲料」と考えたあなた。残念ながらそれもダメなのです。
「人工甘味料入り飲料」でも同じように「1週間に2リットル以上」飲む人は、心房細動を起こす確率が、まったく飲まない人に比べ3.5倍に増えていました。
それでも甘いものを飲みたければ、少し値段は張りますが「天然果汁100%」を選びましょう。
スン氏たちの研究で「天然果汁ジュース」は心房細動リスクを上げていなかったからです。
因果関係があるかは不明
ただしこれら甘味飲料の飲みすぎそのものが「心房細動」の危険性を上げているかどうか、断言はできません。
スン氏たちはそのような「因果関係」があると考えているようですが、「砂糖」や「人工甘味料」入り飲料を好む人たちに共通する、スン氏たちも気づいていない何らかの因子が「心房細動」リスクを上げている可能性もあります。
でも将来、「ノックアウト型」脳梗塞で「要介護」になりたくなければ、やはりそのような飲料の飲み過ぎは避けるに越したことはないですよね。
おしまいに
いかがでしたか?「砂糖」や「人工甘味料」の入った飲み物を摂りすぎると、「ノックアウト型」脳梗塞の原因となる「心房細動」を引き起こす危険性が上がる可能性を報告した論文のご紹介でした。
脳卒中については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。ではまた!
今回ご紹介した論文
英語論文ですが、DeepLなどの無料翻訳を使ってぜひご自身でも読んでみてください。
【注意】本記事は医学論文の紹介です。研究結果の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる場合もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。