テレビ棋戦での持将棋
NHK杯2回戦・久保利明九段-藤井聡太七段戦、千日手指し直しから大熱戦の末に決着
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsumotohirofumi/20190825-00139784/
既報の通り、8月25日に放映されたNHK杯の久保九段-藤井七段戦は、最初は千日手となりました。そこで筆者が思い出したのは、2年前の2017年度NHK杯2回戦・森内俊之九段-藤井聡太四段(当時)戦でした。
この対局は、NHK杯としては異例の生放送という形式でおこなわれました。デビュー以来無敗の29連勝で史上空前の藤井フィーバーが巻き起こり、その流れの中で、そうした異例の設定となったものです。
関係者が心配したのは、放送時間にうまく収まるかどうかです。
先日の王位戦第4局▲木村一基九段-△豊島将之王位戦のように、相入玉から300手近い長手数での終局となれば、これはもう途中で終了時刻が来てしまいます。そして、仮に手数が短くとも、持将棋、千日手といった引き分けが成立すれば、指し直し局が終わるまでには、やはり時間が足りなくなる可能性が高いでしょう。
NHK杯など、テレビ棋戦は基本的に事前収録です。長手数になっても、あるいは持将棋や千日手で引き分けから指し直しとなっても、うまく編集することができます。場合によっては、途中の場面を詰めて指し手を早く見せたり、大盤で駆け足で並べたりして、最初から最後まで放送できるわけです。
生放送だった2017年森内-藤井聡太戦は、時間的には、ちょうどいい頃合いで終局となりました。
結果は94手で藤井四段の勝ちでした。
森内俊之八段-土佐浩司七段戦
千日手と持将棋は、いずれもレアなケースですが、どちらかといえば千日手の方が多く、持将棋はめったに現れません。そのレアケース中のレアケースを、いくつかご紹介したいと思います。
1972年度から2002年度まで、テレビ東京では「早指し将棋選手権」というテレビ棋戦が放映されていました。
1998年度の決勝では、森内俊之八段(現九段)と土佐浩司七段(現八段)が対戦しました。
そしてその決勝戦は、相入玉となります。双方の玉が相手陣に入り込み、互いに詰ませるのが難しくなった場合には、駒の数が重要となります。大駒(飛角)5点、小駒(金銀桂香歩)1点として数えると、「持将棋」の条件を満たして、引き分けとなります。
森内-土佐戦は、持将棋となりました。
図では先手が26点。後手が28点です。手数は201手。まだ互いに取り合える駒も残っていますが、頃合いとしては、持将棋成立で差し支えなさそうです。
もちろん、先日の王位戦第4局のように、徹底的に駒を取り合って、どちらかの駒が足りないことがはっきりするまで指す例もあります。
タイトル戦の番勝負であれば、持将棋は後日指し直しとなります。そうでなければ、少しの休憩をはさんで、同日中に指し直すのが通例です。
早指し戦決勝の指し直し局は土佐七段が179手で制して、初優勝を飾りました。持将棋局の201手と合わせて380手の死闘でした。
神吉宏充六段-鈴木大介六段戦
1999年度NHK杯3回戦、神吉宏充六段(現七段)-鈴木大介六段(現九段)戦も持将棋となりました。
手数は183手。終局図で点数は、先手28点、後手26点です。
神吉六段の玉は、まだ自陣の一段目隅、1九の地点にいます。ここで持将棋成立はずいぶんと早いような気もしますが、両者合意であれば、問題はありません。
指し直し局は163手で鈴木六段の勝ち。合わせて346手と、こちらも激闘でした。鈴木六段は勢いがついたか、この期のNHK杯で初優勝を飾っています。
行方尚史八段-澤田真吾五段戦
2014年度NHK杯2回戦▲行方尚史八段-△澤田真吾五段(現六段)戦は相入玉模様で長手数の戦いに。この時、解説していたのは豊島将之七段(現名人・王位)。思わぬ展開に、豊島七段も途中で笑ってしまう場面がありました。
やがて、以下のテロップが出されました。
この対局は2時間をこえて指され 持将棋となりました
持将棋成立の局面からご覧ください
終局図では先手25点、後手29点。双方24点以上あるため、持将棋の条件を満たしています。
指し直し局は88手で行方八段の勝ちとなりました。合わせて340手です。
この期、行方八段はさらに勝ち進みます。準決勝では橋本崇載八段と対戦。橋本八段が二歩を打ってしまうというアクシデントもありました。
決勝は森内俊之九段と行方八段の対戦で、森内九段が勝って優勝しています。
持将棋、千日手となれば、指す方も、運営の側も大変です。しかし、観戦する側としては、もう一局見ることができて幸運なのかもしれません。