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クラブライセンスは何のため!? サッカー、バスケと似て非なるラグビーの審査を問う

大島和人スポーツライター
旧トップリーグは21年5月に幕を閉じ、22年1月からは新リーグがスタートする(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

「事業化」を目指すリーグワン

JAPAN RUGBY LEAGUE ONE(ジャパンラグビー リーグワン)が、2022年1月7日に開幕する。従来のジャパンラグビートップリーグから変化したポイントはまず「ホーム&アウェイ方式」の導入だ。リーグも協会から独立し、試合の興行権がチームに移った。各チームが事業化に取り組み、自ら集客やチケット販売を担う仕組みに変わっている。

もっともプロ化の最低条件である独立法人化に踏み切ったチームは少ない。ディビジョン1(1部)は12チームで構成されるが、ラグビーチームを独立させているのは静岡ブルーレヴズ、東芝ブレイブルーパス東京の2社だけだ。リーグワンは通りのいい表現を使えば確かに「プロと実業団のハイブリッド」だ。

しかし実業団は現場が権限を持てない体制で、そこにプロが混ざるとリーグの意思決定が機能しない。これはJBL、NBLといったバスケットボールの旧リーグが苦しんだ現象だ。リーグワンは今まで以上に混乱が起こりやすい、過渡期的で中途半端な体制になった。

リーグワンは審査により2022シーズンを戦う24チームを3つのカテゴリーに振り分けている。競技力も評価の対象に入っているが、事業性、社会性の評点を大きくしたところが肝だった。一見するとこのプロセスは2015年夏に行われたBリーグ初年度(2016-17シーズン)のカテゴリー分けと似ている。

競技力軽視のカテゴリー分け

Bリーグで審査実務を担当した大河正明・前チェアマン(現びわこ成蹊スポーツ大学長)は振り返る。

「2つのリーグ(NBL、bjリーグ)に分かれていて、時間的余裕もなかった。強いか弱いかは尺度に一切入れなかった」

実力が測りにくいという前提があったにせよ、当時のバスケ界も実力をカテゴリー分けの基準にしていない。大河はバスケ界へ転身するまで、Jリーグの常務理事を務め、初代クラブライセンスマネージャーとして制度の導入に尽力した。ライセンスの制度設計、実務を知り尽くした人物だ。

リーグワンは配点基準、順位を公表していない。ただ豊田自動織機シャトルズ愛知のように、直近の練習試合で静岡ブルーレヴズ(1部)や花園近鉄ライナーズ(2部)に快勝しているチームがディビジョン3(3部)に振り分けられた。トヨタヴェルブリッツは強力な親会社に支援され、ワールドクラスの人材を擁する強豪だが、辛うじて1部に留まったと報道されている。地域貢献、普及活動など「オフ・ザ・ピッチ」の取り組みを重視する方針で審査が進められたことは間違いない。

Bリーグ、Jリーグが重んじたもの

Bリーグとリーグワンの審査は、同じようで違う。B1からB3に振り分ける過程で重視されたポイントは売上、アリーナだった。財務や施設がしっかりしているチームは、結果的に強くなる。逆に直近のシーズンが強かったとしても、過大な投資をして得た結果だったならば、それはサステナブルでない――。そういう判断がカテゴリー分けの背景にあった。言い換えれば短期的な実力より「中長期的な実力」を問うたからこそ、Bリーグは財務や施設を重視した。

そこは1993年に開幕したJリーグ開幕前の審査も同様だ。活動実態のなかった清水エスパルス、日本リーグ2部だった住友金属(後の鹿島アントラーズ)がオリジナル10に加えられた理由はスタジアム、地域性といった発足後のチームを支える基盤にあった。

ライセンス制度は冷徹にチームを振り落とすためのものでなく、そのポテンシャルをスポイルせず引き上げるための道具だ。プロの世界ならば地域に愛される、経営的に充実しているチームは自然と強くなる。それを見越した“総合的な判断”はあっていい。

納得感の乏しい審査に

ただリーグワンは売上や集客の実績がなく、実力はシンプルに「会社の支出」「現場の能力と努力」で決まる。数十年はともかく数年のスパンで考えれば、社会性や事業性がチームの実力とほとんどリンクしない。もちろんイベントや学校訪問で認知度を上げる、チャリティや普及に協力するといったアクションは尊い。でも現時点の構造では、そのような努力がおおよそ“稼ぐ”ことにつながらない。

さらに本来1部でやるべきレベルのチームを3部に入れたら、ミスマッチが増える。100点差の試合を見てもファンは楽しめないだろうし、負傷リスクも上がる。つまり社会性、事業性を重視した審査がマイナスの作用を起こしている。

特に社会性は客観的な計測が難しい。審査側に眼力、チームを納得させるコミュニケーション力があるなら主観的な審査もありだろう。だが、リーグワンの審査がそうだったようには思えない。

審査の目的と手段が逆転

リーグワンの選手やコーチは多くが嘱託も含めたプロ契約で、競技力と待遇はワールドクラスだ。ただしチームの組織は親会社から独立していないノンプロで、端的に言うと「大企業の福利厚生」「コストセンター」だ。

命がけでチームに関わるオーナー経営者が存在せず、チームの存続をかけて必死にリーグと向き合う“うるさ型”は出てこない。チームの担当者は審査にあたって神経をすり減らしただろうが、彼らは企業の中間管理職。いわゆる板挟みポジションで、会社にもリーグにも強く言えない立場だ。

審査委員会の頭越しに協会へ抗議するレベルの動きが、マナー違反としてメディアから激しく攻撃される――。そんな“紳士的”カルチャーがラグビー界には根付いている。しかし納得感のない審査は、中長期的にその競技を害する。

大河はこう説く。

「リーグワンの親会社は福利厚生だから納得しているのであって、サッカーならあの説明で『J1に入れません』となったら、大変な問題になります。定量基準でやるべきだし、定性基準が駄目とは言わないけれども、みんなが『なるほどね』と思う指針は示すべきです」

さらにこう述べる。

「なぜクラブが地域貢献活動をやっているかといったら、地域から愛されて、市民が見に来てくださるところが目的だからです。別にそこで評価しなくても、観客数の定量基準にすればいい。そうすれば自然としっかり地域貢献活動をやる発想になるはず。目的と手段が逆転しているように感じます」

大河正明・びわこ成蹊スポーツ大学長:筆者撮影(スクリーンショット)
大河正明・びわこ成蹊スポーツ大学長:筆者撮影(スクリーンショット)

リーグワンの玉塚元一・理事長は、既にライセンス制度の導入にも言及している。もちろんこの制度は上手く設計、運用すればリーグの発展につなげられる。しかしカテゴリー分けの経緯を見ると、クラブにとって納得感のある審査ができるのかが疑わしい。

クラブライセンスの発祥はドイツ

さかのぼるとJリーグは2013年にクラブライセンス制度を導入した。Bリーグは2017-18シーズンから類似の制度を導入している。ただし審査機関の設計などに若干の違いがある。

大河はJリーグが制度を導入した前段階をこう振り返る。

「まずFIFAがドイツのやり方はいいと評価して、それを世界に広げようとしたんです。ライセンス制度を整えて審査を受けたチームが、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)にも出ると決まりました。国内ではちょうど大分、ヴェルディの問題があり、草津(当時)や岐阜が潰れそうになり、問題が起きていた時期です。このままではなかなかクラブ経営が成り立たないということで、当時は早稲田大の武藤(泰明)先生を委員長にして、経営諮問委員会で議論をしていました」

FIFA、AFCはクラブセンスマネジャーの常勤化を求めていた。武藤委員長は当然ながら教授が本職で、1990年代に出向でJリーグ職員だった経歴を持つ大河が2010年11月に、銀行を辞してこの職に就いた。

制度の方向性について、大河はこう説明する。

「Jリーグが最初にクラブライセンス制度を取り入れたときは、ふるいに掛ける制度ではなくて、サステナブルな発展をしていくために取り入れた制度ですとはっきり明言していました」

導入当初は“弱小クラブ切り捨て”と批判されていたJリーグのクラブライセンス制度だが、明らかにそれは的外れだった。

どんぶり勘定の脱却に寄与

Bリーグもそうだが、Jリーグはこのコロナ禍でクラブの存続問題を起こしていない。2010年頃までのJリーグや、バスケの旧リーグは“どんぶり勘定”で経営をしているクラブが多かった。その帰結が資金繰りの問題による突然の経営危機だ。当時のJリーグには破綻寸前にもかかわらず、財務諸表をリーグに見せようとしないクラブさえあったという。

ライセンス制度の運用を通して、リーグは各クラブの経営実態や資金繰りをほぼリアルタイムでチェックするようになった。大河も含めたJリーグのスタッフが現場に足を運んでフォローを重ね、パーフェクトとは言えなくとも、クラブ経営はかなり改善された。

もちろんライセンス制度だけがプロスポーツの経営を支えているわけではない。JリーグならDAZN、Bリーグならソフトバンクの支払う巨額の放映権料があり、それがリーグとクラブを助けている。ただ早めの処置ができれば危機は深刻化する前に防げる。財務諸表の信頼度が上がったことでJリーグやBリーグを買った企業、買おうとしている企業が増えている。

「親会社の格付けだけ見ればいい」

一方で大河は若干の皮肉を込めて、リーグワンのライセンス審査についてこう指摘する。

「親会社の福利厚生部門である限り、親会社の格付けだけを見ればいいんです」

チームが独立せず、単体の財務諸表がないのだから、そもそも評価しようがない。事業性や安定性を評価すると言っても、それを図る定量的な材料がない。それならば親会社の経営を基準にしたほうが、まだ実効性のある審査ができる。

玉塚チェアマンは先日、日本経済新聞の取材に答えてリーグワンについて「初年度の(リーグや各チームの)総事業費は350億~400億円くらい」と述べている。

「350億から400億」は、大半が社内の福利厚生費として支出される予算。事業収入、売上ではなく会社の内側で動いているお金の動きだ。もちろん法人化ですべてが解決するわけではない。親会社はJリーグと同様に、広告宣伝費として巨額の支援を続けざるを得ないだろう。

ただ法人化が実現すれば少なくとも「ラグビーで稼いだ金額」「ラグビーに払った金額」が可視化されて、経営力を測れるようになる。小さな経営ユニットになれば、意思決定のスピードも上がる。スポンサーセールス、グッズの制作と販売といった部分にも好影響がある。また親会社の経営不振や統廃合、経営方針の転換が起こったときに“チームをスムーズに承継できる”メリットは大きい。

スポンサーは“親会社”を支援するか?

法人化されていないチームには、このような問題もある。

「例えばトヨタ自動車のラグビーチームに、看板を出してくれるような企業がそもそもあるのかな?と思います。(オーナーは同じトヨタ自動車でも)企業が名古屋グランパスという別法人に看板を出すことはできます。でもそれがトヨタ自動車本体であれば、スポンサーさんがチームへの支援を広告宣伝費で落とすのは常識的にないですよね」

独立法人化が無理だとしても、社内カンパニー制のような形で切り分けられればベターだ。

「ライセンス制度をやるなら、運営法人の設置がまず原理原則です。運営法人を万が一作らないのであっても、ラグビーチームの収入と経費をしっかり切り分けたものを、合理性がある説明をもとに出してもらったほうがいい。出してもらわないと、どんぶり経営になってしまいます」

付言するとヨーロッパのサッカー界はリーグワン、Jリーグと違う部分に重きを置いている。

「Jリーグの財務要件は債務超過、連続赤字と定量的な部分で止めています。だけどヨーロッパは『ファイナンシャル・フェアプレーのためにクラブライセンス制度を創設した』と言われているようです。親会社、スポンサーが過剰に資金を出して選手を集めるのがフェアではないという発想です」

「親会社がお金を出しすぎる」「身の丈を超えて選手に投資をしている」クラブはJリーグにもある。もっともリーグワンは、言ってしまえば全チームが収入に見合わない人件費を支出している。ライセンスにファイナンシャル・フェアプレーの視点を盛り込んだら、交付を受けられないチームが出てきてしまう。

施設要件をどう運用するのか?

BリーグやJリーグと、リーグワンの審査における数少ない共通点は施設要件だ。既に「2023年シーズンまでに15000人以上収容のスタジアムを確保出来るよう、日本ラグビー協会、リーグ運営法人、チーム3者で努力する」という内容が公表されている。

リーグワンの1部12チームを見たとき、東京の5チームは“15000人収容のスタジアム”を確保できていない。試合は秩父宮、味の素スタジアム、駒沢などの会場に振り分けられていて、東京全体がホームの扱いだ。Jリーグと重なる時期になると、夢の島のような5千人規模の陸上競技場も使わざるを得ない。

サッカー専用を標榜している埼玉スタジアムはもちろんだが、今回は等々力陸上競技場もリーグワンの使用を受け入れなかった。Jクラブは芝を大きく傷めるラグビーとの共用を本音として歓迎しておらず、スタジアムの相乗りがスムーズに進む保証はない。

ラグビー界は政治力があるようでない。サッカーは2002年のワールドカップ(W杯)を契機に、北海道から大分までスタジアムがいくつも新設された。バスケも民設も含めて全国各地で“夢のアリーナ”の建設計画がいくつも持ち上がっている。ラグビーは森喜朗・元首相のような大物の支援を受けつつ、2019年W杯前のスタジアム新設が釜石鵜住居復興スタジアムのみにとどまった。

もちろん企業チームの中でも、埼玉パナソニックワイルドナイツのように自治体とJクラブ以上の提携関係を結んでいる例はある。とはいえ現状は自治体との“スクラム”を組めていないチームが多い。議論や価値の提示が内輪向けで「相手の目線に立った発信や交渉」ができていないからだろう。

必要な首長へのアプローチ

大河は言う。

「ホストタウンという言い方をされていますが、ホームスタジアムを確保するためには、どうやったって行政の首長と会って交渉しなければ無理です。バスケはbjリーグやNBLの時代にそれをやっていなかったから、サーカスの興業みたいに都道府県内のいろんな空いている体育館をグルグル回っていました。ホームアリーナやホームスタジアムは選手やファンにとっての家だから、それを持たない判断はありません。首長に趣旨を説明して協力を求めて、優先的に貸していただく。Jリーグはその歴史をずっと積み重ねてきました」

2022シーズン、23シーズンの段階で東京の5チームがホームスタジアムをはっきり確保することは不可能だろう。リーグが想定する“1試合平均15000人”を実現するために、地域へ根ざして事業性を高めるために、スタジアム問題からは逃げられない。一定期間の猶予はもちろん必要だが、“いつまでにどう実現させる”という工程表が提示されるべきだ。仮に例外を認めるにしても地域や条件を限定して、理由を説明する必要がある。

ライセンスは自治体へのメッセージでもある。スタジアムの新設や改修を行うとき、自治体はそれを基準にするし、議会や市民への説明にも使う。首長はライセンスを盾に自らを守り、支出を規定のせいにできる。

大河は述べる。

「面白いもので、ライセンスに『トイレは和式を認めない、洋式をこれだけの数を設置する』『審判の部屋にはシャワールームとトイレが独立して必要』と書くと、予算がついてくるんです」

JリーグやBリーグのライセンスにはAからCまで3つの段階がある。A基準は一つでも満たせなければ即退場で、B基準は満たせなければクラブに罰則が課せられる。C基準はいわば「努力目標」だが、時間の経過に伴ってBやAに引き上げられていくケースもある。

“振り落とす”ライセンスは悪

チームを振り落とす材料としてライセンスを使うなら、それは簡単だ。しかし今のラグビー界における究極のミッションは、一つでも多くのチームを未来に残す、企業の撤退を可能な限り止めることだ。ライセンスは会社とチームからやる気と努力を引き出すための“ひと押し”として用意されるもの。リーグワンがスタジアム要件をB基準、A基準へ引き上げようとするなら、チームや自治体との向き合い、綿密なコミュニケーションが必要になる。

ラグビーでも川淵三郎氏がJリーグやBリーグでやったようなトップ交渉は重要だ。玉塚理事長が自治体の首長に直接アプローチをして、スタジアムの新設や改修、優先利用を得ていく動きは最低限と言っていい。チームの存在が地域にどのようなメリットをもたらすか、第三者に届くロジックの提示も大切だ。

繰り返しになるが法人化はリーグとチームがサバイバルする前提。そしてライセンス制度は法人化とワンセットで機能する。

プロと“福利厚生を目的とした企業の運動部”が混在したリーグとなった以上、シンプルに競技力で評価したほうがいい。それが筆者の見立てだ。カテゴリー分けと同じように、定量化しにくい要素でチームを評価すれば必然的に揉める。チームを振り落とす武器としてライセンス制度を活用するのは一つの見識だが、そもそも仲間を追い出すメリットはない。

意味を理解せずに制度が運用されれば、むしろ発展の邪魔になる。リーグワンをより良くしようとするなら「ライセンス制度は何のためにあるか」を熟慮し、再考するべきだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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