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日本では書店の閉店が続いているが、欧米では書店市場が拡大しているという驚くべき違いは何故?

篠田博之月刊『創』編集長
ブックセラーズ&カンパニーの書店向け説明会(筆者撮影)

今も続く書店の減少と一方で、それに抗する動き

 次第に社会的関心が広がりつつあるとはいえ、「街の書店が消えてゆく」流れはまだ止まっていない。

 ただ、このところ、新聞やテレビがこの問題を大きく報じるようになってから、それに対抗する動きも拡大しつつある。

 ひとつ大事な点は、市民や自治体が支える体制を作ることで街の書店を存続させるということだ。本を入手する利便性などではネット書店にも優位性があるが、街のリアル書店は、単にそれだけではない、地域の文化的拠点としての側面も持っている。そうした機能に、住民がどれだけ自覚的になれるかは、書店再生のための大きな要素だ。

 しかし、そうはいっても、街の書店が存続の危機にさらされている現実はある。続けたいとは思うが、経営的に成り立たないという書店も少なくない。

 そうした状況をどうやって変えていくか。個々の書店の取り組みだけでなく、もっと大きな構造的改革が必要ではないか。そういう声も高まりつつある。経済産業省のこの間の取り組みも目を見張るものがある。ただ政治や行政主導の改革には懸念を示す向きも少なくない。出版界や書店界が自主的に大きな改革を進めるべき時期に来ているのかもしれない。

出版流通の仕組みを変えようという試み

 そうしたなか、ここで取り上げるのは、2023年10月にスタートした「ブックセラーズ&カンパニー」の取り組みだ。もともと紀伊國屋書店が買い切り制や直取引といったことを提唱してきたが、これまでの委託販売に則った出版流通の仕組みを変えていこうという、ある意味壮大な試みだ。

 そのブックセラーズ&カンパニーの書店向けの説明会が2024年7月24日、紀伊國屋書店新宿本店で開催された。119法人、170名以上の書店関係者が参加したその説明会は、オンライン配信で行われたが、マスコミ取材はリアルの場で行われ、説明会の後に記者会見も行われた。

 最初に出版界・書店界の現況を説明したのは、紀伊國屋書店の藤則幸男社長だった。次にブックセラーズ&カンパニーの宮城剛高社長が、同社の業務や、この何カ月かの取り組みについて話した。

 同社が出版流通についてどういう仕組みを提唱、推進しているかを以下、紹介したいと思うが、ここではまず、6月12日の経済産業省主導の第2回車座会合での宮城社長の報告を紹介しよう。

6月12日の経済産業省主導の第2回車座会合(筆者撮影)
6月12日の経済産業省主導の第2回車座会合(筆者撮影)

日本と逆に海外の書店市場は拡大している!?

 というのも、そこで冒頭話された、日本の出版流通の仕組みを他の国々と比較した内容が、ある意味、衝撃でもあったからだ。日本の出版界・書店界は1990年代半ばをピークに縮小に転じ、落ち込みは加速しているのだが、実は海外では逆に書店市場が拡大しているというのだ。日本の委託販売をベースにした流通の仕組みは、実は全世界的に見れば例外的で、そこから脱却して新しい仕組みを作らなければ、日本の書店界は生き残れないのではないかという内容だった。

 確かに大量配本・大量返本などと批判もされる日本の出版流通の仕組みは、市場が拡大している間は有効で、日本の出版界を支えてきたのはその仕組みだったと言っても過言ではない。ただ、それが今、様々な問題に突き当たっており、今後はそこからの転換を図らねばならないのではないか。ブックセラーズ&カンパニー設立の狙いはそこにあるという。

 以下、車座会合でパワーポイントを使って説明した宮城社長のプレゼンテーションの中身を紹介しよう。文字化したものをご本人に確認いただいたもので、実際の説明ではパワポで示したデータも一部、取り込んだりしている。

日本の書店界は世界の中では特殊

《ブックセラーズ&カンパニーの社長を務めています宮城です。ブックセラーズ&カンパニーは、紀伊國屋書店、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、日本出版販売の3社の出資によって設立した合弁会社です。メンバーは3社から選ばれておりまして、私自身は紀伊國屋書店から出向しています。

 会社設立の目的は、街に書店があり続ける未来、これを書店の立場から切り開いていきたいということです。リアル書店はなくても困らないとか、減っていくのは自然の流れじゃないかといったご意見もあるようですが、我々としては、やはりリアル書店はまだ価値があると思っていますし、私自身が楽観的過ぎるかもしれないのですが、まだまだ未来は明るいと希望を持っています。

 なぜかと言えば、ここで海外の話をさせていただきたいんですが、昨年、イギリスとドイツの調査会社が発表した世界の書籍市場に関するレポートがあります。日本は入ってないんですが、世界16カ国中12カ国で本の売り上げが増え、マーケットが拡大しています。メキシコは11・4%増、ベルギーは9・4%増、インドが7・1%増、ポルトガル7・0%増、スペイン4・6%増、イタリア3・4%増、オランダ3・1%増、フランス1・5%増などです。

 次にアメリカのブックセラーズ・アソシエーション、独立系の書店の組合がちょうど先日レポートを出しているんですが、昨年全米で230の本屋さんが新しくオープンしています。当然閉店もあるんですが、差し引きしても純増しています。

 つまり海外では、本のマーケットはまだまだ拡大しているし、本屋の数も増えているのです。一方、日本は、この30年間、本のマーケットは基本的には右肩下がりで縮小しています。本屋の数も減り続けている。ただ世界に目を向けると、これはかなり特異な現象じゃないかと思うんです。

 では日本と世界は何が違うのか。日本の出版流通が海外と違うと考えています。日本の書店は基本的には商品は取次を経由して委託販売という形で仕入れています。売れなければ返品ができる。これに対して他の国では、出版社から直接買い切りに近い形で仕入れているケースが多いのです。》

書店向け説明会で話すブックセラーズ&カンパニーの宮城剛高社長(筆者撮影)
書店向け説明会で話すブックセラーズ&カンパニーの宮城剛高社長(筆者撮影)

欧米では直取引で注文買い切りが多い

《経済産業省コンテンツ産業課が昨年10月に行った「国内外の書店の経営環境に関する調査」によると、日本は委託販売が主流で出版社-取次-書店という流通経路なのですが、アメリカは出版社と書店の直取引が主流で注文買い切りです。ドイツやイギリスもそうですね。フランスの場合も注文買い切りですが、出版社と書店の間に出版社運営の取次が入ります。韓国は日本と同じく委託販売です。

 紀伊國屋書店は海外でもビジネスしていますので、紀伊國屋の状況を確認しました。今直営で8カ国で展開しているんですが、書籍を直接出版社から仕入れている割合が、アメリカは50%、マレーシアなど少ない国でも30%、多い国ではタイが70%、オーストラリア80%というように、7割から8割の本を出版社から直接買い付けています。買い切りに近い形で買い付けていますので、結果として返本率は1割に満たないぐらい、利益率も40%~50%出ています。書店ビジネスで利益が確保できているわけです。

 我々ブックセラーズ&カンパニーは、日本でも書店の粗利30%は確保したい、それを確保していかないとビジネスとして成り立たないという課題意識を持ってやっていますが、海外ではこういう状況があるわけです。》

書店の粗利30%をどうやって実現するか

 日本の書店事情や仕組みは世界全体からみると特異なものだという認識は、これまでの書店をめぐる議論では欠けていたかもしれない。この何年か、これまでの出版流通の仕組みに乗らない独立系書店が拡大していることは知られているが、それもこれまでの流通の仕組みが大きな曲がり角に突き当たっている現実を反映しているともいえる。宮城社長の話を続けよう。

《日本の本屋さんが減ってしまっている、あるいはそれ以上に問題だと思ってるのが、新規参入がほぼない。利益率が低いことが一つ大きな原因じゃないかなと私は考えています。

 私自身も海外の紀伊國屋書店で11年働いていました。海外でうまくいってるからそれをそのまま日本に持っていけばいいみたいなことはもちろん成り立たないと思っています。

 ただ、海外ではきちんと書店というビジネスが成り立っているということを踏まえた上で、ブックセラーズ&カンパニーは書店業界に、私自身も含めた経験を生かして貢献していければと思っています。

 私たちは、粗利30%以上を確保するために、3つの大きなビジョンを掲げています。書店がしっかりと意思を持って商品を仕入れる、仕入れたものは責任を持って販売する、これを利益改善に繋げるために、出版社と書店の間で直接取引をする。この3つを掲げています。

 この3つのビジョンを実現するために、様々なプロジェクトを今、社内で動かしているところです。5月に開始した「ナンバーワンプロジェクト」、今実施中の「地域別合同企画 九州から全国へ」、そして6月から展開している「ジャンル別合同企画 一読三嘆」などですね。

 書店の粗利、書籍で得られる利益を全体で30%確保しようと思うと、5割から6割ぐらいを直接取引に切り替えていくことが必要だと我々は考えています。》

2024年10月までに2割を直仕入れに

《従来の委託取引ではなくて出版社から直接買い付ける取引の割合を2026年4月までに6割まで拡大するのが大きな目標ですが、まずは今年の秋、10月までに全体の2割を直仕入れに切り替えていくことを目指しています。

 2割が直接取引になって、利益率もきちんと改善してくれば、いろんな感覚だとか風景がだいぶ変わってくるんじゃないかと、予感なんですが、思っています。

 当然従来と違うやり方にチャレンジしていきますので、書店側の意識改革も必要であると思っています。まず紀伊國屋書店、それから蔦屋書店、それから日販のグループ書店に、日々我々はいろんなメッセージを送っています。

 まずはちゃんと書店の意思で仕入れ、それをしっかり売って、その結果として返品率を減らし、そうやって利益を確保していこう。ある意味当たり前の話かもしれないんですが、やっぱりそこのところから改めて我々の意識を見直し、本を売って利益を出していくことにチャレンジしていくことが必要かと思っています。》

書店を活性化させるための取り組み

 委託販売制と異なる流通の仕組みに、実際に取り組んでいるというのが特筆すべきことで、書店の粗利30%というのは、業界全体が悲願として掲げている目標だ。それを実際にどうやって実現しようとしているのか。これまでの取次が担ってきた役割はどうなってしまうのか。株主として日販が関わっているが、この仕組みでは、日販は取次としてでなく物流を担う会社として関わるのだという。宮城社長の話は続く。

《もう一つ我々が大事にしたいと思ってるのは、我々はあくまで書店の代表という立ち位置であり、これを見失わないようにしたいということです。つまり我々自身が巨大なインフラだとかシステムに投資をしたりとか、利益をため込んだりみたいなことはしてはいけないと思っています。なるべく小さい規模でかつ身軽な組織でありたいと思っていますし、もう一つ大事なことは、オープンな存在でいたいと思っています。

 我々は3社のグループ書店でこの取り組みをスタートしていますが、決して閉じたものではなくて、我々が目指すことに賛同いただける書店様がもしあれば、ぜひ一緒に参加いただきたいと思っています。

 直近の非常に大事な課題として、出版物流の問題があります。取次会社がもはや単体の事業としては、利益が出ない構造になっている。これに対しても、書店の側から課題解決に貢献していきたいという思いがあります。従来の取次からの委託の仕入れですと、取次から書店の間の運賃は取次が持っていたので、書店はそこで身銭は切ってなかったんですが、我々ブックセラーズは直接仕入れますので、そこのコストも書店側が負担することで、出版社さんと合意しています。

 ですので身銭を切る以上、やはりそこを効率的にしていかないと、書店の利益がその分毀損されていきますから、書店が自らリスクを取って、利益を増やすために結果的に物流を効率化していきたい。

 あるいは、一つ大きな問題として市中在庫と言いますか、書店によって在庫の偏りがあり、ある書店にはたくさん本が置いてあってその本が他の書店にはなかなか入ってこない。こういった課題についても、我々の書店のチームが垣根を越えた存在として、各書店間で在庫のローリングをしたりとか、あるいは仲間卸しみたいな形で、書店が協力することで、全体として、欲しい読者の方に本が届けられる体制を書店側から貢献していきたい、これによって地域の書店の活性化に貢献していきたいという思いもあります。

 最後に少しだけPRさせていただきますと、実際我々の取引は今年の3月からスタートしています。3~4月のまだ2カ月の実績ではありますが、出版社様から直接取引した仕入れが前年より増えています。書店の売り上げが2桁、アップしています。返品を減らすことができました。結果として書店の利益が、今までよりも改善することができています。

 もちろん個別にいろんな課題はあるんですが、まず実績を積み上げていく。それによって出版社、あるいは他の書店の仲間を増やしていくことを今は目指していきたいと思っています。》

徳間書店、主婦の友社など既に契約している出版社も

 日本の出版流通の仕組みを変えようという取り組みだが、7月24日の書店説明会においては、既に徳間書店、主婦の友社、三笠書房、スターツ出版、サンクチュアリ出版、インプレスなどと契約が結ばれて運営を始めていることが明らかにされた。またこの8~9月から契約に至ることが内定している出版社としてTAC出版、SB新書で知られるSBクリエイティブ、自由国民社などが挙げられた。

 取引モデルとしては、販売コミットモデルと返品ゼロモデルがあって、現状では多くの契約が前者だというが、完全買い切りという返品ゼロモデルの出版社もあるという。また書店側の取り組みとして既に紀伊國屋書店や蔦屋書店は当然だが、秋以降は文教堂や旭屋書店なども参加を予定しているという。

 今年10月には全体の2割を直仕入れに切り替えていくことを目指しているというが、シェアが拡大するにつれて、影響力も拡大するし、また新たな課題も出てくることだろう。6月時点で、契約出版社は6社、参加書店は37企業・399店舗で、それらの店頭売り上げは前年比119・4%、書店粗利率は30・8%に伸びているという。37企業399店舗のうち17企業で粗利30%を達成しているそうだ。

 出版流通の仕組みが現実にそぐわなくなっているのではないか、とは近年、しばしば指摘されることではあるが、その構造を根本から変えようというのは簡単なことではない。

 ブックセラーズ&カンパニーは、その出版流通の仕組みを変えようと提唱し、具体的に実践し始めているわけだが、果たしてその行方はこれからどうなるのか。注目すべきと言えよう。なお街の書店が次々と閉店している実情については、創出版刊『街の書店が消えてゆく』を参照いただきたい。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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