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巣ごもり需要で大幅増益した任天堂「あつまれ どうぶつの森」と、VR博物館の最新事情

芝原暁彦古生物学者/福井県立大学 客員教授
「あつ森」はあっと驚くほどすごい! 翼竜ケツアルコアトルス(イラスト:ツク之助)

 皆様、「あつまれ どうぶつの森」(以下、『あつ森』)はご存知でしょうか?任天堂が2020年3月に発売したゲームソフトです。

 任天堂が8月6日に発表した2020年4~6月期の決算発表では、「あつ森」や、Nintendo Switch本体の売り上げが好調であったことから、営業利益は前年の同じ時期と比較して5.3倍の1447億円、「あつ森」は6月末までの3か月間だけで、累計2240万本を世界中で売り上げています。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛期間中に、家庭内の団欒を楽しむため、我が家でもこのゲームにずいぶんとお世話になりました。

 このように「あつ森」では、プレイヤー同士がコミュニケーションを図るために用意された沢山の小道具や、キャンプ場、カフェ、売店などの施設が揃っています。その中でもひときわ目を引くのが「博物館」の存在です。

ゲーム内に登場する「博物館」

 「あつ森」をプレイされたことがない方のために、本作の博物館について簡単にご説明します。このゲームは架空の島に移住し、他の住民たちと交流しながら自然を開拓し、暮らしを充実させてゆくことが目標です。

 ゲーム内で一定の条件を満たすと「博物館」が建造されます。そこにプレイヤーが島内で発掘した化石や、釣り上げた魚、捕獲した昆虫などを持って行くと、館長である「フータ」が博物館に展示してくれるというシステムになっています。

 そのため館内には化石の展示エリアだけではなく、水族館や植物園、昆虫館、そして美術館までが配置されており、かなり大規模な総合博物館であると言えます。

化石エリアの床には、生命の進化が描かれている

 博物館の入り口からまっすぐ奥に進むと、床に模様が描かれています。これは系統樹と呼ばれ、生物の進化を表現しています。この系統樹の枝分かれを追っていくと、どの化石がどの生物の進化と関係しているかが分かります。

 例えば系統樹の一番根元にある大きな丸は、展示されている全ての生物の共通祖先、すなわち原核生物と呼ばれる単細胞生物や、それよりもっと古い生物を表しています。

 ここから時代が下るにつれて、様々な生物が分岐していきます。このエリアでは、左側が無脊椎動物、右側が脊椎動物に分かれています。そして無脊椎動物のエリアではカンブリア紀の「アノマロカリス」や「三葉虫」などの節足動物、そしてアンモナイトなどの頭足類(イカ・タコ類)が展示されています。

 また脊椎動物のエリアでは、現在知られている中で最古の魚類と言われる「ミロクンミンギア」が展示されています(下画像のキャラクター右側にある灰色の標本)。これもカンブリア紀の生物です。さらにその右隣には「ダンクルオステウス」の巨大な頭部が確認できます。硬い装甲で頭部と胸部を覆われていたデボン紀の原始的な魚類です。展示されているのは頭胸部だけですが、これは他の部分の化石が見つかっていないためです。そのため全体の大きさは約8mとしか推測されていませんが、恐らく古生代では最大クラスの魚だったことでしょう。このように入り口から奥に進むほど、新しい時代の生物が出現するという、系統樹に従った展示がされています。

恐竜たちの時代

 次のエリアに進むと、おもに中生代の生物が展示されています。この展示エリアでは、正面左側に海棲動物である魚竜「オフタルモサウルス」や、日本を代表する首長竜である「フタバサウルス」が展示されています。また空を飛んでいた翼竜である「ケツアルコアトルス」の姿も見られます。ケツアルコアトルスは史上最大の翼竜類と考えられており、翼を広げると最大で幅12mに達したと考えられていますが、その生活様式はまだ詳しく分かっていません。復元想像図は、この記事のタイトル画像をご覧ください。こうした魚竜、首長竜、翼竜などは、恐竜とは別の生物に分類される生き物です。

 エリア中央には、ティラノサウルスやトリケラトプス、イグアノドンなどのメジャーな恐竜たちが展示されています。中でもスピノサウルスの姿勢は、四足歩行で前脚よりも後ろ足が短いという新しい理論に基づいて展示されています。

 さらに注目していただきたいのは、右出口付近に展示されている隕石衝突の模型です。これらはまさに、大部分の恐竜を滅ぼし、中生代という時代を終焉させた巨大隕石「チクシュルーブ衝突体」が地球に衝突した様子を表しているのでしょう(下図の右下部分)。また出口付近には、ジュラマイアと呼ばれる中生代に生息していた体長約5cm程度の小さな哺乳類の化石が展示されています(下図キャラクターの左下)。このジュラマイアは、中国に分布するジュラ紀の地層から発見された生物で、哺乳類の中でも人間を含む有胎盤類というグループの共通祖先だと考えられています。学名に「母」を意味する「マイア」が含まれているのはそのためです。つまり中生代という時代の終わりは、私達人類に繋がる新しい時代の始まりでもあることを示しているのです。

哺乳類たちの時代、そして人類へ

 そして次の部屋に入ると、果たして新生代の生物たちがずらりと並んでいます。大型のゾウ類であるマンモスや、サーベルタイガーの一種であるスミロドン、大型のシカであるメガロケロス、さらにメガセロプスと呼ばれる北アメリカに生息していた大型の草食動物なども展示されています。また最奥には化石人類の一種であるアウストラロピテクスが展示されています。

 この展示エリアで一番注目したいのは、床に描かれた系統樹の枝が行きつく先です。このゲームには、人間だけでなくウサギやネズミ、ネコ、ウマ、ゴリラなどの動物をモチーフにしたキャラクターたちが登場しますが、それらの姿が、それぞれの枝の一番先に設置されており、これらのキャラクターがどのような進化を経て今の姿となったかが分かるようになっています。そして「ヒト」が位置する部分だけが空席になっていますが、ここにプレイヤーが操作するキャラクターを持って行くと、天井のライトが光ります。つまり、プレイヤーがこの系統樹に参加することで、はじめて展示が完成する仕掛けになっているのです。

 博物館において「体験」を大事にするのが最近の流行ですが、ゲーム内で来館者と展示物とを融合させてしまうこの展示方法には唸らされます。このように凝った標本の展示方法は、上野にある国立科学博物館の地球館や、ドイツのベルリン自然史博物館などを思い起こさせます。

現実の博物館とVR

 私達が暮らす現実の世界でも、VR技術と博物館とが着々と結びつきつつあります。

 例えば私達が運営している「恐竜技術研究ラボ」では、一ヵ月にいちど「VR恐竜シンポジウム」を開催しています。これはClusterと呼ばれるバーチャルSNS内に、著作権をクリアした恐竜の全身骨格を展示し、それを我々古生物学者が解説したり、発掘現場や研究のエピソードを語ったりするシンポジウムで、スマホやPCからどなたでも参加できます。

 元々は、自粛期間中に博物館が閉鎖されたため、その対応策として企画したものでしたが、徐々にVRならではの利点があることも分かってきました。例えば恐竜の骨格に登って真上から観察する、VRの特性を生かして最新の研究成果に合わせて骨格を配置する、などです。

 こうした仮想現実のコンテンツはオンラインで楽しむだけではなく、現実の博物館や地学教育にも応用できると私達は考えています。そのため自粛期間中はVRで皆さんに化石や地学を楽しんでいただき、コロナ禍が収束したあとも学校教育と連動しながらご活用いただけるよう、日々いろいろなコンテンツを開発しています。

 なおこのVR博物館ですが、夏休み特別企画として、8月8日19時から一週間限定で公開中です。こちらから自由に入館いただけます。

第2回VR恐竜シンポジウムロゴ(デザイン:ツク之助)
第2回VR恐竜シンポジウムロゴ(デザイン:ツク之助)
会場内の様子。モデル選定・配置:今井拓哉博士(福井県立大学恐竜学研究所/恐竜技術研究ラボ)
会場内の様子。モデル選定・配置:今井拓哉博士(福井県立大学恐竜学研究所/恐竜技術研究ラボ)

 この他にも、米メトロポリタン美術館をはじめ国内外の展示施設が「あつ森」にコンテンツを提供するというニュースがありました。これも博物館がVR展示に参入した事例の一つと言えるでしょう。この他にも、米スミソニアン博物館や、英国の地質調査所は、以前から化石をはじめとする収蔵品の3Dモデル公開を行っています。このように博物館とVRのコラボは、今後ますます加速してゆくでしょう。

最大の課題は、フータ館長の健康と安全衛生管理

 話を「あつ森」に戻します。この博物館は多分野の展示を誇る巨大な総合施設ですが、フータ館長以外の学芸員が働いている描写はありません。つまり化石だけでなく、魚類や昆虫、植物などの生体展示もフータが一人で管理している可能性が高いのです。さらにはスタンプラリーなど季節ごとのイベントの企画や発注、来館者へのプレゼントの受け渡しなど細かな業務もすべて彼一人の手に(翼に?)かかっています。これは想像を絶する労力です。しかも彼は丸一日、博物館に常駐しています。夜行性のフクロウゆえか、昼間は居眠りをしていることが多いですが、それでも来館者が来れば化石の鑑定や、魚の説明などをしなければいけません。これはあまりに過酷な勤務形態と言えます。

 先日、そんな彼の疲れを表すかのような出来事がありました。昆虫エリアの実験室から、大量のアリやムカデが逃げ出してしまっていたのです。こうした事故が実際の博物館で起きた場合は、直ちに安全衛生会議で問題にされ、徹底した再発防止策が話し合われることになります。虫を苦手とするフータ館長、普段の疲れもあって思わず管理の手を緩めてしまったのかもしれません。

 今回の事は、彼一人に責任を押し付けるのではなく、ぜひとも村全体でこの問題を考え、博物館の勤務体制と、フータ館長の健康に留意してあげて欲しいと、博物館関係者として切に願います。

自分の部屋をミニ博物館にすることも可能?

 「どうぶつの森」シリーズでは以前から、化石や博物館の表現に力を入れてきました。例えばニンテンドーDS版の「おいでよ どうぶつの森」でも、今作と同じくフータが管理する博物館が登場します。また博物館だけでなく、プレイヤーの自宅にも化石や顕微鏡などの小物を配置することが可能でした。そうした要素は「あつまれ どうぶつの森」でさらに顕著となっています。研究者や博物館関係者の中には、ご自分が普段使われている研究室をゲーム内に再現している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 博物館という存在をずっと大切に扱ってきた「どうぶつの森」シリーズ。その進化から、今後も目が離せません。

追記(2020年8月13日午後5時58分)

メガセロプスの生息域、および一部の誤字を修正しました。

古生物学者/福井県立大学 客員教授

古生物学者。専門は地球科学と3Dモデリング・VR。筑波大学で博士号を取得後、つくば市にある産業技術総合研究所、および地質標本館を経て、2016年に地球科学可視化技術研究所を設立。2019年に福井県立大学 恐竜学研究所の客員教授に就任、2020年に同研究所と「恐竜技術研究ラボ」を始動。日本地図学会、東京地学協会の各委員を務める。主な著書に「おせっかいな化石案内」(誠文堂新光社)、「特撮の地球科学」(イースト・プレス)、「恐竜と化石が教えてくれる世界の成り立ち」(実業之日本社)ほか多数。Eテレ「ビットワールド」出演。「ウルトラマンアーク」科学考証、「日本沈没 -希望の人-」地図監修。

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