「ジュラシック・パーク」ラプトルの正体は? 公開から30年、恐竜はどう変わった
映画『ジュラシック・パーク』(1993年)が今夜9時から「金曜ロードショー」で放送されます。この映画は、映像技術としても、古生物の表現方法としても、非常に革新的な映画で、その人気は衰えることなく今日まで続き、2022年にはシリーズ最新作である「ジュラシック・ワールド/ドミニオン」が公開予定です。
そこで今回は、第一作である「ジュラシック・パーク」が公開されてから約30年の間に、恐竜をはじめとする古生物の学説や、CGなどの映像テクノロジーがどのように変化したのかを見ていきたいと思います。
(映画版と、1990年に原作者マイケル・クライトンによって書かれた小説版とでは、登場人物や恐竜に関する設定がかなり異なります。そのためこの記事では映画版の設定について述べていきます)。
「ジュラシック」とは?
映画のタイトルにも入っている「ジュラシック」とは、地質時代をあらわす用語です。英語で書くと”Jurassic”、つまり恐竜がいた「ジュラ紀の」という意味です。以前執筆したチバニアンの記事でも触れましたがこの「紀」とは恐竜などの古生物が生きていた時代の広い期間を指す言葉で、生物の出現や絶滅のタイミングで時代を区切ったものです。
上の図のように、恐竜がいた時代は約2億5200万年前の三畳紀から、約6600万年前の白亜紀までの期間で、これらをまとめて中生代と呼びます。ジュラ紀は三畳紀と白亜紀との間である約2億1000万年前から約1億4500万年前の期間を指しますが、「ジュラシック・パーク」劇中に出てくる有名どころの恐竜、たとえばティラノサウルスやトリケラトプス、ヴェロキラプトルといった恐竜は、ジュラ紀ではなく白亜紀の恐竜が多いです。白亜紀は英語で言うと「Cretaceous Period(クリテイシャス ペリオド)」ですが、なぜタイトルを「クリテイシャス・パーク」にしなかったのかは、公式資料に記載がないので不明です。
作中設定によればこのパークはインジェン社およびハモンド財団という民間の法人が運営しているテーマパークです。来場者が少なければパークの運営ができませんから、マーケティング上の理由で、語感の良い「ジュラシック」を採用したのかもしれません。その上で、ジュラ紀に限らず様々な時代の恐竜を現代に復元し、「夢の競演」を狙ったとも考えられます。
現代のテクノロジーで恐竜の復元は可能なのか?
作中では様々な恐竜の遺伝情報をもとに恐竜を復元しています。われわれ人間を含む生物の遺伝情報は細胞内にあるDNA、つまりデオキシリボ核酸と呼ばれる物質に格納されています。恐竜の血液を吸った蚊が琥珀の中に閉じ込められているものを発掘すれば、そこから恐竜のDNAが得られるのではないかというのが本作の設定でした。実際、こうした化石の入っている琥珀を発掘することは可能で、2015年には最近では ミャンマーで恐竜の尾が入っている琥珀なども発見されています。
ところが2012年に行われた研究では、DNAが521年という非常に速い速度で、半分に壊れてしまうということがわかっています。つまり1042年たつとさらに半分と、どんどん情報は失われていきます。恐竜がいた時代は6600万年以上も前ですから、恐竜の遺伝情報を現実に取り出すのは難しそうです。
しかし近年、古生物学者たちはDNAの採取に代わる、新たな方法で恐竜を復元しようとしています。
例えば福井県の恐竜学研究所や恐竜博物館をはじめとする古生物の研究機関では、最新のCTスキャンを用いて恐竜の化石の構造から脳の形を復元し、3Dプリンタで復元しています。これにより、恐竜の脳や張力、運動能力なども類推できるそうです。
『恐竜の脳力:恐竜の生態を脳科学で解き明かす (展示については2019年開催で既に終了)』
当時の展示の様子が動画で公開されています。
このように、DNAこそ採取できなかったものの、古生物学者たちは様々な最新の手法を用いて、恐竜の実像に迫っています。今後も新しい発見がどんどん続くことでしょう。
「ティラノサウルス」30年でどう変わった?
「ティラノサウルスに毛が生えた」という記事をネットで頻繁に目にします。実際、図鑑でも、分厚い羽毛で覆われたティラノサウルスの復元図を見かけることがよくあります。こうした復元図が描かれた原因は様々ですが、おもな理由の一つとして2012年に「ユティランヌス」というアジアに生息していた大型肉食恐竜から羽毛の痕跡が発見されたことが挙げられます。そのため、同じ大型の肉食恐竜であるティラノサウルスの復元図にも羽毛が生やされるケースが多くなりました。ただしこれはティラノサウルスそのものに毛が生えていた、という直接の証拠とは言えないため、私が関わっている書籍や監修書、たとえば2018年発刊の『ああ、愛しき古生物たち - 無念にも滅びてしまった彼ら -』では、著者やイラストレーターの先生と協議の上、ティラノサウルスに羽毛を生やさないことにしています(下の図参照、この本では比較のため、あえて毛の生えた復元図も左側に書いています)。
さらに2017年にはティラノサウルスのウロコの化石が発見されています。羽毛はウロコが変化してできたものと考えられているため、ウロコを持つということは羽毛がないことになり、最近の学説ではティラノサウルスは全身をウロコで覆われ、羽毛は生えていたとしても体のごく一部だったのではないかと考えられています。
「ラプトル」はヴェロキラプトルではない?
シリーズを通して登場する重要な恐竜の一つにヴェロキラプトルがいます。実際のヴェロキラプトルは体長約2.5m、体重はわずか25kg程度の小型の恐竜で、劇中で描かれている姿よりもだいぶほっそりしています(全長2.5mと聞くと大きく感じますが、頭の先から長い尻尾の先までを図った大きさであるため、実際のスケール感はより小さいです)。劇中で「ラプトル」と呼ばれている恐竜は、実はディノニクスと呼ばれる、もう少し大型で全長約3.3mの肉食恐竜をモデルにしたそうです 。
このディノニクスは、1969年に米国の古生物学者ジョン・H・オストロムによって命名されたもので、非常にスマートで敏捷な恐竜と考えられたことから、それまでの鈍重な恐竜のイメージを一新し、その後の復元図にも大きな影響を与えました。このように1970年ごろから、それまでの恐竜像を見直す動きが盛んになったことを「恐竜ルネサンス」と呼びます。
ティラノサウルスの復元図もこの恐竜ルネサンスの影響を受けています。1905年にティラノサウルスが命名された当時は、頭を上げて尻尾を地面につけたままのゴジラのような姿でしたが、恐竜ルネサンスに伴って復元イメージが見直され、1980年代後半ごろからは、頭を低くして尻尾を伸ばす前傾型のイメージが普及しています。1993年の「ジュラシック・パーク」で描かれたティラノサウルスもこの復元図の影響を強く受けたと考えられます。
CGとロボティクス
最後に、ジュラシック・パークの映像技術についてみていきましょう。映画の第一作を制作していた当初は、恐竜をCGではなく、特撮の一種である「ゴー・モーション」と呼ばれる技術で表現する予定でした。これは恐竜のミニチュアに少しずつ動きをつけながら低速度のカメラで撮影する手法で、「スター・ウォーズ」の特殊効果でも有名なフィル・ティペット氏が開発したものです。彼はジュラシック・パークにも参加していましたが、その後スピルバーグ監督によって多くのカットをCGで描く方針に転換され、失意したといいます。しかしその後、CGの恐竜にどうやって本物の恐竜らしい「演技」をさせるかが問題となり、そこでフィル・ティペット氏は再び戻ってきます。彼は「ダイナソー・インプット・デバイス (Dinosaur Input Device)」すなわち恐竜入力装置と呼ばれるものを発明して、この問題を解決しました。この装置の見た目は恐竜の形をしたロボットのようになっており、これをパソコンにつないでゴー・モーションの撮影方法と同じように動かすと、センサーがその動きを数値化し、CGの恐竜が連動して動くというものです。
その外にも、映画の後半で登場する、主人公たちと恐竜の群れが並走するシーンでは、走る人間の激しい動きにCGを同調させるマッチムーブと呼ばれる技術を開発したりなど、現在のデジタル映像に繋がる基礎技術がすでに「ジュラシック・パーク」第一作で出そろっていたといえます。
とはいえ第一作ではCGが使用されているシーンは合計で7分。それ以外のシーンは実物大のティラノサウルスの模型を油圧で動かす「アニマトロニクス」技術なども採用されています。
最新作では、ほぼ全ての恐竜はCGとデジタル合成、さらには演者の動きをトレースしてCGと同調させる「モーショントラッキング」などの最新技術によって描かれているようですが、こうした技術が進化した背景には、アナログ技術を含む多くの人たちの開発と努力があったのです。
以上、映画「ジュラシック・パーク」の主に第一作を中心に、科学的、技術的な背景についてお話ししました。ぜひ新たな視点でお楽しみ頂ければ幸いです。
謝辞:ティラノサウルスおよびヴェロキラプトルの復元図の引用をご快諾いただいた著者の土屋健先生、イラストを描かれたACTOWの徳川広和先生、版元の笠倉出版社様に厚くお礼申し上げます。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】