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「認知症」を疑うも病院拒否する親には「ウソも方便作戦」が効果あり?

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 この夏、久しぶりに帰省し顔をあわせた親に異変を感じ、「もしかして、認知症では?」と不安になっている人もいるかもしれません。けれども、専門医を受診させるのはなかなかハードルが高いもの。怒りを買わない勧め方はあるのでしょうか。

●タツヤさん(40代,東京)のケース

父親は認知症!?

 今年7月、タツヤさん(40代,東京)は1年半振りに帰省しました。両親(70代)は、関西地方の実家で2人暮らし。6月、母親から「お父さんが変なのよ」と電話がありました。いつものように、父親は銀行にお金をおろしに行ったのですが、「おろせなかった」と不機嫌な表情で帰ってきたそうです。どうやら、暗証番号がわからなくなったようす。翌日、母親が付き添って銀行のATMに行きましたが、すでにそのキャッシュカードはロックがかかっているようでした。結局、窓口でお金をおろしました。

 母親は認知症を疑っているようで、タツヤさんに「どうしよう」と電話をかけてきたのです。

受診を勧めると怒り出した!

 久しぶりに両親と再会。電話で帰省することは伝えていたのに、父親は「どうしたんだ?」とタツヤさんの帰省に驚いているようす。その後も、「タツヤが帰ってきたなら、今夜は何を食べる?」と母親に繰り返し聞きます。その度、母親は困った表情で、「さっきから言ってるでしょ、今夜は焼き肉」と答えるのでした。

 父親が風呂に入ったタイミングで、母親から「お父さんに受診を勧めて」と頼まれました。母親は近所の友人から、認知症を診てくれる診療所の情報を得ていました。

 タツヤさんは母親に背中を押される形で、翌朝、朝食を食べながら父親に話しかけました。

タツヤ「オヤジ、今日は、病院に行こう」

父親 「病院って、誰が?」

タツヤ「オヤジだよ。ついて行くから」

父親 「僕が診てもらう?どこも悪くない」

タツヤ「銀行でお金をおろせなかったんだろ。もしかして、認知症かもしれないから診てもらおう」

 タツヤさんは、父親を納得させようと、あえて“認知症”と言ったのですが、裏目に出ました。父親はみるみる目を吊り上げ、「何を言うんだ。タツヤ、もう帰れ」と声を震わせながら怒鳴り声をあげたのです。

早期受診は大切

 結局、タツヤさんは、今回の帰省では父親を受診させることができませんでした。

 しかし、病気を疑うなら早期受診は大切です。認知症だと思っても、高齢者特融の“うつ”だったり、薬の飲み合わせが悪いなど他のことが原因のケースも。認知症だとしても、早めに治療を開始すれば進行がゆるやかになり、長期間、安定した状況を維持できた、という声を聞くことも多いです。

「精神科」や「物忘れ外来」を受診することになりますが、提案するのはハードルが高く、タツヤさんに限らず、手をこまねいている子は多いものです。しかし、そのままにしていると、症状が悪化し、本人にとっても家族にとっても良いことはありません。

ウソも方便作戦

 どう言えば、耳を貸してくれるかは親の性格や日頃の親子関係によっても違います。率直に「病気かもしれない」、「早期に診てもらえば、いろんな治療方法があるらしい」と説明してうまくいくケースもあります。しかし、タツヤさんの父親のように地雷を踏むケースも……。

 ”嘘も方便”という言葉もあります。例えば、次のような声掛けをして病院に連れ出すことに成功したケースがあります。

●「70歳以上は全員、認知症の検査を受診することが決まった」

●「今月中だと、認知症の検査は無料。来月からは有料になるよ」

●親の主治医にお願いして、医師から「高齢者の健康診断は脳の検査もセットです」などと言ってもらい、総合病院で検査する

*出典:「親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第2版」(太田差惠子著,翔泳社)

 ただし、「食事に行こう」などと誘って病院に連れて行くことは避けた方が良いでしょう。親が「騙された」と思うと、今後のコミュニケーションに影響します。  

 また、親が反発した場合、「もっとひどくなったら、知らないからね」などとけんか腰になることも控えましょう。あくまで冷静に。

もう一歩進んだウソ

 上記のような方法では、成功しなかったAさん(50代,女性)。義母の認知症を疑っていました。そして、考え抜いて、もう一歩進んだウソを実行。

「お義母さん、実は夫(義母の長男)の認知症を疑っているんです。でも、彼は受診を拒否しています。たいへん申し訳ないのですが、お義母さんが認知症の検査を受けに行っていただけませんか。彼と付き添います。そして、彼にも検査を受けさせます」

 義母は長男の一大事と思ったのでしょう。認知症の専門医を受診してくれました。

「認知症初期集中支援チーム」のサポート

 色々試しても受診させることが困難な場合、公的サポートがあります。適切に医療や介護サービスの利用につなげるもので、「認知症初期集中支援事業」と呼びます。利用できる期間は、初期の最長6か月。

 医師(認知症医)と医療・介護の専門職(保健師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士など)などで構成された認知症の専門チーム。チーム員である保健師、社会福祉士などが家庭を訪問し、本人や家族への支援を行います。

 困ったときには、チームの訪問を受けられないか相談してみましょう。窓口は地域包括支援センターです。相談、支援は無料。

厚生労働省の資料より
厚生労働省の資料より

認知症は身近な病気

 認知症は誰もがかかる可能性がある病気です。認知症になっても本人の意思が尊重され、住み慣れた地域で暮らし続けられるようにしたいものです。

 かと言って、家族だけでなんとかしようとすると、共倒れや、介護離職などを生じかねません。気がかりな状況になったら、1日も早く、医療や介護のプロの力を借りましょう。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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