“エイリアンマニア”の気鋭アートディレクター 偉大な1作目が人生も変えた? さて今回の新作は…
9/6に日本でも公開が始まる『エイリアン:ロムルス』。1979年、リドリー・スコット監督の『エイリアン』はSFホラーの金字塔として、その後の数多くの作品に影響を与えた。それから45年。「エイリアン」シリーズではさまざまな作品が誕生。監督たちにも錚々たる名前──ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、ジャン=ピエール・ジュネ──が連なったが、1作目のセンセーショナルな衝撃と興奮を超えられたか、そこには意見が飛び交うだろう。
しかし2024年に完成した『エイリアン:ロムルス』は、1作目『エイリアン』を愛した人から予想外の高い評価を得ている。時系列としては『エイリアン』の20年後、2142年の物語。つまり正統な“その後”の時間が描かれる(『エイリアン2』は2144年)。漂流する宇宙ステーションに向かう若者たち。そこで待っていたのは、地球外生命体の信じがたい攻撃だった……。監督は、『ドント・ブリーズ』のフェデ・アルバレス。リドリー・スコットは製作として参加した。時間のつながりだけでなく、映画の資質として、1作目の魔力を鮮やかに引き継いだと言っていい。
今回の新作でも高まる期待をアートで表現
1作目に夢中になり、今回の『エイリアン:ロムルス』を絶賛する一人が、アートディレクターとして活躍する土井宏明さん。『ブレードランナー』の原作であるフィリップ・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」や、やはり何度か映画化されたスタニスワフ・レムの「ソラリス」の装幀デザインをはじめ、ジャンルを超えてアートワークを手がける彼は、大の“エイリアンマニア”でもある。かつてエイリアンのコレクションが雑誌「BRUTUS」で紹介されたことも。今回も『ロムルス』への期待感から、ファンアートを制作してしまったほどだ(本記事のトップ画像。リングは30年前、公式で作ったジュエリーブランドから購入。現在は入手不可)。
「『エイリアン2』以降も、公開時は夢中になって観ていました。でも何度も見返したくなる“耐久性”となると、1作目の『エイリアン』を超える作品は現れませんでした。しかし今回は、1作目に匹敵する魅力を感じたのです。冒頭から胸ぐらをつかまれてしまって……」
小学生の時にリドリー・スコットの1作目を劇場で観たという土井さん。45年ぶりに同じような体験を味わえた喜びを興奮気味に語る。
「リドリーが『エイリアンは、おばけ屋敷映画のようなもの』と語っていますが、そんな“おばけ屋敷”的に驚かせる、ゴシックホラーの古典のような演出が踏襲されていたんです。1作目の攻撃方法がトレースされたりとリスペクトに溢れ、とはいえ、そこが突出しておらず、匙加減が絶妙でした。『スター・ウォーズ』のファンでもある僕は、『マンダロリアン』に出会って『これが観たかったんだよ!』と幸せな気分になりました。『ロムルス』もその感覚。つまり理想的な続編ということですね」
そして“胸ぐらをつかまれた”理由のひとつが、ディテールだという。『エイリアン』から『ロムルス』までのタイムラグは、わずか20年。メインの舞台となる宇宙ステーションの内部に、土井さんの心は思わず萌えた。
「1作目ではコンセプト・アート/デザイナーをロン・コッブ(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンなどをデザインした人)が担当しましたが、彼の作成したグラフィックを今回もモニターの中に発見できました。また、ウェイランド・ユタニ社のロゴがあちこちに出てくるのにも興奮! 日系企業の世界的進出がめざましかった時代の1作目で、あのロゴがカッコいいと感じていたので嬉しかったです。船内の音も、1作目をきちんと踏襲していて感激しました」
ポイントでCGIが「使われなかった」喜び
『エイリアン』の後、『エイリアン2』から『エイリアン4』までは、リドリー・スコットが関わることはなかった。2012年の『プロメテウス』、2017年の『エイリアン:コヴェナント』ではリドリーが監督を務めたが、これら以上に今回の『ロムルス』が土井さんの心を打ち震えさせたのは、アナログ=原点への回帰だった。
「ゼノモーフ(1作目の最終形態)がCGIではなく、アニマトロニクスや着ぐるみで表現されたことに胸が熱くなりました。『コヴェナント』ではエイリアンがCGIで再現され、そこがうまくいっていないと感じたので、なおさらです」
1作目からずっとシリーズを見守ってきた土井さんのようなマニアをこうして歓喜させる一方で、そうではない人にアピールする点もある。たとえばシリーズで初めて試みられた、宇宙空間ならではの「ある演出」(これはぜひ本編で確認してほしい)。土井さんも「この演出、アトラクションにしてもいいのでは? それくらい新鮮」と語る。また、「音の使い方でいえば、明らかに『2001年宇宙の旅』の冒頭、モノリスの登場シーンが意識された演出がありました」と、他の名作へのオマージュを感じたことにも話が広がる。
そして『ロムルス』を観て、改めてこのシリーズの独自性を高く評価したいという。
「1979年の『エイリアン』から、この新作『ロムルス』まで、主人公はすべて女性です。たまには男性でもいいのでは……と思わせつつ、そこは徹底されましたね。現在の他の映画の流れを見るにつけ、明らかに時代の先取りをしてきたのではないでしょうか」
異形のものに惹かれる子供の本能
小学生の時に『エイリアン』を劇場で観た土井さんは、頭と手足はあるのに想像を超えた造形、そんなH・R・ギーガーのデザインに心酔した。後に、そのデザインが性器をモチーフにしたことに驚いたそうで、まがまがしさ、美しさが共存する不思議さが、現在のアートディレクター、デザイナーとしての素地に寄与したのかもしれない。
幼い頃から怪獣など“異形のもの”に惹かれていた本能が、『エイリアン』への愛に結びついたと土井さんは自身の嗜好の源を分析するが、こうした本能は多かれ少なかれ誰の中にも潜んでいるもの。幸いにもR15+などに指定されていない『ロムルス』なので、小学生だった土井さんのように、現在の子供たちに、未知の才能を開花させるポテンシャルもあるのではないか。
土井さんの言葉を借りれば──
「残酷描写がないのに怖い…そして美しい」。
それが『エイリアン:ロムルス』の魅力なのだから。
土井宏明 Hiroaki Doi
アーティスト/アートディレクター
デザイン会社ポジトロンを主宰。ブレードランナー原作フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」やスタニスワフ・レム「ソラリス」の装幀デザインなど手掛ける。ジャンルやメディアにとらわれない幅広いアートワークを行っている。
※『エイリアン:ロムルス』以外の画像は土井さん提供
『エイリアン:ロムルス』
9月6日(金)全国劇場にて公開
(c) 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン