ホロコースト生存者がVRで収容所へ「The Last Goodbye」がルミエール賞VR部門を受賞
ナチス時代のユダヤ人大量虐殺ホロコーストの犠牲者で絶滅収容所をVR(仮想現実)で表現したショートフィルム「The Last Goodbye」が2017年4月に開催されたトライベッカ映画祭で公開された。そして「The Last Goodbye」がルミエール賞2018でVRドキュメンタリー賞を受賞した。
「The Last Goodbye」は、ポーランドにあったマイダネク絶滅収容所の生存者である85歳のPinchas Gutter氏が、VRで自身が収容されていた収容所を案内する内容で、Gutter氏の証言を元に16分にまとめられた短いフィルム。2016年7月から撮影が開始され、30,000枚以上の写真を元にVRで当時の様子を再現。実際にGutter氏も収容所跡地を訪問して証言や解説をした。Gutter氏は解放後、何回も収容所を訪問したが、これが最後の訪問になるだろうということでフィルムのタイトルは「The Last Goodbye」となったそうだ。
VR制作を担当していたTim Dillon氏は「私たちは、VRを活用して新たなドキュメンタリーの制作を行うことができた。マイダネク絶滅収容所の空間をVRで再構築できた。Gutter氏の語りに耳を傾け、そこであたかもGutter氏と一緒にいるかのような体験をすることができるようになった」とコメントしている。
求められている想像力
Gutter氏は11歳でマイダネク絶滅収容所に収容され、両親と双子の姉妹は他の78,000人のユダヤ人、ポーランド人、ソ連人らとともに、そこで殺害された。
絶滅収容所はユダヤ人らを殲滅することを目的として建設された。写真なども限られていて当時の様子をリアルに表現できるGutter氏のような生存者も年々少なくなっている。21世紀の現在を生きる我々にはナチスによる600万人以上のユダヤ人らが殺害されたホロコーストや絶滅収容所の様子を追憶することはできない。それでもGutter氏の証言で再現されたVRによる映像から当時の様子を垣間見ることは可能だ。
デジタル技術の進展によって、ホロコーストの教育や保存にVRが活用されてきている。ホロコーストの生存者は既に高齢であるため、記憶が鮮明で体力があるうちに記憶のデジタル化を進めようとしている。VRでの描写だから写真や本よりは、リアリティはあるだろうが、それでも絶滅収容所という地獄は100%再現できるわけではない。当時の絶滅収容所の臭い、温度、不衛生な環境、恐怖や悲しみといった人々の感情、飢え、強制労働、暴力、虐待、殺害といったそこでの地獄を本当に再現し追想できるのはGutter氏のような体験者だけだ。現代の我々に求められるのはVRから当時の様子を思い描く想像力だ。
以下は1分間にまとめた紹介動画。