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ランジャタイ、マヂカルラブリー、真空ジェシカ……「地下芸人」が注目されている理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

最近、テレビ番組で「地下芸人」という言葉をよく聞くようになった。3月17日放送の『ダウンタウンDX』では「新時代到来!?地下芸人SP!!」というテーマが取り上げられ、「地下ライブ」と呼ばれる小規模なお笑いライブで腕を磨いてきた「地下芸人」が多数出演していた。このときに出ていたのは、モグライダー、真空ジェシカ、オズワルド、ランジャタイ、ぺこぱ、ハリウッドザコシショウ、チャンス大城というメンバーだった。

また、3月26日放送の『さんまのお笑い向上委員会』でも、地下芸人のオダウエダが先輩の地下芸人であるチャンス大城、岡野陽一から生き方を学ぶという企画が放送されていた。

地下芸人がお笑いコンテストで活躍

ここへ来て地下芸人が改めて注目されているのは、最近のお笑いコンテストで地下のにおいを感じさせる芸人が相次いで結果を残しているからだ。

たとえば、2020年の『M-1グランプリ』で優勝したマヂカルラブリーは、デビュー当初は地下ライブで腕を磨いていたれっきとした地下芸人だった。地下芸人らしさのある型破りな漫才を演じていたため、『M-1』で優勝した後も一部の人から「あれは漫才ではない」などと批判されたりした。

また、2021年の『M-1』では、ランジャタイ、真空ジェシカ、モグライダーという地下ライブでカリスマ的な人気を誇る3組の芸人が決勝に進んで話題になった。ランジャタイや真空ジェシカは、決勝の舞台にも小道具を持ち込んで、コメントを求められた場面ではそれを使ってボケまくり、地下芸人らしい悪ふざけを繰り返して視聴者を驚かせた。

芸人の大半が「地下芸人」とも言える?

「地下芸人」という字面だけを見ると、テレビでは放送できないような過激な笑いを追究している芸人をイメージする人もいるかもしれない。だが、決してそういうわけではない。もちろん刺激的なネタを披露する芸人もいるのだが、全員がそういう芸風とは限らない。

そもそも、お笑い界全体では数千人から数万人の芸人がいると考えられているのだが、その中で世間に広く名前を知られているのは、テレビに出て活躍しているほんの一握りの芸人だけだ。それ以外の芸人は、ほとんどテレビに出ることもなく、お笑いライブに出演している。

いわば、定義上はほとんどの芸人が「地下芸人」であるとも言える。だからこそ、地下芸人にもいろいろなタイプの人がいる。いかにも地下っぽいテレビでは放送できないような過激なネタをやる人もいれば、テレビでもそのまま通用しそうな正統派のネタをやる人もいる。

地下芸人には独特の荒々しさがある

芸人である限り、見る人を笑わせたいという気持ちは地上でも地下でも変わらない。「地下芸人らしさ」というのがあるとすれば、それは「自分が面白いと思う限りでどこまでも思い切ったことをやるべきである」という心構えのようなものだろう。

そういう意味では「良くも悪くも荒っぽい」というのが地下芸人の特徴である。マヂカルラブリーの野田クリスタルはかつて「『エンタの神様』が人気だった頃、自分のまわりの地下芸人が一斉にエンタっぽいリズムネタをやり始めた」と語っていたことがある。地下芸人だからとがっているとか世間に迎合しないというわけではなく、むしろ長いものには巻かれるようなちゃっかりしたところもあるというのだ。

地下っぽさとは、料理にたとえるならスパイスのようなものだ。基本的な味つけを整えた上で、適切な量のスパイスが加えられると風味が増す。しかし、くすぶっている時期が長い地下芸人は、往々にしてスパイスの量を増やしすぎて、世間で求められていることから離れてしまう。

最近、地下芸人がテレビという「地上」に這い出てスポットを浴びているのは、お笑い界全体が活気づいている証である。ルール無用の地下芸人が続々と出てきて活躍するようになれば、テレビのお笑いシーンもますます刺激的で面白いものになるだろう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『この芸人を見よ! 1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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