Yahoo!ニュース

南スーダン自衛隊「駆けつけ警護」の愚―現実的な対応を

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
首相官邸前で駆けつけ警護の閣議決定に反対する人々。筆者撮影。

安倍政権は、内戦状態にある南スーダンに、国連のPKO部隊として派遣される自衛隊に、安保法制に基づいて「駆け付け警護」の任務を新たに付与することを、昨日15日に閣議決定した。武器使用の範囲が拡大され、実際に戦闘を行う可能性が高いため、駆けつけ警護は憲法やPKO協力法に反する恐れがあることが指摘されている。同日の朝、首相官邸前には、約350人(主催者発表)が集まり抗議、野党国会議員らも安倍政権の方針を批判した。

◯「戦死者を出すな」首相官邸前で抗議

抗議行動は、安保法制に反対し、その廃止をもとめる「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の呼びかけで行われた。朝8時前という早い時間にもかかわらず、集まった人々は「(駆けつけ警護の)閣議決定絶対反対」「戦争法の発動許すな」と、叫んだ。

野党の国会議員らも抗議活動に参加、民進党の近藤昭一衆議院議員は「9条の精神を活かした平和的な貢献をするべきです」と訴えた。共産党の高橋千鶴子衆議院議員は、地元の青森から自衛隊の部隊が南スーダンに派遣されることを報告。「自衛隊員の家族には心配するな、とで説明がされていますが、心配するなというのは無理です」と、現地情勢の実態にそぐわない安倍政権の主張を批判した。社民党からは福島瑞穂参議院議員が参加、「戦死者を出してはいけない」と述べた。

抗議の主催者側は、安保法制廃止を求める署名が1580万筆集まったことを報告。今月19日14時から衆議院第2議員会館前で抗議活動を行うとし、参加を呼びかけた。

◯南スーダン駆けつけ警護の問題点

南スーダンへの自衛隊のPKO活動は、問題だらけだ。端的にまとめると、以下の様な点が指摘されている。

・憲法上の問題がある―南スーダン軍と交戦の恐れ

・PKO協力法にも反する―停戦が実現したとは言い難い

・最も必要とされる支援は、駆けつけ警護ではない

政府軍と反政府軍が内戦状態にある南スーダンでは、自衛隊が対峙することになる「武装勢力」は、南スーダン正規軍である場合も大いにあり得る。だが、これは国の交戦権を否定した憲法9条にあからさまに違反する

また、国連PKO活動に関するPKO協力法においても、自衛隊が派遣できる条件の一つとして「紛争当事者間で停戦合意が成立していること」があげられているが、つい先週11日も国連が「南スーダン対立激化で大量虐殺の恐れがある」と警告したばかり。停戦とは程遠い状況だ。

現地情勢の悪化で国内外に避難している人々の数は260万人以上にのぼる中、自衛隊が現地に派遣されても、できることは限られている。日本は、2013年12月以降、総額約38億7300万円の対南スーダン支援を実施しているが、ただ金を出すだけではなく、一刻も早い停戦の実現と、虐殺や略奪を行っている政府軍兵士の規律引き締めなどを南スーダン政府に強く求めることが重要だ

憲法にも、PKO協力法にも反し、自衛隊員のリスクに対する、南スーダンの状況の改善という効果も薄い。安倍政権は、安保法制の実施という、自らのメンツを優先するよりも、真に日本が世界から感謝され、かつリスクの低い国際貢献のやり方を考え、実行していくべきだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

志葉玲のジャーナリスト魂! 時事解説と現場ルポ

税込440円/月初月無料投稿頻度:月2、3回程度(不定期)

Yahoo!ニュース個人アクセスランキング上位常連、時に週刊誌も上回る発信力を誇るジャーナリスト志葉玲のわかりやすいニュース解説と、写真や動画を多用した現場ルポ。既存のマスメディアが取り上げない重要テーマも紹介。エスタブリッシュメント(支配者層)ではなく人々のための、公正な社会や平和、地球環境のための報道、権力や大企業に屈しない、たたかうジャーナリズムを発信していく。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

志葉玲の最近の記事