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問題は主力不在にあらず! 森保ジャパンが抱える問題の本質は何か?【ベネズエラ戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

迷った時に立ち返るべき原点

 確かに、まだ1度もW杯を経験したことのないベネズエラを相手に、計4つのゴールを与えてしまった前半の45分間は、森保ジャパンの信用力を低下させるには十分すぎるほどのインパクトがあった。

 しかし、それが予想を上回る醜態だったことは別として、現在の日本がこのような試合を見せる兆候があったことは、キルギス戦の後に触れた通り。これは起こるべくして起こった現象であり、必然の惨敗だったといえる。

 5日前に行われたアウェイのキルギス戦とは別のメンバーリストで臨んだベネズエラとの親善試合。森保監督は、植田、柴崎、原口の3人を除く8人を入れ替えてこの試合に臨んでいる。

 そういう点で、惨敗の原因の多くが吉田、酒井、長友、南野といった主力の不在にあった、あるいは控えメンバーの実力不足と考えるのも当然だ。特にこの試合の最終ラインに吉田、酒井、長友がいれば、さすがに前半で4失点を喫することはなかっただろう。

 しかし、それはこの試合に限っての敗因のひとつにすぎず、その視点からは現在森保ジャパンが抱えている問題の本質にメスを入れることはできない。

 たとえば、キルギス戦のスタメンではなく、この試合で先発した8人(川島、室屋、畠中、佐々木、橋本、中島、浅野、鈴木)は、いずれも森保ジャパンでの出場経験を持つ選手ばかり。初出場の選手はひとりもいない。

 しかも過去には、これ以上の大幅なメンバー変更を行い、いわゆるBチームを編成して国内親善試合に臨んだこともあった。去年10月のパナマ戦(○3-0)と11月のキルギス戦(○4-0)、今年3月のボリビア戦(○1-0)と6月のエルサルバドル戦(○2-0)などがそれにあたる。

 しかしそれらの国内親善試合では、結果はもちろんのこと、今回のベネズエラ戦のような失態を見せることはなかった。にもかかわらず、この試合で森保ジャパンのサッカーが崩壊した理由は何か? そこに、問題の本質が隠されている。

「攻撃では、ビルドアップやシュートまでつなげる部分でパスの連係連動、クオリティの部分が少し足りず、相手につけ込まれた。ディフェンスでは、ボール保持者に対して間合いが遠く、うまくプレッシャーをかけられずに失点を重ねた。そこは反省しないといけないし、今日の敗因だと思います」

 森保監督は、試合後の会見でこのように敗因を口にしたが、奇しくもそこに現在の森保ジャパンが抱える問題が集約されている。つまり目指していたはずのサッカー、掲げるコンセプトが何ひとつ実践できなかったことを、自ら告白したことになる。

 しかし、それらはベストメンバーで戦っているアジア2次予選の試合においても見て取れた現象でもある。このような惨敗につながらなかったのは、対戦相手のレベルと日本の主力選手の経験値に助けられたからであり、チームとして見た場合、今回の惨敗につながるだけの材料は随所に見て取れた。

 ひと言で言えば、中途半端な放任主義によるチーム戦術の劣化である。

 森保ジャパンの色が最も出ていたのが立ち上げ3戦目のウルグアイ戦(2018年10月16日)だとすれば、アジアカップを境にチーム強化は“停滞”に突入し、9月のアジア2次予選からはそれが“劣化”へと歩みを進めている。

 過去の試合でできていたこと、やっていたことが、現在はできなくなってしまった。だから、4-2-3-1を採用しながら攻撃時に3-4-2-1に可変する森保流スタイルがお目見えすることもなくなった。

 そしてその原因の多くは、西野ジャパン時代にコーチを務めたことが影響し、森保監督が選手任せのチーム作りを進めていることにある。自己修正力のある主力が不在となれば、その力が不足する選手たちがベネズエラ相手に醜態をさらすのは当然だ。

 それに加えて、指揮官自身にベンチからその修正力を補うことができないことも、問題をさらに根深くする。

 1-4でリードされた中で迎えたこの試合の終盤、原口を下げて井手口を投入。後半から採用した4-2-3-1の左ウイングとボランチの中間でプレーさせるという謎の采配などは、その典型。抱える問題の解決策を、より複雑なものにする。

 迷った時に立ち返るべきは原点である。森保ジャパンの場合、それは昨年10月のパナマ戦ウルグアイ戦であり、そこに問題解決のヒントが隠されているはずだ。

 果たして指揮官には、時計の針を大きく巻き戻し、自らの原点に立ち戻る勇気はあるのか。それとも、積み上げという幻想の下、現在の流れのまま選手の自主性とその中での成長を待ち続けるのか。

 そのいずれにしても、今回の惨敗をきっかけにベストメンバー志向をより強め、問題の本質を覆い隠そうとすることだけは避けるべきだろう。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】川島永嗣=5.0点

コパ・アメリカのエクアドル戦以来の先発復帰が4失点という惨劇に。4失点ともGKに責任はないが、乱れた守備陣を修正できず。経験豊富なベテランが先発した意味はなかった。

【右SB】室屋成=5.0点

1失点目のシーンでクロスを許すなど、相手18番に翻弄されて前半は散々な内容。ファールで止めるシーンも目立った。後半は果敢に攻撃参加するも効果的なプレーは少なかった。

【右CB】植田直通(HT途中交代)=5.0点

2失点目の発端となるミスパスを犯した他、最終ラインのコントロールができず。ポジショニングのミスも目立った。周囲とのコミュニケーションも必要。負傷により前半で退いた。

【左CB】畠中槙之輔=5.0点

佐々木との関係構築ができておらず、前半は混乱気味の守備対応が目立った。後半は持ち前のビルドアップで何度か存在感を見せたが、それ以上に守備面の課題が浮き彫りに。

【左SB】佐々木翔=4.5点

持ち味でもあるエアバトルで完敗した他、全4失点に絡んだ。4バックの左SBとは思えないようなポジショニングと守備対応を見せ、不適格であることを改めて証明してしまった。

【右ボランチ】柴崎岳=5.0点

後半に何度か持ち味を見せたものの、90分を通して単純なミスやボールロストが目立った。自陣ボックス付近の守備の甘さも含め、個人の課題が改善されていないことが証明された。

【左ボランチ】橋本拳人(65分途中交代)=4.5点

ボールロスト、ミスパス、不用意なファールなど、過去最低のパフォーマンス見せてしまった。自陣ボックス付近の柴崎との関係性も曖昧で、最終ラインに多くの負担を負わせた。

【右MF】原口元気(82分途中交代)=5.0点

キルギス戦同様、ハーフスペースにポジションをとることを意識しすぎて本来の持ち味を失いつつある。いつものようによく走ったが、存在感がなかった主な原因はそこにある。

【左MF】中島翔哉=5.0点

得意のドリブルでチャンスを作ってシュートも放ったが、相変わらず自由なプレーで周囲にしわ寄せが。チームとして守備を安定させたいなら、中島を中央に固定させるしかない。

【FW】鈴木武蔵(HT途中交代)=4.5点

浅野と2トップを組んだが、お互いが連係することもなく、ボールを収めることもできず。前半25分に胸トラップからシュートを放ったシーン以外に見せ場はなく、前半で退いた。

【FW】浅野拓磨(65分途中交代)=5.0点

後半64分に強烈なシュートを放ったが、シュートはその1本のみ。鈴木とのコンビネーションもなく、持ち前のスピードも生かし切れず。使いどころの難しい選手になりつつある。

【MF】古橋亨梧(HT途中出場)=5.5点

鈴木に代わって後半開始から途中出場、右ウイングでプレーした。アグレッシブな動きで好印象を残したものの、クオリティ的にはもうワンランク上げないと国際試合では厳しい。

【DF】三浦弦太(HT途中出場)=5.5点

負傷の植田に代わって後半開始から途中出場。得点差がついている中、相手の攻撃の圧力が弱まったこともあり、無難にプレーした。とはいえ、爪痕を残せたわけではなかった。

【MF】山口蛍(65分途中出場)=6.0点

橋本に代わって後半65分から途中出場。69分に永井のクロスを右足で振り抜くと、相手DFに当たってネットを揺らした。それ以外も無難にプレー。得点を決めたので+0.5点。

【FW】永井謙佑(65分途中出場)=5.5点

後半65分から途中出場。積極的に相手にプレッシャーをかけてミスを誘った他、日本唯一のゴールをアシストした。ただ、ボール扱いを含めたクオリティの部分に課題が残る。

【MF】井手口陽介(82分途中出場)=採点なし

後半82分に原口に代わって途中出場。出場時間が短く採点不能。左ウイングとボランチの間の曖昧なポジションでプレーし、謎の采配の犠牲者となった。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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